1. Home
  2. 社会・教養
  3. 赤ちゃんは何を見ているのか
  4. 人見知りはなぜ起きる?——赤ちゃんの“顔...

赤ちゃんは何を見ているのか

2026.06.05 公開 ポスト

人見知りはなぜ起きる?——赤ちゃんの“顔を見分ける力”山口真美(中央大学・文学部心理学研究室)

それまで誰にでもニコニコしていた赤ちゃんが、ある日突然泣き出す——。
赤ちゃんの人見知りは、子育て中でも多くの人が経験することですよね。
けれど赤ちゃんは、なぜ「知っている人」と「知らない人」を区別するようになるのでしょうか。
その背景には、顔や表情を見分けて、人の気持ちを学んでいく赤ちゃんならではの発達がありました。
今回は、赤ちゃんの人見知りが始まる時期に起こる、“顔を認識するための大きな変化”を見ていきましょう。

*    *    *

赤ちゃんが顔を見分けるゴールのひとつは、「人見知り」といえるでしょう。初対面の赤ちゃんと仲良くしようとして泣きだされる、あれですね。人見知りの強弱には個人差もありますが、あやそうとすればするほど、泣きやまなくなる。気をもめばもむほど、泣き方はひどくなる。火がついたように泣き叫ばれることもありますよね……。

(写真:iStock.com/ maroke)

生後半年から1歳頃に見られるこの厄介な人見知りが、顔を見分けるゴールというのは不思議に思えるかもしれません。

そんな人見知りにあったら、少し距離を取って赤ちゃんから視線をそらすと良いでしょう。こちらから赤ちゃんに視線を向けることを避けて、赤ちゃんに観察してもらうのです。そうすると、落ち着く子もいます。言い方は悪いですが、けんかを仕掛けてきそうなサルに対応するのと同じです。動物に目を合わせることは、けんかを売っていることになるのです。もちろん赤ちゃんは、けんかを仕掛けているのではありません。知らない人に見られるのが嫌なのです。

人見知りの解決策があるとしたら、顔見知りになるしかありません。とにかく観察され、慣れた人になるのです。お年寄りは赤ちゃんに人見知りされやすいといわれていますが、これは、見慣れていないゆえに起こる証拠のひとつでしょう。

 

見おぼえのない顔を見て泣きだす人見知りには、赤ちゃんの中に

(1)    “見知らぬ他者”という存在ができたこと

(2)    “見られている”という社会的な意識の芽生えができたこと

このふたつの大きな成長ポイントがあるのです。
人見知りの始まる生後6~8ヶ月にかけて、赤ちゃんの顔を見る能力は格段に発達していきます。

人見知りが成立するためには、知っている人と知らない人の区別が必要ですが、それは、顔であればなんでも好きだった新生児の頃からの一大革命。顔好きがゆえに赤ちゃんはたくさん顔を見て学習し、それがある一定のレベルに達したところで、「知っている・知らない」の境界ができ上がるのです。(ちなみに人見知りの個人差には、知らない人への恐怖の耐性という生まれつきの違いもありますが、見知った人の多さも影響すると言われています)

人見知りが起こる前後では、表情の好みも変わるようです。

赤ちゃんがよく見るのは、どんな表情だと思いますか?

お母さんや周りの人たちが赤ちゃんに見せる、スマイリーのような笑顔。これが表情の基準として実験で使われています。笑顔と、赤ちゃんが普段あまり目にしない怖がった顔との好みを比べた実験では、生後4ヶ月の赤ちゃんは、笑顔を好むことがわかりました。これは想定された結果でしたが、人見知りの始まる生後半年頃になると、笑顔を好まなくなったのです。見知った笑顔から見知らぬ表情へと好みが変わるのは、人見知りとは逆で不思議ですよね。

アメリカの発達心理学者・ネルソンは、赤ちゃんの表情学習について説明しています。赤ちゃんはまず、日常でもっともよく目にする「笑顔」から学習を始めます。そのため、生後4ヶ月頃までは、見慣れた笑顔を好むことがわかっています。ところが、生後半年頃になると変化が起こります。笑顔を十分に見慣れた赤ちゃんは、今度は“見たことのない表情”に強く興味を示すようになるのです。

これは前回の記事でご紹介した「いないいないばあ」の話にも当てはまるのですが、赤ちゃんが予想しなかった顔に大喜びするのは、“見慣れない表情”だからなのです。

人見知りが始まった赤ちゃんの「新しいもの好き(新奇選好)」を利用した実験も行われています。たとえば、いろいろな人の笑顔を何度も見せて慣れさせたあと、怒った顔を見せる。すると赤ちゃんは、「今までと違う」と感じて長く見るようになります。

