私たちは、子どもに「オノマトペ(擬音語・擬態語)」を使って話しかけるとき、単なる赤ちゃん言葉やコミュニケーションのツールとして使っています。
でも実は、音の響きから形やイメージを直感的に捉える「音象徴」の能力こそが、子どもの言語学習を加速させる最大のカギでした。
赤ちゃんが生まれつき持っている「共感覚」の素地と、オノマトペによる直感的な理解が組み合わさることで、3歳児の言葉の習得力は驚くほど高まります。
今回は、言語学の最新実験や脳計測データから、音と形の錯覚が子どもの語彙力をすくすくと伸ばす「共感覚」の不思議に迫ります。
音に色が見え、光に音を感じる――赤ちゃんは誰もが「共感覚者」
「共感覚」を知っていますか? 共感覚への関心は高く、日本科学未来館で行う私の研究室の子ども実験でも人気です。「1」は「赤」で、「レ」は「黄色」といったように、特定の数字や文字に色が見える人がいれば、特定の音を聞いて色が見える人もいます。筆者の知り合いはアルファベットの単語を色の配置で暗記していて、共感覚の存在を知るまでは、誰もがそのように単語を暗記するものだと思っていたそうです。

共感覚とは、ある感覚を感じたときに、感じるはずのない別の感覚を感じる現象です。ロンドンの科学博物館では、共感覚を調べる展示がありました。来館者を対象に大規模な調査を行い、共感覚者の割合を調べるもので、スコットランドのエジンバラでも行われていたそうです。結果、人口のおよそ1~2パーセントが共感覚者だとわかりました。ノーベル賞を受賞した物理学者ファインマンも共感覚者として知られています。
共感覚者は特別とみられる一方で、誰もがその素地を持つ可能性があります。カナダの発達心理学者ダフネ・マウラは「赤ちゃんは共感覚者」と主張します。大人の五感はそれぞれ脳の別々の場所で処理されますが、新生児は五感の境界が分化せず、感覚を超えて共通の特徴をもとに世界を知覚している可能性があります。それを新生児共感覚と名付けたのです。
その証拠となるのが、生後1か月児の実験です。心理学者リューコビッツは、「光の明るさ」と「音の大きさ」という異なる刺激を、感覚の枠を超えて同じ「強さ」として赤ちゃんがとらえることを示しました。実験では、同じ明るさの光を繰り返し見せて、明るさを学習させます。その後、ノイズ音の大きさをいろいろと変えて聞かせ、音への心拍反応を調べたのです。
結果、赤ちゃんは、光と同じ強さの音にはドキドキせず、光の強さとは違う音にはびっくりしてドキドキしました。視覚と聴覚の違いにもかかわらず、同じ強さを感じ取ったのです。別の赤ちゃん実験から、強さだけでなく、リズムやテンポなども、感覚を超えて共通に感じることがわかりました。
ただし大人と赤ちゃんの共感覚のメカニズムは違います。マウラによれば、生後すぐの感覚の結びつきは脳の未分化に由来し、発達によって脳の役割は分化するものの、学習による新たな結合が作られるといいます。
尖った形は「キキ」、丸い形は「ブーバ」 生後11ヶ月の脳活動が明かす、音と形の秘密
私たちの実験室で行った、ブーバ(bouba)/キキ(kiki)の脳活動の実験を紹介しましょう。ブーバ/キキは、文化を超えて誰もが感じる視覚と聴覚の共通性として有名で、共感覚のすそ野の広さを示す例です。

図を見てみましょう。丸い形と尖った形、どちらがブーバで、どちらがキキでしょうか。あらゆる文化の人々が一致して丸い方をブーバ、尖った方をキキと対応づけます。その理由はいまだ議論中ですが、ブーバは口を丸めて発する滑らかな音、キキは破裂音で尖った印象の音であり、音の響きと見た目との間に、何らかの共通性があるとみられています。
ブーバ/キキの脳活動の計測は、言語を話せない生後11か月児を対象に、言語学の今井むつみ氏と共同で行いました。ブーバ/キキは誰もがわかる共感覚のアイコンとされる一方で、言語学的には音象徴性が高い(音から意味を推測しやすい)といわれます。
実験では、ブーバ/キキに対応する複数の形を作って、赤ちゃんの脳活動を近赤外分光法(NIRS)で計測しました。丸い形をモマ(moma) ギザギザした形をキピ(kipi)としました。丸い形を見せた時に「モマ・モマ……」と形に合った音を繰り返し流す場合と、ギザギザした形を見せた時に「キピ・キピ……」と一致した音を繰り返す場合、そしてキピとモマの音と形の関係をすり替え、形と音を一致させない場合で脳活動を比較しました。
実験の結果、形と音が一致したとき、右上側頭部に強い脳活動がみられました。その傾向は丸い形とモマの音で強く出ました。重要なのは、この活動部位です。なんと、言葉を話せない赤ちゃんのブーバ/キキに反応して活動した脳の場所は、大人が「オノマトペ(擬音語・擬態語)」を聞いたときに活動する場所(右後部上側頭溝rSTS)に相当すると考えられるのです。この11か月児の結果は共感覚を示すだけではなくて、音象徴と言語学習をつなぐ発達の足掛かりを示した証拠としても考えることができるのです。
3歳児の習得スピードが激変! オノマトペが促進する言葉の学習
音象徴の代表例として、日本語のオノマトペがあげられますが、実際にオノマトペは、子どもの言語発達を手助けする可能性があります。オノマトペは『いっしょにみるこちゃん』でも登場します。
日本語を話す親は、子どもに向けてオノマトペをよく使います。これを支持する研究では、日本語を使う親は、場面の説明を求められたとき、子どもに対しては大人に対するよりも多くのオノマトペを使いました。
今井むつみ氏の研究に、人工的に作った言葉を学ばせる実験があります。日本人の子を対象に、チョカチョカとかヨトヨトといった、音と動作の間に関係のありそうな音象徴性の高い言葉と、チモルやネケルといった関係性の低い言葉を作って、ある動作を示す言葉として学習させました。結果、3歳児は、ヨトヨトなどの音象徴的な言葉の方が学習しやすかったのです。赤ちゃんは音象徴的な音に敏感な上に、親がこうした音を含む言葉を多く発します。この2つの関係が、言葉の学習を促進すると考えられるのです。
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