それまで誰にでもニコニコしていた赤ちゃんが、ある日突然泣き出す——。
赤ちゃんの人見知りは、子育て中でも多くの人が経験することですよね。
けれど赤ちゃんは、なぜ「知っている人」と「知らない人」を区別するようになるのでしょうか。
その背景には、顔や表情を見分けて、人の気持ちを学んでいく赤ちゃんならではの発達がありました。
今回は、赤ちゃんの人見知りが始まる時期に起こる、“顔を認識するための大きな変化”を見ていきましょう。
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赤ちゃんが顔を見分けるゴールのひとつは、「人見知り」といえるでしょう。初対面の赤ちゃんと仲良くしようとして泣きだされる、あれですね。人見知りの強弱には個人差もありますが、あやそうとすればするほど、泣きやまなくなる。気をもめばもむほど、泣き方はひどくなる。火がついたように泣き叫ばれることもありますよね……。
生後半年から1歳頃に見られるこの厄介な人見知りが、顔を見分けるゴールというのは不思議に思えるかもしれません。
そんな人見知りにあったら、少し距離を取って赤ちゃんから視線をそらすと良いでしょう。こちらから赤ちゃんに視線を向けることを避けて、赤ちゃんに観察してもらうのです。そうすると、落ち着く子もいます。言い方は悪いですが、けんかを仕掛けてきそうなサルに対応するのと同じです。動物に目を合わせることは、けんかを売っていることになるのです。もちろん赤ちゃんは、けんかを仕掛けているのではありません。知らない人に見られるのが嫌なのです。
人見知りの解決策があるとしたら、顔見知りになるしかありません。とにかく観察され、慣れた人になるのです。お年寄りは赤ちゃんに人見知りされやすいといわれていますが、これは、見慣れていないゆえに起こる証拠のひとつでしょう。
見おぼえのない顔を見て泣きだす人見知りには、赤ちゃんの中に
(1) “見知らぬ他者”という存在ができたこと
(2) “見られている”という社会的な意識の芽生えができたこと
このふたつの大きな成長ポイントがあるのです。
人見知りの始まる生後6~8ヶ月にかけて、赤ちゃんの顔を見る能力は格段に発達していきます。
人見知りが成立するためには、知っている人と知らない人の区別が必要ですが、それは、顔であればなんでも好きだった新生児の頃からの一大革命。顔好きがゆえに赤ちゃんはたくさん顔を見て学習し、それがある一定のレベルに達したところで、「知っている・知らない」の境界ができ上がるのです。(ちなみに人見知りの個人差には、知らない人への恐怖の耐性という生まれつきの違いもありますが、見知った人の多さも影響すると言われています)
人見知りが起こる前後では、表情の好みも変わるようです。
赤ちゃんがよく見るのは、どんな表情だと思いますか?
お母さんや周りの人たちが赤ちゃんに見せる、スマイリーのような笑顔。これが表情の基準として実験で使われています。笑顔と、赤ちゃんが普段あまり目にしない怖がった顔との好みを比べた実験では、生後4ヶ月の赤ちゃんは、笑顔を好むことがわかりました。これは想定された結果でしたが、人見知りの始まる生後半年頃になると、笑顔を好まなくなったのです。見知った笑顔から見知らぬ表情へと好みが変わるのは、人見知りとは逆で不思議ですよね。

アメリカの発達心理学者・ネルソンは、赤ちゃんの表情学習について説明しています。赤ちゃんはまず、日常でもっともよく目にする「笑顔」から学習を始めます。そのため、生後4ヶ月頃までは、見慣れた笑顔を好むことがわかっています。ところが、生後半年頃になると変化が起こります。笑顔を十分に見慣れた赤ちゃんは、今度は“見たことのない表情”に強く興味を示すようになるのです。
これは前回の記事でご紹介した「いないいないばあ」の話にも当てはまるのですが、赤ちゃんが予想しなかった顔に大喜びするのは、“見慣れない表情”だからなのです。
人見知りが始まった赤ちゃんの「新しいもの好き(新奇選好)」を利用した実験も行われています。たとえば、いろいろな人の笑顔を何度も見せて慣れさせたあと、怒った顔を見せる。すると赤ちゃんは、「今までと違う」と感じて長く見るようになります。
つまり赤ちゃんは、「この人の顔」ではなく、「笑顔」や「怒った顔」といった“表情そのもの”を見分けられるようになっているのです。
顔を見る経験が、赤ちゃんにとって表情の理解にどれほど影響するのかを調べた研究もあります。
大人との関わりの中で特殊な環境で育った子どもたちを対象にした実験では、日常的に接してきた大人の表情が、子どもの表情の受け取り方に影響を与えることがわかっています。
例えば、親の育て方などによって、怒った表情を頻繁に見て育った子は、相手の表情を“怒っている”と受け取りやすくなる傾向があり、逆に、人との関わりの機会が失われた子は、表情そのものを読み取ることが難しくなることもあったのです。
つまり子どもたちは、生まれつき表情を理解しているのではなく、周囲の人の顔や表情を毎日見ることで、「人の気持ち」を少しずつ学んでいるのです。
赤ちゃんは、毎日たくさんの顔を見ながら、少しずつ表情の違いを学んでいます。
笑顔は安心する顔。
知らない表情は、少し気になる顔。
そんな経験を積み重ねることで、「知っている人」と「知らない人」の区別も育っていきます。人見知りは、赤ちゃんが“人を分かろうとしている”という成長のあらわれなのですね。
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次回は、「なぜ赤ちゃんは日本人の顔がわかるようになるの?——マスク社会が教えてくれたこと」というテーマでお話ししていきます。
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