一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第24回 織守きょうや『隣人を疑うなかれ』
こんにちは。なかなかニンジンを愛せないアルパカ内田です。
本書には中毒性がある。読後の騒めきがまったく止まらなくなる極上のミステリ作品だ。恐怖はテーマが身近であるほど心に迫りくるものであるが、読めばきっと自分を取り囲むすべてのものが、疑わしく思えてしまうだろう。奥の深いストーリーにのめり込み過ぎて、誰も信じられなくなるトラウマに陥らないように注意が必要だ。
隣人の謎めいた失踪。膨らみ続けるマンション住人への疑惑。そこに世間を震撼させている連続殺人事件までもが絡んでくる。犯人はいったい誰なのか。目的は何なのか。ささやかな違和感から押し寄せる絶望の闇。隣同士の名前も顔も分からなくなった危うすぎる現代社会の側面が、実にリアルに再現されている。
尊い命が奪われる犯罪をめぐる恐怖を伝えるだけではない。この物語は、ごく普通の人間が狂気を生みだす背景を丁寧に描き出している。当たり前の日常は、いかに危険と隣り合わせであるのか。いま一度、自分の身の回りを確かめてみるべきだろう。取り返しのつかない件を未然に防ぐための警鐘が高らかに聞こえてくる。
鋭いナイフが皮膚に突き立てられる衝撃の冒頭から、緻密に組み立てられたミステリアスな展開。そして見事な伏線回収のあとに待っていた絶妙なラストまで、まったく油断ならないスリリングな一冊。
織守きょうやの真骨頂である繊細な筆致と知的な空気感を思う存分に味わえる。デビュー10年の節目を迎えた著者のハイレベルな代表作の誕生だ。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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