つまり赤ちゃんは、「この人の顔」ではなく、「笑顔」や「怒った顔」といった“表情そのもの”を見分けられるようになっているのです。

顔を見る経験が、赤ちゃんにとって表情の理解にどれほど影響するのかを調べた研究もあります。
大人との関わりの中で特殊な環境で育った子どもたちを対象にした実験では、日常的に接してきた大人の表情が、子どもの表情の受け取り方に影響を与えることがわかっています。
例えば、親の育て方などによって、怒った表情を頻繁に見て育った子は、相手の表情を“怒っている”と受け取りやすくなる傾向があり、逆に、人との関わりの機会が失われた子は、表情そのものを読み取ることが難しくなることもあったのです。

つまり子どもたちは、生まれつき表情を理解しているのではなく、周囲の人の顔や表情を毎日見ることで、「人の気持ち」を少しずつ学んでいるのです。

(写真:iStock.com/ maroke)

赤ちゃんは、毎日たくさんの顔を見ながら、少しずつ表情の違いを学んでいます。

笑顔は安心する顔。
知らない表情は、少し気になる顔。

そんな経験を積み重ねることで、「知っている人」と「知らない人」の区別も育っていきます。人見知りは、赤ちゃんが“人を分かろうとしている”という成長のあらわれなのですね。

 

*    *    *

 

隔週金曜日に新着更新中!
次回は、「なぜ赤ちゃんは日本人の顔がわかるようになるの?——マスク社会が教えてくれたこと」というテーマでお話ししていきます。
山口真美氏による監修の、“あかちゃんの好き!”をたっぷり詰め込んだ全140ページにわたるデジタル絵本『いっしょにみるこちゃん』も好評発売中です。

関連書籍

山口真美/YUYA/大塚朗/わたなべみきこ/ながしまひろみ『あかちゃんの“みる”を育てるはじめて絵本 いっしょにみるこちゃん』

視覚発達の専門家が本気でつくった あかちゃんが夢中になる“はじめて絵本” 生まれたばかりのあかちゃんにとって、 0歳の1年間は“見る力”がぐんぐん育つ特別な時期。 この大切な時期に、見えるもの、楽しめるものを届けたい。 そんな想いから、この一冊は生まれました。 日々あかちゃんと向き合いながら視覚発達の研究を続ける 山口真美氏(中央大学文学部心理学研究室教授)監修のもと、 「あかちゃんの好き!」をたっぷり詰め込んだ全140ページの絵本が誕生。 月齢ごとに変化していく“あかちゃんの見える世界”を大切に描いた、 4つの物語をお楽しみください。

山口真美/YUYA『あかちゃんの“みる”を育てるはじめて絵本 いっしょに みるこちゃん 1. はじめまして みるこちゃん』

『1. はじめまして みるこちゃん』  1~3か月ごろ:くっきり・はっきりしたものが見えるころ

山口真美/大塚朗『あかちゃんの“みる”を育てるはじめて絵本 いっしょに みるこちゃん 2. いっしょに おでかけ みるこちゃん』

『2. いっしょに おでかけ みるこちゃん』  4~6か月ごろ:色や模様に心がわくわくするころ

山口真美/わたなべみきこ『あかちゃんの“みる”を育てるはじめて絵本 いっしょに みるこちゃん 3. おおきい? ちいさい? いただきます みるこちゃん』

『3. おおきい?ちいさい? いただきます みるこちゃん』  7~9か月ごろ:ものの大きさや奥行きに気づくころ

山口真美/ながしまひろみ『あかちゃんの“みる”を育てるはじめて絵本 いっしょに みるこちゃん 4.みつけて にっこり みるこちゃん』

『4. みつけて にっこり みるこちゃん』  10~12か月ごろ:広がりのある空間で歩き始める準備のころ

{ この記事をシェアする }

赤ちゃんは何を見ているのか

バックナンバー

山口真美 中央大学・文学部心理学研究室

山口 真美(やまぐち まさみ)
中央大学文学部心理学研究室教授。日本赤ちゃん学会理事長。専門は認知心理学、とくに乳児の視覚研究。著書に『赤ちゃんは世界をどう見ているのか』(平凡社)、『赤ちゃんは顔をよむ』『あかちゃん研究からうまれた絵本 かお かお ばあ』(共にKADOKAWA)などがあるほか、あかちゃん向け絵本の監修も多数。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP