
一日一冊読んでいるという”本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第14回 越智月子『鎌倉駅徒歩8分、空室あり』

こんにちは。寝具といえば布団かまくら。アルパカ内田です。
大河ドラマでブームとなっている古都・鎌倉を舞台とした旬の物語が誕生した。登場人物はアラフィフの女性たち。決してフレッシュではない。とうがたった迷える子羊たちだ。
大正モダンの意匠も美しい洋館を、寂れた珈琲店のままにしておくにはもったいないと怒涛の勢いで始めたシェアハウス。入居の条件は「昭和生まれの女性」であること。オーナーを含めて四人と一匹(犬)の共同生活がストーリーの軸となる。喪失の哀しみに孤独の苦しみ。それぞれに人知れぬ悩みを抱えて生きている女たち。鬱陶しいおせっかいも、次第に心に沁みてくる。様々な価値観がぶつかりながら溶け合って、灰色だった毎日が色づいていくのだ。
木々のきらめき、鳥のさえずり。山の緑に海の青。自然豊かな鎌倉の描写も印象的だ。銭洗弁財天に長谷寺などお馴染みの神社仏閣も登場するから、聖地巡りの楽しみも味わえる。奥深い風味はコクのある上質な珈琲。親しみやすさはそれぞれの家庭で受け継がれるカレー。個性の違いの素晴らしさに気づかせてくれるカエデの葉。美しい変化は梅雨空に映えるあじさいの花。眼前に浮かぶ食べ物や季節を彩る花鳥風月すべてが絶品だ。
忙しい日々に疲れたら、この「おうちカフェ」を訪ねるとよいだろう。まさに人肌の温もりに包まれる心の故郷。個性的な住人たちの語らいを聞いているうちに、渇ききった気持ちに潤いを感じるに違いない。さあ、「いざ、鎌倉」。遠慮なく扉を叩いてみよう。

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
横関大『闘え! ミス・パーフェクト』

一方こちらは、東大出身で元厚労省キャリア、しかも美人で、さらには時の総理大臣の隠し子という、すべてが完璧な女性が活躍する痛快無比の物語で、本作はシリーズ第2弾。
主人公の莉子は、持ち込まれたトラブルはすべて解決しないと気が済まない正義の女。実は、父を影のブレーンとして支えている。
ある市立病院の立て直しをしつつ、新たに飛び込んできた長野の限界自治体を活性化させる策を講じることになった莉子。寂れたその村の窮状をみて、彼女が打ち出した計画は、昨今のアウトドアブームにのって、村全体をキャンプ場化するという破天荒な策。しかし、莉子の前に、大物アーティストのフェスを呼び込むという大型企画を引っ提げて、高名な女性コンサルタントも現れた。これまで敵なしと言われた莉子に、最大のライバル出現。この勝負の行方は……。
他にも、小中学校の給食センターでの異物混入事件、政界スキャンダルへの対応から、さらにその発端となった倒産寸前のキャバクラの立て直しまで、360度全方向から飛んでくる仕事の矢を、莉子が難なく(と周囲には見える)捌ききる。
莉子の不正への強い憤りと、その対極にある弱者への優しいまなざし。本当に必要とされる公務員の姿がここにあるのだが、この小説の面白さはそこにとどまらない。4編すべてが濃厚なミステリとして仕上がっていて、なおかつ、それぞれが絡み合い、思わず唸るような奥行きのある小説になっている。
そして、最終章、自分の身にあらぬ疑いがかけられ、最大のピンチに。読者は知らず知らずのうちに莉子のファンになっているはず! 早くも第3弾が待ち遠しい!
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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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