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古典にすべてが書かれている。

2019.02.05 更新

新連載

「中国古典名言事典」があれば、プレゼン、スピーチ、ツイートに困ることはない坂口孝則

■今回取り上げる古典:「中国古典名言事典」
 

古典的作品こそが土台となる

個人的な話だが、私はクラシック音楽から、メタル、ノイズからポップミュージックまでを愛聴している。まわりに誰もいなければ音楽をかけっぱなしにしている。現在、サブスクリプションサービスがさかんだ。アップルミュージックに、スポティファイ、アマゾン、ラインミュージック……。月定額で聴き放題のサービスが増えている。実際に私は三つに加入している。まわりの人間に聞いても、一つくらいは加入している。

しかし面白いことに気づいた。多くの利用者は、無数の未知なる音楽を聴くのではなく、好きなアーティストの楽曲をいつでも聴けるために使用している。あるいは関連楽曲を聴いている。これまで知らなかった楽曲を聴くプレイリストといっても、挑戦したことのないジャンルではなく、既存のジャンルだ。

ただし、それではサブスクリプションサービスを使いこなせていないのではないだろうか。せっかく広大な海が広がっているのだから、これまで自分の人生で接点のなかった音楽を積極的に聴くほうが、人生を豊かにするに違いない。

そこで、私はさほど重視してこなかった、ソウル、オルタナ、ブルースやモータウンなどのオールディーズ、などを聴きはじめた。そこで何を聴けばいいか。もちろん現在のヒットチャートもいい。ただ、もっといいのは、歴史の試練をくぐり抜けてきた定番を聴くことだ。そうすると、なんとなくではあるものの、それぞれのジャンルにおける鉄板の曲と現代への影響がわかってくる。

なぜかはわからない。ただし、古典や定番曲には、多くのひとを長く惹きつける魅力がある。それは偶然に生み出されたものがほとんどだろうし、狙ったものばかりではない。しかし、やはり、基本として押さえておくべき作品がある。

それはきっと音楽ではない、他のジャンルでもおなじだろう。

そもそも古典とは何か?

今回の連載から、仕事やビジネスに役立つ古典を紹介していく。ところで、古典といっても定義が明確ではない。現在では、書籍が発刊され、数ヶ月で書店に並ばなくなる時代だ。一日、300冊もの書籍が発売される。昨年の書籍であっても、ほとんどのひとがその存在を知らない。そのなかで中長期的に読まれるのは至難の業だ。もはや、そこで、この連載では、次のように決めておく。

・発売して10年を経過しても読む価値があると私が思うもの
・絶版になっておらず、書店等で購入できるもの

さらに、私が勝手な基準として、以下を設定する。

・私がいまだに捨てずにもっているもの

この三つの条件で。今回から紹介していきたい。10年というのは古典として呼ぶのは強引かもしれない。しかし、現在、かつてとくらべて5倍、10倍の速度で時代が流れているのだとしたら、以前の50年、100年に値するに違いないからだ。

「中国古典名言事典」は情報を発信する人に役立つ

そこで、初回に紹介したいのは、「中国古典名言事典」だ。これは、次にあてはまるひとたちに絶対に役に立つ。

・情報を発信するひと
・人前でスピーチをする必要のあるひと

すなわち現代の全員かもしれない。作家ではないとしても、ブログやSNSで情報を発信するひとは大半だ。さらに会社員としても、資料作成などを通じて、なんらかの情報を自分以外のひとに提供しているだろう。

さらに現在では、プレゼンテーションをする機会が増えている。そのようなときに、聴衆に突き刺さる印象的な言葉、フレーズを残せるかが重要だ。さらに、客先への提案もあるだろう。また、スピーチもある。また、それほどかしこまった場ではなくても、他者に伝達する場面は多い。

この「中国古典名言事典」は、文字通り、中国の古典のなかから現代に通じる名言を拾い、漢文・読み下し文・現代語訳をひたすら並べたものだ。おそらく、これを自分なりにアレンジするだけで、毎日のようにエッセイ、ブログ、ツイートなどが書けるだろう。

中国の古典といってもバカにしてはいけない。いまだに「論語」が読みつがれるのは、そこに、2000年以上、変わらない人間性が抉られているからであり、倫理・道徳が抉られているからにほかならない。実際に、読み、伝承され続けてきた名言に触れるのは、意味があるだろう。

