一日一冊読んでいるという”本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第17回 樋口美沙緒『ママはきみを殺したかもしれない』
こんにちは。「しろみ」も「きみ」も大好きなアルパカ内田です。
何と騒めきが疾走する物語なのだろう。脚本家として実績を重ねる美汐。理解のある夫と郊外の一軒家で幸せに暮らしていたが、七歳になる息子・悠の反発に思わず首を絞めてしまう。混乱のうちに気を失い、時計の針は六年前に巻き戻る。仕事を優先にして子どもを手にかけてしまった後悔から、今度は愛息と真正面から向きあう生活を選ぶのだ。一度きりの人生だからこそ、生き直すことは誰にとっても見果てぬ夢である。
しかし思うように運命は転ばない。生きがいであった夢を手離し、息が詰まるような日常生活の中で苛立ちが増え続け、美汐の心は漆黒の闇に覆われる。愛から生まれる憎しみ、そして一線を越える狂気。些細な違和感がいつしか大きな絶望へと転じてしまうのだ。
「いいママ」になりたかった美汐にも、亡き母による束縛があった。実体の見えない母性。走馬灯のように再現される記憶のシーンが胸を締めつける。脚本家という設定も絶妙だ。人生は筋書きのないドラマであり、何かを選ぶことは何かを失うことでもある。美汐だけではなく、ひとりの女性に与えられる役割は妻、母、地域人、仕事人と多岐にわたり、すべて完璧に演じることは困難を極めるのである。
全編から問われるのは人生におけるファースト・プライオリティだ。人は誰のために生きるのか。成功のためには犠牲が必要なのか。巧妙に紡がれたメッセージは読む者すべての心に突き刺さるであろう。まさに理不尽なこの世に生きる、現代人必読の一冊だ。
幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
太田 光『笑って人類!』
一方、こちらは大長編ながら一気読み必至のエンタメ作品。
時は21××年、各国は民主国家の同盟「安全な球連合(セーフティボール)」と、ティグロと称するテロ国家の共同体の2極に分断され、両者の抗争は長年にわたり続いていた。その状況を打破すべく、すべての主要国とティグロの代表が一堂に集まり、和平交渉を行うことになった。
だが、「ピースランド」国の富士見総理がその会合に遅れるという大失態を演じる。ピースランドは世界でも「影が薄い、極東の島国」という評価。富士見も、義父の七光りで総理まで上り詰めた無能政治家と国内で酷評されていた。富士見総理が不在のまま会議は予定通り始まるが、その会場で大規模テロが発生。富士見以外すべての首脳が死ぬという大惨事に。世界中が混乱に飲み込まれるが、富士見は同じく生き残ったフロンティア合衆国のアン大統領首席補佐官とともに、和平交渉の実現に向けて動き出す……。
奇想天外な設定を下敷きに、社会の分断、SNS の功罪、行き過ぎたAI の弊害といった現代の宿痾が巧みに織り込まれており、読者は富士見総理の願いと奮闘をリアルな物語として読むことになる。今我々の周囲には目をそむけたくなる出来事ばかり。そして100 年後、富士見総理の時代になっても、人間は過ちを繰り返すだろう。しかし、いや、だからこそ、人類は夢や希望を捨ててはいけない、とこの作品は教えてくれる。普段、テレビの中で悪態をついている著者の、ピュアであたたかい眼差しに読者は感動するだろう。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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