今回は、絵本も含めたエンターテイメントを楽しむ視点から、赤ちゃんの動きに注目します。
様々なエンターテイメントを楽しむとき、人は無意識のうちに身体や目を動かしていますが、赤ちゃんも同じなのでしょうか。
生まれたばかりの赤ちゃんが見せる、意外な能力や動きのメカニズムを探っていきましょう。
赤ちゃんもVRやテーマパークを楽しめる? 大画面で体が揺れる「自己運動感覚」の不思議
最初は、テーマパークの大型ディスプレイに映されたアトラクションを楽しむときに、思わず生じる動きについてです。
小さな赤ちゃんが、テーマパークのエンターテイメントを楽しめるものなのかと思われる方もいることでしょう。しかしこうしたアトラクションは、この地球上の三次元空間に生きる仕組みとつながっています。ということは、この地球に生まれ落ちた赤ちゃんも楽しめるかもしれません。

VRゴーグルや大型スクリーンで迫力満点の映像を楽しんでいるとき、無意識に出る動きがあります。迫力のある映像の動きを現実の動きと脳が勘違いし、それにあわせて身体を動かす「視覚誘導性身体動揺」と呼ばれる動きです。視野全体の動きを自分の動きだと錯覚する「自己運動感覚」が生じるのです。
赤ちゃんも大人のように、大型スクリーンのアトラクションに反応するのでしょうか? 私達の実験室ではアトラクションを模して、赤ちゃんの目の前に大型スクリーンを置いて、視野を占める大きな映像を映しました。赤ちゃんが動きやすいように座布団の上に座らせて動きを計測します。もちろん背後では、お母さんがこっそり支えています。
このアトラクションのコツは、視野全体に映像を流すこと。私たちは、ふだん意識しない、視野の周辺の動きに騙されやすいからです。実験では、まず画面全体の動きを周辺でとらえてもらえるよう、目の前でキャラクターを点滅させて赤ちゃんの注意を中央に引き付けます。そのうえで画面全体が大きく左右に動く映像を見せたところ、赤ちゃんもつられて体を左右に揺らしました。視野全体の揺れを「自分が動いている」と錯覚したためです。赤ちゃんも大人と同じように、映像によって「自己運動感覚」が引き起こされることが分かります。
なぜ生後2ヶ月で泣き止みやすくなる? 片目実験でわかった大脳皮質の働き
次は「視運動性眼振(OKN)」と呼ばれる眼球運動で、その名前の通り、眼球が左右に揺れる不思議な動きです。目の前の視野を横切る大きな動き、たとえば通り過ぎる電車を見るときに生じます。次々に通り過ぎる車両を前に左右に動く眼球運動を詳しく分析すると、流れていく電車を追うゆっくりした動きと、それとは逆向きの速い動きが繰り返されます。ゆっくりした眼球運動の映像だけが意識にのぼるのです。
私たちの実験室では、走る動物の写真に対しても、視運動性眼振に近い眼球の動きを赤ちゃんで観察しました。たとえ写真であっても、そこに動きを感じとる能力が赤ちゃんにもあるのです。
この視運動性眼振は、生まれてすぐにも観察できます。ただし眼球運動の方向に決まりがあり、そこから赤ちゃんの脳の発達を知ることができるのです。
眼球から脳への視覚情報の経路を特定するため、実験は片目で行います。眼球に入る位置により、異なる脳の部位へと向かうからです。意識にかかわる進化的に新しい大脳皮質と、比較的原始的で情動や運動制御にかかわる皮質下、この2つはとても大きく異なります。
実験では、図のように、視野の外から顔の真ん中へ向かう動きと、顔の真ん中から視野の外へと向かう動きを見せました。前者は皮質下に、後者は皮質に伝わる動きです。
結果、生後3か月までは皮質下に伝わる動きにしか眼球運動が起きませんでした。その後は皮質と皮質下、双方の動きに眼球運動がおきました。この結果から、生後3か月までの赤ちゃんは皮質下だけが働いて、皮質は働いていないことがわかったのです。
皮質が働かないといわれても、ピンとこないことでしょう。しかし生まれたばかりの赤ちゃんを観察すると、その独特さが理解できます。生まれたばかりの赤ちゃんの手足はバラバラに動きます。それが生後2か月頃を境に、コントロールされた動きに変化します。また昼夜関係なく泣き叫んでいた赤ちゃんも、生後2か月頃を境に、睡眠リズムが整ってきます。これらの変化は、皮質の働きによると考えられているのです。
静止画なのに動いて見える? 錯視画像を見たときの不思議な目の動き
最後は錯視を見るときの眼球運動です。左の錯視は左右に、右の錯視は上下に揺らいで見えますが、あなたの眼球はどのように動くか想像できますか? 生後6~8か月の赤ちゃんの眼球運動を測って大人と比べたところ、左右に揺れる錯視を見ると目は上下に、上下に揺れる錯視を見ると目は左右に動くことがわかったのです。ちょっと不思議な動きですが、それは赤ちゃんも大人も同じだったのです。
『いっしょにみるこちゃん』にも、動きが見える錯視があります。絵本を赤ちゃんの目の前に見せたら、大画面と同じような効果になります。赤ちゃんのさまざまな動きを観察してみてはいかがでしょうか?
<もっと赤ちゃん研究について知りたい方へ>
赤ちゃんは何を見て、何を感じ、どのように世界を理解しているのでしょうか。
こうした赤ちゃんの発達について、山口真美先生の研究室をはじめ、さまざまな研究機関で日々研究が行われています。
研究内容に興味を持たれた方や、研究への参加を検討されている方は、ぜひ以下もご覧ください。
◆中央大学 山口真美研究室
赤ちゃんの視覚発達や認知発達について研究を行っている山口真美先生の研究室です。
◆中央大学多摩キャンパス 赤ちゃん研究員募集
山口研究室では、生後2~8か月頃のお子さまと保護者の方にご協力いただく研究を実施しています。ご出産前からの登録も可能です。
◆一橋大学こども発達ラボ 参加登録フォーム
一橋大学こども発達ラボでは、0~10歳のお子さまを対象とした発達研究への参加者を募集しています。
◆立教大学白井研究室
立教大学白井研究室では、赤ちゃん〜おとな・高齢者まで、幅広い年代にまたがって視覚発達研究をしています。
ぜひご家族お揃いでご参加ください。
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