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古典にすべてが書かれている。

2020.02.05 更新 ツイート

カール・マルクス『賃労働と資本』で気づく

日本人の給料が上がらないのは牛丼が安いままだからかもしれない坂口孝則

■今回取り上げる古典:『賃労働と資本』(カール・マルクス)
 

 

カール・マルクスが描いた労働者の賃金の決まり方

この連載では、誤読であってもかまわないので、古典を読みながらあれこれと現代に通じる教訓を得ようと試みてきた。

今回取り上げるのは、カール・マルクス『賃労働と資本』(岩波書店版)だ。

マルクスは階級社会の構造を描き、資本主義社会がいかに成長するか、そしてその後に社会主義革命が必然であることを壮大なるスケールで構想した。

 

労働者は生産物をつくる。なぜか、それは人間に生きる意味を与える行為だからだ。しかし、資本主義社会の肥大によって、資本家は、労働者に、労働を生きる手段としてのみ使うことを強いる。労働は工場において分業化され、一人ひとりの労働者は人間性を奪われた作業だけを繰り返すことになる。

労働者は生活のためにやむなく労働を切り売りし、そして、労働者たちは資本家から生活に最低限の給与しかもらえなくなる。本来、労働とは生産物のなかに自分を投入し、社会とのつながりを創出する。しかし、労働は自分のためではなく、たんなる生活費と資本家のために捧げられるようになり、労働者は人間として疎外を感じるようになるのだ。

<彼らが現実に資本家にたいして貨幣とひきかえに売るものは、彼らの労働力である。(中略)労働力は、あたかも砂糖と同じように一商品である。一方は時計で測られ、他方は秤で測られる(P41)>

だから、労働者階級と資本家階級との闘争に発展するのは当然である。そのように考えたマルクスは、膨大な文量の『資本論』を書くことになるのだが、前哨戦として、賃金がどのように決まっていくかを描いたのが、今回、紹介する『賃労働と資本』となる。

ところで、堅苦しい解説はやめておきたい。このような解説ならどこでも読めるので、私が厳密さをはぶいて、軽く説明していきたい。

私たちの給料は牛丼の値段の決め方と同じ

マルクスは、私たちは牛丼なんだという説を語った。私なりにいうと、そういうことになる。これは当時、世の中のひとたちに、ものすごく衝撃を与えた。マルクスは、すべては結局のところ、なんでも取引なんだ、と考えた。一人の労働者にしてみれば、生きていく以上は、自分という商品を売り物にして、それを誰かに買ってもらうしかない。その買い手のことをマルクスは資本家といった。正確ではないが、資本家とは株主とか会社とかと思っておけばいい。

<労働力の売却を唯一の生計の道とする労働者は、自分の生存を断念することなしには、全購買者階級すなわち資本家階級を見捨てることができない(P46)>

じゃあ、その資本家は、どうやって、労働者に払う対価を決めるのだろうか。

そこで出てくるのが、私たち=牛丼の考え方だ。牛丼は、牛肉とご飯、玉ねぎ、タレなどのコストを積み上げていって、あとはお箸とか、店内の光熱費とかを計算して、380円で売ろうかなとか、やっぱり370円かな、といったふうに価格が決まる。労働者たちが牛丼だとすれば、牛丼の原材料にあたるのは、生活費だ。つまり、私たちが人間として生活できるコストを積み上げて給料が決まっている、というのだ。

私たちは生活するために、衣食住が必要だ。そして、通信費などもかかる。それらを加算していって、世間一般ではこれくらいあればいいという相場が決まる。いまでは各都道府県の最低生活費も、ネットで調べればすぐに出てくる。

<労働の価格は生産費によって、すなわち、この労働力という商品を生産するに要する労働時間によって、規定されるであろう。
では、労働力そのものの生産費とは何か?
それは、労働者を労働者として維持するために、また、労働者を労働者として育てあげるために必要とされる費用である(P54)>

<ほとんど全く教育時間を必要とせず、労働者の単なる肉体的生存だけで間に合うような産業部門では、彼の生産に必要な生産費は、ほとんどただ、彼の労働可能な生活を維持するために必要な商品だけに限られる(P55)>

牛肉がキロあたり1000円のタイミングもあるかもしれないし、900円のタイミングもある。でも、いちいち価格を変えていられない。「牛肉のコストはだいたいキロあたり950円で考えたら、問題ないでしょ」と設定される。

労働者一人ひとりもおなじだ。私は浪費家だとか、スポーツカーを買いたいといっても、個々の事情は考慮されない。生活費の平均値を上回る部分は、諦める必要がある。しかし、社員が優秀で、ものすごい成績を残すかもしれない。それでも、その成果の大半は、雇用している側の取り分だ。同期とくらべて、すこし給料の差がつくかもしれない。ただ牛丼である私たちは、資本主義の構造上、資本家以上にはなれない。それは、資本の利回りのほうが、労働の利回りよりも上回ると語ったピケティにも通じる。

