1. Home
  2. 読書
  3. アルパカ通信 幻冬舎部
  4. 芦花公園『パライソのどん底』/村上龍『ユ...

アルパカ通信 幻冬舎部

2023.03.27 公開 ツイート

芦花公園『パライソのどん底』/村上龍『ユーチューバー』-秘められた恋愛を鮮やかに描いた小説2作! アルパカ内田/コグマ部長

一日一冊読んでいるという“本読み”​​​​​​のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。

そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。

*   *   *

元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第18回 芦花公園『パライソのどん底

“絶対に口にしてはいけない禁忌”を抱えた村に、転校生・高遠瑠樺がやってくる。彼のあまりの美しさに、息を呑む相馬律。だが、他の誰も、彼に近づこうとしない。律だけに訪れる、死にたいほどの快楽。神社の忌子は、律に「アレに魅入られると死にますよ」と告げるが―。止まらぬ愛と欲望は、はてしない絶望と恐怖の始まりだった! 切なさも怖さも底無しの、 BL系ホラー。

こんにちは。酔っ払いのどん底を見たアルパカ内田です。

しかしとんでもない魅力をもった作品が現れた。一度読み始めたら虜になること間違いなし。真っ赤な血肉と暗黒の闇が鮮やかに交錯する印象的なシーンも、脳裏に焼きついてけっして離れることはない。これぞまさしく美しすぎる悪夢である。問答無用にエモーショナル。危険極まりない劇薬のような魔力がある。

甘美な愛から生まれる無垢なる情熱、恐るべき狂気。出会ったその瞬間から、理性が音を立てて崩れていく。尖った想いは、やがて研ぎ澄まされた刃となって人間の体内で暴れだす。そして混濁した精神と高揚した肉体をそのまま奈落の底へと突き落とすのだ。

美しすぎる存在は罪なのか。それとも清らかな想いの中から、醜さが育ってしまうのか。理屈にはならない感情が溶けだし、人々をかき乱し、絶頂に向かって渦巻いていく。比類なきアプローチで官能を極めた恐怖を生み出した芦花公園は、もはやひとつのジャンルである。

構成もまた素晴らしい。語り継がれてきた民俗譚をストーリーの中に巧みに挿入しており、ファンタジックな展開でも不思議なくらい普遍性が感じられる。いにしえから育まれた輪廻の思想、そして理不尽な僕らの日常。異世界と現実の風景がオーバーラップして見える。快楽と苦痛、生と死が隣り合わせにあるように、天国と地獄もひとつながりの世界である。人の心に棲みついた怪物の正体を、見事に解き明かした新たな都市伝説の誕生だ。

アルパカ内田さんの手描きPOP。ご自由に使っていただけます。その際、こちらにご連絡いただけると幸いです

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
村上 龍『ユーチューバー

「やらせてくれる女は大事だ」-若くしてデビューした大物作家、矢﨑健介70歳が動画配信サイトで語るのは、炎上必至の男の哲学。村上龍が自由、希望、そしてセックスを書き切った! 最新長編小説。

一方こちらは村上龍による長編小説。

冒頭の舞台は都内高級ホテル。70歳になる小説家・矢﨑健介はそれまで顔見知り程度にしか過ぎなかった男から奇妙な自己紹介をされる。「わたしは世界一もてない男なんです」。その男はやがてこんな依頼をしてきた。自らが手がけるユーチューブチャンネルで語ってほしいというのだ。出演を快諾した矢﨑は後日、その撮影に応じる。「みなさん、こんにちは、矢﨑健介です」。静かに矢﨑は語り始めた。

明かされたのは、若かりし日の矢﨑の女性遍歴。鮮明かつ的確な表現なので、聞く側にはその光景がまるで映画のように立ち上がってくる。「頭がしびれて、ものを考えられなくて、吐くわけじゃないんだ。……テキーラを飲んでいたら、吐いたあと、またテキーラを飲むんだ。今、吐くまで飲む若い人とかいるのかな」「雨の日、水色のレインコートが、ぼくの小汚いアパートの景色の中で際立っていたんです。それで、彼女は去っていったんです」

無機質な高級ホテルと、その室内で行われる生々しいやりとり。村上龍は現代のツールであるユーチューブを巧みに素材に取り入れ、こうして新しい傑作小説を作り上げた。

『限りなく透明に近いブルー』『コインロッカー・ベイビーズ』『半島を出よ』――。

そして今、私たちの心を解放できるのは、村上龍ただ一人だ。

{ この記事をシェアする }

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。

幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!

バックナンバー

アルパカ内田 ブックジャーナリスト

内田剛(うちだたけし)。ブックジャーナリスト。約30年の書店勤務を経て2020年2月よりフリーランスに。NPO法人本屋大賞実行委員理事で創立メンバーのひとり。文芸書をメインに各種媒体でのレビュー、学校や図書館でのPOP講習会などを行なっている。これまでに作成したPOPは5000枚以上で著書に『POP王の本!』あり。無類のアルパカ好き。
Twitter @office_alpaka

コグマ部長

太田和美(おおたかずみ)。幻冬舎営業本部で販売促進を担当。本はミステリからノンフィクションまでノンジャンルで読みまくる。アルパカ内田(内田剛)さんとは同学年。巨人ファン。
Twitter @kogumabuchou

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP