一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第27回 重松清『はるか、ブレーメン』
こんにちは。無礼面(!)が苦手なアルパカ内田です。
重松清は僕にとって「人生の師」である。その作品たちに今までどれほど心を揺さぶられてきたであろう。さまざまな壁にぶつかったとき、いつもそこには重松作品があった。まさに人生におけるヒーローであり、救世主的な存在でもあるのだ。
本書は重松清の作家生活30周年の2021 年に連載された節目となる一冊だ。彼のデビューの1991 年といえば、僕が30年勤務した書店に入社した年でもある。店頭で流した汗と涙が、重松清の名作群ひとつひとつにも滲んでおり、まったく切り離すことができない。
『はるか、ブレーメン』は思い悩んだ背中を優しく押してくれる、人間味に満ちた感動作。母に見放された16歳の少女が出会ったのは、死の直前に走馬灯に映し出される風景を演出してくれる「旅行会社」。そこで人々と触れあい、気づかされる真実は、幸せよりもたくさんの後悔が、世界を鮮やかに色づけてくれるということ。ひとりの人間の成長譚として楽しめるだけでなく、喪失の哀しみも孤独の苦しみも同時に癒やしてくれる、かけがえのない物語なのである。
人は最期にどんな景色を見るのか。死の瞬間を想像することは強く生を意識することでもある。ファンタジックなストーリーの中から、さり気なく伝わる人生の真理。豊かな学びにも満ち溢れたこの一冊は、重松清の真骨頂を味わえる。生きづらいこの世に温かな光を照らし続ける著者の、新たな代表作の誕生に心から拍手を送りたい。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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