
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
* * *
元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第23回 和泉桂『奈良監獄から脱獄せよ』

式監獄である奈良監獄に収監されていた。ある
日、殺人と放火の罪で無期懲役となった印刷工
の羽嶋が収監される。羽嶋も自分と同じく?罪
だったことを知った弓削は、彼とともに脱獄をた
くらむ。典獄からの嫌がらせ。看守の暴力で亡
くなった友人。奈良監獄を作った先輩からの期
待。嵐の夜、ついに脱獄を実行する―。
こんにちは。奈良なら行くシカないアルパカ内田です。
なんと魅力的な物語なのだろう。享楽的で厭世的でもあった大正時代の空気を鮮やかに再現。そして舞台となるのは写真集が出るほど美しいレンガ造りの奈良監獄。春日山の原始林が取り囲む聖域の中にある場所で、見た目だけでなく冒頭の見取り図からもその構造の完璧さに目を奪われる。
ここに囚われてしまったのが若きイケメン数学教師・弓削だ。教え子に対する殺人罪での収監。それは身に覚えのない罪状であった。理不尽な裁決で、人生を棒に振らなければならない不運。それを覆せない己の無力を呪いながら、人間の尊厳を奪われる絶望の闇と圧倒的な孤独の中で過ごすしかなかった。
そんな彼を変えたのが同じく?罪によって無期懲役犯にされた羽嶋である。偶然の出会いから運命の歯車が一気に回り始める。獄中における群像劇も読みどころであるが、心を激しく打たれるのは、人は大切な絆によって生かされるという真理であろう。信じ合うことによって初めて希望の光が灯されるのだ。
繊細な性格ですべてを数字で測ってしまう弓削。人間味があり抜群の記憶力を持つ羽嶋。それぞれの個性が刺激し合って脱獄の計画を練り上げる。完全無欠に設計された監獄をいかにして攻略するか。“全知全霊”をかけた企みは途轍もなくスリリングで、手に汗を握るシーンの連続。その結末はぜひ本書で体感してもらいたい。一度読みだしたら止まらない。抜け出すことは絶対に不可能な面白さがここにある。

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
中山有香里『魔女のあとおし』

落ち込む日はカフェオレとチョコレートで癒してくれて、
疲れた日は森でシチューづくり。
二人で過ごせば不思議と元気が湧いてくる。
可愛くて心が軽くなるオールカラーコミック。
一方、こちらは当コーナー初めての紹介となるコミック。
主人公は看護師として働く35歳の桃子。「私は自分がキライ│」というモノローグでストーリーは始まる。
自分は、人より勉強も運動もできない、人より容姿で劣ると思いこみ、「いい人であり続ける」ことが自分を守ることだと信じて毎日を過ごしている。可愛いスカートを見かけ、着てみたいと思っても、次の瞬間にはそんな思いを「似合わない」「お金がない」「着て行く場所もない」と、自分で打ち消していた。だが、ある夜夢の中で「魔女」と出会うことで人生が変わりだす。その「魔女」は、桃子が子供の頃に可愛い服を着たいと願っていたことを思い出させ、服だけでなく、すべてをあきらめていた桃子の背中を押す。
夢から覚めた桃子は久しぶりに服を見に行こうと思い立つ……。違う夜にも、また魔女が現れ、ポツリポツリと語ることで、様々なことで思い悩んでいた桃子を励ます。
あきらめた夢、言えなかった一言、果たせなかった約束。あの時に、もう一歩踏み出していれば人生が変わったかもしれない……。ああ、自分に「魔女」がいてくれればなぁと思う人も多いだろう。
そんなあなたはこの本をバイブルにして、心が萎えそうになった時にはページを繰ればいい。優しさあふれるタッチで描かれた魔女が、踏み出せずにいるあなたの背中をグイッと押してくれるはずだ。
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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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