
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
* * *
元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第22回 汐見夏衛『さよならごはんを今夜も君と』

痩せて可愛くなりたい若葉、何を食べても美味
しくない成績が学年トップの小春、オーガニッ
ク料理だけで育った凌真……。悲しみや寂しさ
を少しずつ消化できるように、店主の朝日さんは
とびっきりの一皿をつくる。お腹がぽかぽかすれ
ば、孤独な心に力が満ちて、止まっていた時間
が動き出す。世界一優しいお夜食で再生してい
く感動作。
こんにちは。猫に小判、犬にごはんを推奨しているアルパカ内田です。
まさに食べることは生きること。闇に埋もれていた日々を鮮やかに色づかせ、心も身体も満たしてくれる一冊だ。「食」をテーマにした小説は人気が高いが、またひとつ味わい深い好著が登場した。若い読者から絶大な支持を集める著者・汐見夏衛の新作でもあり、これは定番となること間違いなしであろう。
舞台は夜食専門店「お夜食処あさひ」である。朝日さんが店主のこの店は、夜食の店なのに朝や昼といった時間帯にも営業している。この店を必要としている学生であれば、ワンコイン(なんと一食100 円!)で食事ができるという夢のような場所なのだ。
「夜食」は実に不思議な食事である。朝食、昼食、夕食の三食からはみ出した存在。普通に生活していれば、なくてもいいはず。夜食を必要とするのは、いつも特別な時なのだ。受験勉強に疲れた夜中に差し出される、母親の手料理。残業の最中に同僚と食べたコンビニ弁当。人それぞれに夜食の思い出があるだろう。生きていく中で直面した大小さまざまなピンチを救ってくれたのは紛れもなく、優しくて温かな情と、空腹を満たす糧であった。
若い感性が随所から伝わるが、ぜひ世代を超えて読まれてほしい。読みながらきっと誰もが、物語の中に、自分自身やかけがえのない存在を思い浮かべるに違いない。理不尽な世の中の悩み多き日々に、明日へと踏み出す強い力を与えてくれる、まさに生きるエネルギーとなる一冊だ。

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
下村敦史『逆転正義』 ※8月23日発売予定です

女を保護した男、自宅で人を殺してしまった
女、罪なき子供を殺された父親―。読めば
読むほど自分の偏見、頭でっかちな正義感が
「ひっくり返される」価値観どんでん返しミ
ステリ集。
一方、こちらは自分の固定観念が覆されるミステリの短編集。著者はMr.どんでん返しの下村敦史。今回も、読者が勝手に高くした期待値のハードルを軽々と越える傑作を送り出した。
ある高校。冬樹のクラスでは今日も三ツ谷がいじめの対象になっていた。加害者は古島を中心にしたグループ。古島も三ツ谷もかつては同じグループで遊んでいた仲だったが、新学期になり、急にいじめが始まった。冬樹には、中学生時代にやはりクラスメイトのいじめを見て見ぬふりをしていた苦い過去が。同じ轍は踏むまいと、勇気を振り絞って職員室にいる担任を訪ねてすべてを打ち明けるが、担任は特段動かない。それどころか、古島には「先生にチクっただろ」と言われてしまう。八方ふさがりになった冬樹が部活の先輩に相談すると……。――「見て見ぬふり」。
自分には自分の、他人には他人の物差しがある。そして自分の基準がぜったい正しいとは限らない。どの話もディテールがだまし絵のように構成され、攻守、善悪、男女、それまでの設定が、終盤で一気に覆される。
わかっていても、え? と言いたくなる傑作ぞろい。今、目の前に映る光景が本当に正しいのか、読者は読みながら迷宮に入り込む。そして、景色が反転した瞬間、「やられた!」と快哉を叫ぶはずだ。
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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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