
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
* * *
元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第24回 織守きょうや『隣人を疑うなかれ』

件が発生。ライターの小崎涼太は、二つの事件
に関連性がないか調べていた。そこへ新たに神
奈川県の山中で遺体で発見されたのは、涼太の
姉・晶が住む千葉市内のマンションに出入りし
ていた17歳の家出少女だった。まさか、彼女は
ココで殺されたのか? このマンションに殺人犯
がいる? 不安を覚えて住人たちの素性を調べ
始める晶と涼太だったが……。
こんにちは。なかなかニンジンを愛せないアルパカ内田です。
本書には中毒性がある。読後の騒めきがまったく止まらなくなる極上のミステリ作品だ。恐怖はテーマが身近であるほど心に迫りくるものであるが、読めばきっと自分を取り囲むすべてのものが、疑わしく思えてしまうだろう。奥の深いストーリーにのめり込み過ぎて、誰も信じられなくなるトラウマに陥らないように注意が必要だ。
隣人の謎めいた失踪。膨らみ続けるマンション住人への疑惑。そこに世間を震撼させている連続殺人事件までもが絡んでくる。犯人はいったい誰なのか。目的は何なのか。ささやかな違和感から押し寄せる絶望の闇。隣同士の名前も顔も分からなくなった危うすぎる現代社会の側面が、実にリアルに再現されている。
尊い命が奪われる犯罪をめぐる恐怖を伝えるだけではない。この物語は、ごく普通の人間が狂気を生みだす背景を丁寧に描き出している。当たり前の日常は、いかに危険と隣り合わせであるのか。いま一度、自分の身の回りを確かめてみるべきだろう。取り返しのつかない件を未然に防ぐための警鐘が高らかに聞こえてくる。
鋭いナイフが皮膚に突き立てられる衝撃の冒頭から、緻密に組み立てられたミステリアスな展開。そして見事な伏線回収のあとに待っていた絶妙なラストまで、まったく油断ならないスリリングな一冊。
織守きょうやの真骨頂である繊細な筆致と知的な空気感を思う存分に味わえる。デビュー10年の節目を迎えた著者のハイレベルな代表作の誕生だ。

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
相場英雄『サドンデス』

女性との出会いを機に人生を好転させてい
く21歳の理子。墓穴を掘って会社に解雇さ
れた元バイヤーの小島は、彼女のSNSを
覗く度に嫉妬心を募らせ、やがて殺意をも
抱き始めるのだが……。
一方、こちらは現代の暗部に光をあてた傑作ミステリ。
主人公は女子大生・理子。うつ病の母の世話をしながら場末のガールズバーで働き、金銭的に厳しい暮らしを強いられている。ある日、客の女から誘われ、条件のいいラウンジへ転職。すると収入も急増し一気に暮らしぶりは好転、そのキラキラした日常をアップするSNS には数万人のフォロワーも付いた。
反面、理子を一方的に妬むアンチも急増。会社をクビになったばかりの小島という中年男(かつては老舗百貨店のバイヤーで、今は日々の暮らしにも困窮している)も、理子に勝手な憎悪を募らせる。そんな折、都内では無差別殺人が相次いだ。各事件の容疑者に関連はなく、模倣犯のしわざと思われたが……。
成功していく者と落ちていく者。富む者と貧しい者。両者を区切る境界線は細くて脆い。そのわずかな線上で両者はもつれあい、一歩足を踏み外せば即座に深い谷に落ちる。その姿はまさに「サドンデス」なのだ。
SNS の功罪。格差と分断。著者は現代社会の底に横たわる問題を抉り出し、スリリングな小説に仕上げた。
これは誰かの物語ではない。今を生きる我々全員が抱える現実なのである。
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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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