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古典にすべてが書かれている。

2020.09.16 公開 ツイート

読み飛ばす勇気を #古典読書入門の秋 4つのルール 坂口孝則

長い歴史のなかを生き残る古典。きっといい本、すばらしい本があるのだろう、とわかっていても、なかなかハードルは高いもの。そこで、本連載で数々の古典をご紹介くださった坂口孝則さんによる、おそれずに古典を読むコツ。

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どれが良い本かわからないならば、古典を選ぶのがいちばん

大学生の頃、大阪の片隅で下宿していた。本棚にあまりに書籍を詰め込んで、さらに、何重に乗せていた。そのころ私の遊び場は、古本屋とライブハウスと映画館だった。逆にそれ以外の娯楽を知らなかったといってもいい。社会人になるころ、本棚を移動したら、取り返しのつかないほど床がへこんでいた。補償を払わず済んだのは平成の奇跡ともいうべき僥倖だった。

そのころは梅田駅の隣の、「阪急古書のまち」に出かけては古本を漁っていた。ほぼタダのような金額で古典が売られていた。よくわからないので、とりあえず何でも読んだ。テニスサークルで騒いでいる学生なら、たぶん違った将来があっただろう。

 

私は現在、企業のコンサルティングに従業している。ところで、この職業の本質は矛盾している。というのも、クライアントは、コンサルタントの知識がほしいから依頼する。しかし、コンサルタントを選ぶのは、知識がないはずのクライアントなのだ。私は理屈で考えれば「とりあえず、候補コンサルタント全員に依頼してみて、良さそうな人を残したほうがいいんじゃないですか」という。初期費用はかかるかもしれないが、“ハズレ”の人とずっと一緒するよりもはるかに費用は抑えられるはずだ。しかし、この意見は一度も採用されたことがない。

これは、大学時代に本を選ぶ際に気づいた。自分は知識がないから本を読む。ということは、本の優劣を理解できるはずがない。どうすればいいいか。すべて読めばいいと。ただ、もちろんこれは理想論で時間も費用も有限だ。そこで、現代に“残っている”順に読めばいいと思いついた。ずっと読みつがれている古典だ。

書店で棚を思い出せば、「古くからある書籍のほうが、これからも棚にあり続ける」と理解するのはたやすい。新しい奇をてらった書籍よりも古典のほうが、はるかにこれからも生き残る可能性が高いのだ。

おなじく、宇宙物理学者のJ・リチャード・ゴットは、旧ソ連を訪れた1977年に、おそらく社会主義は歴史が浅いので崩壊するのではないかと述べている。たった60歳の社会主義国の将来を信じるよりも、それまで続いてきた通常国家の存続を信じるほうがはるかに理にかなっていたのだ(『時間旅行者のための基礎知識』草思社)。

古典を読むと人間の変わらなさがわかる

一日に300冊も書籍が発行されている、と聞いて出版関係でないひとは驚くに違いない。年間に10万冊も登場している。そのなかで、読むべき本を探すのは不可能に近い。読者が30歳だとすると、あと50年。読書家で月に一冊の本を読むとしても、600冊くらいしか経験できない。しかし月に一冊とは多い方で、大半は年に数冊しか手に取らないだろう。もしそうだとすれば、読者が評価し続けてきた古典を読むほうが外さない。

さて、古典を手に取ると、人間が異常なほど同じ問題に拘泥してきたのだとわかる。プラトンだってニーチェだって、問題意識のほとんどは現代に通じている。もっというと、「人間はほとんど同じことしか考えていなかったんだな」と驚愕するだろう。現代の自己啓発書など、哲学書に書かれた内容を100倍に薄めたようなものだ。昨今、新しい議論のように思える国家とプライバシーのありようなども、すでにフーコーが緻密な議論を重ねている。

とはいえ、いきなり古典ばかり読むのも厳しいかもしれない。そこで、古典を読む際のチートテクニックをいくつかあげておきたい。

1.おおむねの内容を把握しておく
どんな天才的な著者でも、時代の無意識からは逃れられない。それを離れた時代の私たちが読むのだ。どうしても、空気として理解できない内容が現れる。そこで、まずざくっとでもいいので、概要を把握しておけばいい。Wikipediaでもいい。

おすすめは、「倫理用語集」(山川出版社)で、思想史や哲学史がコンパクトにまとまっている。

2.全部を読もうとしない
古典を読むと、前述の通り、当時の時代背景だとか、よくわからない固有名詞が大量に出てきてその解説がはじまる。これで古典を読むひとはイヤになってしまうのだ。しかし、我慢して読んでも、きっと翌日には覚えていない。重要なのは、飛ばす勇気だ。固有名詞にこだわらず、著者の主張に耳を傾けよう。

3.誤読を恐れない
正確には「誤読する」となる。正しく意味をつかもうとすると、1ページも進めない場合がある。だから途中で読書をやめてしまう。ここは大胆に「誤読でもいいから、テキストを読んで何か思いついたらいいや」くらいに思っておけばいい。

古典なんて数百円で買える。その数百円で、これまで想像もしなかった内容を考えられるのはなんと幸福なことだろうか。思考の幅こそが宝なのだから、むしろ誤読しよう。

4.読みつがれた理由を考える
これは、私が古典の読書会をファシリテーションする際に必ずやってもらう。「なぜこの古典が読み継がれてきたと思いますか」と議論してもらうのだ。ヒット理由はすべてが後付け、といわれる。古典の仲間入りをしたのも、偶然かもしれない。でも、古典となった理由があるはずなのだ。

そして、なぜ人気を博したかを意識して読むと、非常に面白い。自分はくだらないと思っても、信じられない数の読者がいたのだ。

ところで、最後に個人的な話をしたい。以前、私が楽器の練習をしていたときに、微妙なピッチを聞わけられなかった。あるとき、楽器の雑誌で、相談者が私と同様の質問を有名ミュージシャンにぶつけていた。すると、氏はなんと「あなたがそう聞こえるなら、そのまま弾けばいいじゃないか。それが自由なのだから」といっていた。たしか読んだのは中学生くらいだったが、いまでも覚えているので、私をある意味、救ったに違いない。

古典を読んで画一的な解釈しか許されないのだとしたら、そもそもその本は読みつがれなかったに違いない。古典はどう読んでもいい。

だから、古典を手に取ろう。

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古典にすべてが書かれている。

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坂口孝則

1978年生まれ。調達・購買コンサルタント、未来調達研究所株式会社所属、講演家。大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買に従業。現在は、製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書に『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体』『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』『稼ぐ人は思い込みを捨てる。』(小社刊)、『製造業の現場バイヤーが教える調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。

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