一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第28回 岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』
皆さん、こんにちは。センチになり過ぎてメートルになったアルパカ内田です。
読書の醍醐味といえば、まずは「共感」だと思うが、これほど激しく膝を打った作品も珍しい。皮肉な運命に翻弄される数々のエピソード。その中に読者は思わず自分自身とごく身近な場景を重ね合わせるであろう。名もなき小市民の心のつぶやきが全編から聞こえ、いつしか大合唱となって押し寄せてくるのだ。
「不幸短歌エッセイ」の名の通り、哀しいほどアンラッキーが連鎖していく。しかし、どんなにツキがなくても正直に生きることは素晴らしい。思わぬ赤面、赤裸々な告白、青息吐息に黒歴史……ブラックな現実とグレイな日常が鮮やかに色づく瞬間を体感できる愛おしい一冊だ。
例えば「3日とも大丈夫ですは恥ずかしく1日だけNGにしておく」という歌に惹かれてしまう。誰かの問いかけに対する葛藤。そこから細やかなドラマが感じられ、何よりも自然体の率直さが好ましい。手のひらサイズの風景描写であっても芸人である著者の大らかな包容力が伝わり、無意識の行動や本音の吐露が実に人間的で味わい深いのだ。
短い文章で現代の空気を鋭く切り取る。SNSで育った若者世代を中心に短歌がブームとなっている昨今、言葉によるコミュニケーションを深める場として短歌界はますます盛り上がっていくだろう。ど真ん中ではなくとも、その賑わいの中に歌人芸人がいることは間違いない。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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