赤ちゃんと目が合うと、なんだかほっとした気持ちになりますよね。
じっとこちらを見つめてくるその視線に、思わず笑い返したり、声をかけたくなったり。そんな何気ないやりとりの中には、赤ちゃんの発達にとって大切なヒントが隠されています。赤ちゃんにとって「顔」と「目」は、どのような意味を持つのでしょうか。
今回はそんな素朴だけど、実は奥深い謎に赤ちゃん研究室が答えてくれます。
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赤ちゃんは、顔と目の、どちらの好みが強いと思いますか?
新生児が顔を好むことは、先にお話ししたとおりです。一方で赤ちゃんにとっては顔の中の目もとても魅力的な存在。今回は、顔と目のどちらが赤ちゃんを強く惹きつけるのかをみていきましょう。
まずは、赤ちゃんにとっての目の魅力をお話ししますね。大人からすると、目といえば視線。視線から発する感情が気になることかと思います。しかし赤ちゃんには、そんな社会的な決まりなどはありません。生まれたばかりの赤ちゃんにとって、目そのものが魅力的なのです。
目は、キラキラしているのも大きな魅力です。賢いカラスはキラキラしたものが大好きで、金属片やビニールなど光沢感のある破片を集める傾向があります。キラキラは子どもにも人気で、子どもが集めるシールや玩具にも光沢感がありますよね。私の研究室では、赤ちゃんもキラキラが好きかを調べる実験を行いました。
球体や置物などの写真に、キラキラした光沢感が見えるように画像でハイライトを合成して仕上げました。光沢感のある画像とない画像を見せると、生後半年を過ぎた赤ちゃんは、光沢感のあるキラキラの方を好んだのです。
光沢感のついでに、金色に関する実験も紹介しましょう。黄色に光沢感をつけると金色になります。光沢感で色が変わるのは、金色と銀色(白色に光沢感をつけると銀色)だけに見られる特別なことなのです。
私の研究室の実験では、黄色から金色に変わると赤ちゃんの嗜好性が増加することがわかりました。赤ちゃんが金色を好む理由は謎ですが、金色は太陽光の色に近いともいわれています。この地球に生れ落ちた赤ちゃんが、まっさらな感覚で何を好むのかを考えるのは、楽しい謎解きでしょう。
目に注目が集まるもうひとつの理由に、白目と黒目のコントラストがあります。鳥よけの目玉模様の風船にあるように、白黒のコントラストがはっきりした目玉模様は目立って気になるのです。これまでお話したように、赤ちゃんも白黒のコントラストが好きでした。このように、目に注目を向ける理由はたくさんあります。
1980年代に、赤ちゃんをは目と顔のどちらに強く惹きつけられるかを比べた実験が行われています。当時の赤ちゃん実験に使われた顔の図に描かれた目は、白黒のコントラストがはっきりとしたものでした。そこで画像を加工し、白黒のコントラストを残して顔らしさを減らした図と、白黒のコントラストを減らして顔らしさを残した図を作って、赤ちゃんの好みを比べたのです。実験の結果は残念ながら、目と顔の勝敗がはっきりしないものでした。赤ちゃんにとって、目の白黒コントラストも顔も、どちらも欠けてはならなかったのです。
ちなみにこの後の2000年代の赤ちゃん実験では、目の白黒をなくして、目と口の場所に四角形を並べた図を顔として、新生児と胎児の好みを確認しています。この研究以降は、白目や黒目が無くても顔は好まれるということになっているのです。
冒頭の顔と目の戦いの答えは「顔が強い」でしたが、顔と目の研究には続きがあって、もっとおもしろいことがわかっています。目と顔の関係を深堀りして、目の役割を教えてくれます。
私の研究室では、図1のようなちょっと気持ち悪い顔を作って実験をしました。コントラストはそのままで白目と黒目の色を逆転した顔は、まるでバンパイアのようです。
この気持ち悪さがわかるのは大人だけだろうという発想で始めた実験でしたが、赤ちゃんも白目と黒目を逆転したバンパイア顔への好みが減ることがわかりました。しかもバンパイア顔を見ても、顔を担当する脳の部位の活動がみられなかったのです。赤ちゃんにとって、白目と黒目が逆転したバンパイア顔は、“顔ではない”ということ、目が顔の判断にかかわることが示されたのです。
新生児を相手にした実験では、目が閉じた顔と目が開いた顔を見せると、同じ女性の顔でも目の開いた方を好んで見ることが示されています。さらに生後2ヶ月から4ヶ月になると視線の向きに敏感になり、目をそらした顔よりも自分の方を直視した顔の方を好んで見ることがわかりました。新生児や赤ちゃんにとって、“こちらを見ていること”が重要であるということが、次々と解明されたのです。
私の研究室の実験ではさらに、3次元の顔を作って左右に回転させて赤ちゃんに見せました。その際、こちらを向いて回転する顔と、視線を外して回転する顔を用意したのです。すると、赤ちゃんの顔に対する脳活動は、こっちを向いて回転する顔では強く、視線を外した顔では弱いことがわかりました。
後の連載で、赤ちゃんにとって横顔は顔ではないという衝撃のお話をしますが、赤ちゃんにとって目があってこその顔なのです。視線は、顔を見てもらうための役割を果たすのです。赤ちゃんと仲良くなるためには、赤ちゃんと目と目をあわせることがとっても大切だということですね。
最後に目と顔の向きの錯視、ワラストン(Wollaston)の錯視図形を見てみましょう。図の二つの顔、視線の向きが違って見えませんか?
実は、目は全く同じなのです。顔の向きが違うと、視線の向きが違って見えるのです。赤ちゃんも生後7ヶ月になると、このような視線の錯視を見ることがわかっています。これも、目と顔は密接に関係している証拠ですね。赤ちゃんにとって「見る」ことは、世界を知るだけでなく、人とつながるためのはじまりでもあるのです。
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