
一日一冊読んでいるという”本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第4回 一穂ミチ『砂嵐に星屑』

こんにちは。本のミチを極めたいアルパカ内田です。
ままならない運命を刻みつけた一穂ミチの文学は、上質な演劇のように鮮やかに光と影を映し出し、華麗なマジックのように瞬時に時の流れを止めてみせる。日常を赤裸々に見せつけると同時に、目には見えない世界を眼前に差し出してくれるのだ。
物語は哀愁漂う中堅テレビ局が舞台である。過酷な業務のなかで夢を追いかけ、懸命にもがき続けるスタッフたち。世代を超えて絡みあう人間模様はあまりにも際どい。そして四つのストーリーからメディアの仕事の裏側が分かるばかりか、登場人物たちのむき出しの感情が心臓の鼓動とともにヒシヒシと迫ってくる。
映像的な視点にも注目してもらいたい。大阪駅北側の再開発地区からは「砂嵐」が感じられ、あべのハルカス上層階から鳥瞰すれば雄大な平野が眺められる。地を這う目線から空を見上げればまさに「星屑」が降ってくるようだ。垂直ばかりでなく水平にも視線は流れていく。震災直後に家から会社まで3時間の道のりを歩くシーンでは、街の空気、匂いや風とともに、人生も走馬灯のように駆け巡る。なんとドラマティックなのだろう。
生と死。男と女。偶然と必然。虚構と現実。相反した要素がいつしか溶けあい調和する。細やかな描写と大胆な設定によって、当たり前の景色が崩壊して新しい価値観が生み出されるのだ。研ぎ澄まされた感性はどこまでも透明で、発せられるメッセージはとてつもなく雄弁。読み始めたら決して抜け出すことのできない底なし沼のような魅力がここにある。

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
宮内悠介『かくして彼女は宴で語る~明治耽美派推理帖~』

大阪のテレビ局とは180度対照的な本作をぜひ!
明治40年代の東京。月2回、両国橋近くのレストランで開かれる「パンの会」なる耽美派サロンに集う芸術家が、それぞれに見聞きした事件を「安楽椅子探偵」として解決していくミステリー。彼らは木下杢太郎、北原白秋、石川啄木……。やがて近代日本の文化の礎となる若き才能たちだ。
乃木将軍を模した菊人形に日本刀が突き立てられた事件、当代一の高層建物だった浅草・凌雲閣の最高階で起きた謎の転落死、駿河台のニコライ堂での殺人事件などが持ち込まれるのだが、その謎解きの妙ももちろんのこと、著者の丹念な取材と巧みな筆さばきで書かれた当時の情景描写が見事で、読者は時間旅行も大いに楽しめる。
張り巡らされた伏線も絶妙で、登場人物が何気なくこぼした一言がのちのち重大なヒントにもなるなど、読者は心地よい緊張感を強いられることになる。
圧巻は最終話。この著者でなければ思いつかないストーリーだ。
明治末期の底知れぬ躍動感、芸術に賭ける若者たちのほとばしるエネルギー。100年の時間を超えて、弛緩しきった令和に届いたメッセージなのかもしれない。
アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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