一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第30回 門井慶喜『ゆうびんの父』
こんにちは。朝届いても郵便(ゆうびん)。アルパカ内田です。
『銀河鉄道の父』で直木賞を受賞した門井慶喜は、様々な分野の社史のコレクターとしても知られており、近現代史の人物評伝を書かせたら当代随一であろう。綿密な取材に基づき、興味深いエピソードの数々から歴史に名を残した偉人の真の姿を再現する。肉声が聞こえ、体温までもが伝わってくるのだ。
本書の主役は一円切手の肖像画ともなっている超有名人・前島密だ。しかし知名度の割には、苦難あふれる生い立ちをはじめ、驚異のスピードで日本の郵便事業を確立させ、近代国家設立の礎を築いた神業的な功績は意外なほど知られていない。
まずは探求心が半端ではなかった。生まれ持った才気はもちろん、日本全国津々浦々の旅によって広めた見聞があったからこそ、新たな時代を切り開くことができたのだ。さらに越後出身の幕臣でありながら、薩長勢力が牛耳る新政府でも活躍できたのは、激動の時代の変化へのしなやかな対応力がものを言ったのであろう。
そして何よりも曲がりくねった人生の確かな道標となったのは、母の尊き教えだった。遠く離れた場所で手紙のやりとりを通じて無限の愛をそそいでくれた「母」の絶大な存在があってこそ、前島密は郵便の「父」に成り得たのである。幾多の困難を乗り越えて国家事業を成し遂げた「プロジェクトX」のようなこの物語は、底知れぬ家族愛もまた読む者の胸にストレートに突き刺さる。時を超えた名作誕生に心から拍手を送りたい。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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