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君が面会に来たあとで

2025.06.03 公開 ポスト

立ちんぼの落とし物【新連載】Z李

Xのフォロワーは90万人超、著書である歌舞伎町を描いた小説『飛鳥クリニックは今日も雨』(扶桑社)も大人気のZ李、初のショートショート連載がスタート!

立ちんぼから裏スロ店員、ホームレスにキャバ嬢ホスト、公務員からヤクザ、客引きのナイジェリア人からゴミ置き場から飛び出したネズミまで……。繁華街で蠢く人々の日常を多彩なタッチで描きます。

 

*   *   *

立ちんぼの落とし物

 

 

ハイジアで梅毒の無料検査を受けてきた。

 

なんの自覚症状もなかったけど、周りでそういう話を聞くことがあまりにも増えてきたから。

あとは、鼻が腐って取れてしまった人の写真をGoogleで見たから。

 

今と昔で違うんだろうけど。さすがに、鼻とれたらいやだなあと思って、検査に行ってきた。

 

結果は陰性。生だけはやらないようにしてたし、0.01ミリだとしても、ゴムってやっぱすごいんだなって思った。

 

いつものガードレールに腰をかける。まだ夕方、空は明るい。

この時間から客待ちしている子は、いつもだいたい同じで、服装も同じ。みんなみんな自分のことにお金を使えない。私はここで友達を作りたくないし、話したことはないから詳しくはわからないけど、たぶんみんなホスト。

でも、この子たちと私でははっきり違うところがある。

 

それは絆。

 

私の担当は「もしも危ないことがあったら、すぐに助けにいくね」と心配してくれて、お守りを渡してくれてる。それが、このAirTAGなの。

 

彼のアイフォンから、いつでも私の居場所がわかる。前にあそこのレンタルルームで女の子が変態に連れ去られたことがあったから、その日に買ってくれたの。

 

私が大久保公園の周辺に着くと、すぐにLINEもくれる。「今日もがんばってるね。無理しないでね」って。今日はまだこないけど、寝てるのかな。

 

5本取れた日は、だいたい5万くらい稼げる。50万円貯まるごとに、彼に会える。

 

もっと自分に自信をもってほしいのに、いつも、「俺なんて、どうせ」。そんなネガティブなことばかり言う彼だから、ナンバーに入れ続けてあげないと、彼のメンタルは持たないんだ。

それに、バンドをやっていたときに、ドラムの人に騙されて結構大きめの借金も背負ってしまったから。

 

「いつか一緒に住みたいね。お金使わせてばかりでごめんね」

 

会うたびに彼はそう言う。

 

「俺から離れないでね。いなくならないでね。AirTAGを持たせているのは、心配だからもあるけど、いつでもつながっていたいからだよ。こんなこと、お前にしかできないよ」

 

尊い。頑張れる。

ホントの意味で、彼には私しかいないし、私にも彼しかいないから。だから頑張れる。

 

……ウザ。割引交渉客だ。5000円で本番ってバカかよ。うちがポチャだからってなめてんの? 公園わかってないやつがおおすぎ。

 

でも私はレンタルルームへと歩いた。なぜなら、まだ外は明るいから。そんなに人がいないから。

 

「洗ったら、無臭になる仮性包茎と、洗っても臭いままの仮性包茎があるのは、なあぜなあぜ?」

 

今日は臭いほう。サイアク。でも私はそれをほおばった。がんばって舐めた。回転、回転。だって、5000円なら早く終わらせないといけないから。だから、臭いけど舐めた。大きくしたら、ゴムをはめて、自分から入れた。

大きい声を出した。そっちのほうが悦ぶのを知っているから。すぐだった。

もうちょっとちょうだいよ、と言ったけど5000円以上はくれなかった。

 

ガードレールに戻る。暇つぶしにニュースサイトを見ている。彼がいた。

 

『売掛金回収のため、女性客を位置情報を共有しようとGPSアプリやAirTAGで監視し、大久保公園で立ちんぼをさせ、売春を強要したとして、新宿区歌舞伎町のホストクラブの従業員男性『如月永遠丸』こと山田一平容疑者(27)を新宿署は逮捕した。』

 

そう書かれていた。

 

「ウチだけじゃないんだ。みんなのこと見てたんだ」

 

彼が捕まったことより、そっちのほうが悲しかった。絆なんてなかった。誰にでもやってた。

 

いろんな感情が私の中に渦巻いて、AirTAGを投げた。地面に落ちたそれは、なか卯のほうに転がっていった。

 

もう終わり。サイアクだ。裏切られた。

 

それなのに私が次のおじさんとレンタルルームへと歩いているのは、なあぜなあぜ?

 

*   *   *

今週のお知らせ

今日は昔からの俺の仲間、RYKEYの新しいアルバムがリリースしてるんだ。

定期的にいなくなるんだけど、出てくるたびに中で書いた深みのある言葉をアウトプットしてヒット曲を出す娑婆の妖精みたいなやつだ。

もしくは何度でも蘇るキリギリス。

ハーメルンの笛吹きに連れて行かれていなくなったはずの子供がまた街に現れたみたいな。

まあパクられたって良い事なんて本来ひとつもないよ。

ただ、俺やリッキーは文字や言葉がたまたまいくらかにはなるってだけで。

良い曲がたくさんあると思います。

“嵐の中、向かい風でも平気だろ”ってね。

そうだよな。そうだよ、俺たちなら平気。そうだろ?

視聴、よろしくお願い致します。

↓Check

FREEDOM or JAIL/RYKEYDADDY.X

 

Photograph:TOYOFILM @toyofilm

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君が面会に来たあとで

Z李、初のショートショート連載。立ちんぼから裏スロ店員、ホームレスにキャバ嬢ホスト、公務員からヤクザ、客引きのナイジェリア人からゴミ置き場から飛び出したネズミまで……。繁華街で蠢く人々の日常を多彩なタッチで描く、東京拘置所差し入れ本ランキング上位確定の暇つぶし短編集、高設定イベント開催中。

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Z李

座右の銘は「給我一個機会,譲我再一次証明自己」。経歴不詳、表と裏の境界線上にいるインフルエンサー。X(旧Twitter)のフォロワー約90万人超。週刊SPA!にて2021年より2年にわたり、長編小説『飛鳥クリニックは今日も雨』を連載、2023年に書籍化。2025年4月17日より、配信サイトLeminoにてドラマ化される。

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