おそらく、文章の書き方、といった類の書籍を読むよりも、はるかに「そのまま使える」内容にあふれている。

たとえば「論語」は名言の宝庫

この「中国古典名言事典」は、「論語」「孟子」「大学」……といった書物単位での名言を取り上げている。同時に、索引では、「人生」「道徳」「政治」といった、ジャンルごとにも並べてくれている。

本書は1000ページを超える大著だが、パラパラとめくってみるだけで現代に応用できる名言に出会う。たとえば、「論語」から、次はどうだろうか。

「之を知る者は、之を好む者に如かず。(中略)何事も、それを知っているというだけでは、それを好むというような人の力には及ばない」

これなど、ポスト資本主義のあと、ロボットとAIが人間を代替し、単なる情報はグーグルで検索すればいいから、あとは好きなことでプロフェッショナリズムを磨こうと語る論者そのものではないか。

おなじく「論語」から、これはどうだろう。

「未だ之を思わざるなり。夫れ何の遠きことか之あらん。(中略)気にかけていつも思っているのだが、つい遠いので、と人はいう。しかし、それはまだ思い方が足りないのだ。もし本当に気にかけているのであれば、どこであろうと、遠近などは問題にならないはずだ」

これなど、多動力や、とにかく行動することの重要性を語っているように思える。さらに、行かない奴は心配していないのだ、と炎上を巻き起こしそうな、過激な発言ともなっている。

さらには、次はどうだろう。

「郷人の善き者は之を好み、其の不善なる者は之を悪まんには如かず。(中略)八方美人、すなわちあらゆる人からよくいわれることがよいのではない。善い人からは好かれ、悪人からは憎まれる。それが正しい人間である」

これなどは、ツイッターでアンチから絡まれる有名人に捧げたエールのようではないか。自身の発言を曲解し意図的に批判してくるひとを無視せよ、と私には聞こえる。

ところで、これは私がもっとも好きな一節だ。

「直を以て怨みに報い、徳を以て徳に報いん。(中略)理不尽なしうちを受けたばあい、これに徳をもって報いるのを立派な態度とする人があるが、わたしはちがう。そういう非難に対しては、公平な判断でその非道に相当する報いをすべき」

とまで書いている。「論語」に限らず、さまざまな古典が「中国古典名言事典」には収められていると述べた。そして、それらは道徳の教科書ではないし、なかには過激ともいえる考えがあふれている。

もっとも浅野裕一さんの「儒教ルサンチマンの宗教」、パオロ・マッツァリーノさんの「エラい人にはウソがある」で書かれているとおり、孔子というひとは後世になって神格化されている側面がある。「中国古典名言事典」を読んだあとに、気に入った古典をあらためて読んでもいいし、周辺の解説本を読めばいろいろと広がっていくだろう。

また、これは「中国古典名言事典」のなかで後半の「文章軌範」のなかに出てくるものだ。「罪の疑わしきは惟れ軽くし、功の疑わしきは惟れ重くす。(中略)罪の軽重の疑わしいときは、軽い罪に定めるがよい。反対に功の軽重の疑わしいときは、重い功に定めるがよい」とある。正確には無罪ではないものの、推定無罪の原則と、人材評価の原則が、この時代にも同様に考えられていたことに驚く。

仕事の答えは名言のなかに眠っている

こうやって見てみると、名言というのは、外見を変えただけで、内容は繰り返しのような気がする。私は、いちど、この「中国古典名言事典」に書かれた名言だけを使って、現代風にアレンジしたビジネス書が書けないか検討している。流行ではなく、答えは、不易のなかにこそ眠っている。

仕事がもし他者の心を揺り動かして対価を得るものだとしたら、まさに古典こそはそのネタの宝庫ではないだろうか。その意味でも、「中国古典名言事典」を紹介した。冒頭で私は古典的名曲について、なぜかはわからないものの、多くのひとを長く惹きつける魅力があると書いた。

現在、ABテストという言葉がある。市場に出す前に、二つのサンプルを作って、どちらの反応がいいかを試すものだ。しかし、もはや多くのひとが無数の試行錯誤をしてくれている。そして、結果も明らかだ。あ、しまった。このことすら、すでに古典名言にあるではないか。

「故きを温ねて新しきを知る」と—ー。

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坂口孝則

調達・購買コンサルタント/未来調達研究所株式会社取締役/講演家。
2001年、大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買、資材部門に従業。
製造業を中心としたコンサルティングを行う。
著書に『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体』『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』(小社刊)などがある。

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