近代経済学者に否定されたマルクスが生き残る国

牛丼が薄利なのは、広く知られている。私は『牛丼一杯の儲けは9円』という本まで書いた。「だって牛丼でしょ。安くて当然でしょ。コストも安いでしょ」と消費者が思っているので、1000円は払わない。牛丼が薄利で、牛丼が私たちだとすれば、私たちの労働結果である給与をもらっても、まったく預貯金がたまらないのは当然といえるかもしれない。

なお、ここまでがマルクスの考えた「労働価値説」という。

私は新入社員のころ、「給料というのは凄いな。ちょうど、生活できるギリギリに設定されている」と感心した。

私はマルクスの「労働価値説」を全面的に賛成するわけではない。あまりにも単純化したモデルで、いわゆるホワイトカラーをすくいあげていない。さらに、おなじような産業でも、給与がばらつくことは知られている。

また、いまやテクノロジーが進み、ほとんど資本をもたなくても、起業が可能であり、資本家と労働者という構図自体が古く感じる。マルクスについて「そんな単純なものじゃないよ」と、経済学者からは否定されている。

しかし、私は、マルクスのこのような記述に驚かされる。というのは、マルクスは、そもそも労働者が搾取される存在であることを嘆くだけではなく、資本家同士の争いについても書くのを忘れていない。

<生産様式、生産手段はたえず変革され、革命されるのであり、分業はより進んだ分業を、機械の使用は機械のより進んだ使用を、大規模な作業はより大規模な作業を、必然的に生ぜしめるのである(P77)>

<工場は、機械によって免職された一人の男子の代わりに、おそらく三人の子供と一人の婦人とを雇うであろう! (中略)空高くさし延ばして仕事を求める腕の森はますます繁ってゆき、腕そのものはますます痩せていく(引用者注:このような詩的な表現がマルクスの魅力だと思うが、さほど語られない)(P83、P84)>

<資本家たち相互間の産業戦(中略)の特色は、労働者の募集によってよりもむしろ解雇によって勝利が得られるということである。将軍たる資本家たちは、相互に、誰が最も多く産業兵卒を駆除するかを競争する(P81)>

こう考えてみよう。企業は従業員を雇う。そこで生産効率性をあげさせ、そしてマニュアル化を徹底する。ノウハウをため、それが作業標準書などに具体化される。そうすれば、あとはロボットでも、あるいは他の機械に代替させることによって、労働者を代替できる。労働者は、すなわち自己の仕事を減らすために努力するのであって、その先にあるのは自分の労働の消滅すだ。さらに昨今では、AIやRPA(業務自動ロボット)などがトレンドだ。むしろ、マルクスの予言は正しかったのではないか? 

マルクスは、現状分析から社会主義の実現、共産主義の国家を目指した。しかし、ソ連などの失敗をつぶさに見たいま、私たちはその解決策を採用するわけにはいかない。

ただ、労働が疎外され、そして、一人ひとりの匠の技を使うものづくりが再度、脚光を浴びているのは、おなじくマルクスが幻影のようにただよっているように思う。あえて抽象的に書く。一人ひとりが丁寧な仕事を重ね、そこから自分と社会のつながりをつむいでいくこと。

これが大切になってくるに違いない。

正しい解釈にこだわらずに自由に古典を読もう

2020年2月21日に、読書術の古典、ショウペンハウエル『読書について』をとりあげる読書会を実施する。書籍をもってきていただければ大丈夫で、事前にお読みいただく必要はない。

・岩波文庫版を持参
・電子書籍ではなく、紙版がふさわしい
・読んでいなくても参加可能
・可能なら気になった箇所を読む
・さらに可能なら全編を読む

当日は意見交換をしながら、大胆に誤読してビジネス等のヒントを解説していきたい。

少しでもご興味あるかたのご参加を心からお待ちします。
 

<古典とどう付き合えばいいのか? 坂口孝則さんはどう読んでいるのか? 読書会概要>

<日程・図書>

2020年2月21日(金) 19時30分~21時30分(19時00分開場)
【古くから生き残っているものの強さを学ぶ】
ショウペンハウエル『読書について』(岩波文庫)

※各自で課題図書をご購入のうえ、当日ご持参ください。講座で使用する書籍は岩波文庫版です。購入の際お気を付下さい。

<参加費>
2,500円(税抜)

<会場>

3×3Lab Future

東京都千代田区大手町1-1-2 大手町タワー・JXビル1階
東京メトロ東西線・千代田線・半蔵門線・丸の内線・都営三田線 「大手町駅」(C10出口)より徒歩2分
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※施設の入り口について  C10出口を上がり、大手町パークビル側に入り口があります。 C10出口近くのオフィス入り口(西村あさひ法律事務所様、JXグループ様受付)とは異なりますのでご注意ください。
※会場には駐車場・駐輪場がありません。公共交通機関をご利用ください。

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坂口孝則

調達・購買コンサルタント/未来調達研究所株式会社取締役/講演家。
2001年、大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買、資材部門に従業。
製造業を中心としたコンサルティングを行う。
著書に『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体』『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』(小社刊)などがある。

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