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古典にすべてが書かれている。

2019.12.26 更新 ツイート

付け焼きの意見を垂れ流す〈知的賤民〉の愚かさを200年前に指摘した読書術の古典坂口孝則

■今回取り上げる古典:「読書について」(ショウペンハウエル)

世の中に断言できることは多くない

「読書」をタイトルに冠したこの記事を読むくらいだから、読者は読書家にちがいない。私も手当たりしだいに書籍を読み漁ってきた。一日に2冊は書籍が届く。書店で購入するものも入れると相当な数になる。

むかしは購入した書籍をせっせとスキャンしていた。しかし、いまでは気に入った箇所をスマホのカメラで撮影しておく。読み終わったら売却する。どうしてもほしい書籍があつたら、中古でもすぐさま手に入る時代になった。

なぜ書籍を読み始めたかというと、それはたんに楽しかったから、という経験があったにほかならない。教養だとか、知識とか語るひともいるけれど、きっかけは、ただただ愉悦があってのことだろう。

ただし私の場合、ちょっと複雑で、働き始めてから、さまざまな業種の方々と話す必要があった。その際、てっとりばやく業界の知識を得られるのが書籍だった。さらに、そのあと、メディアに出るまでになった。そうすると、どういう質問がやってくるかわからない。知らないと、なんだか白けた雰囲気になる。

 

もちろん「知りません」といえばいいところだけれど、あるていどの分野をカバーしておいたほうがいいに決まっている。だから、正月は「現代用語の基礎知識」を必ず買って、暇なときに読むようにしている。

私はできるだけノンポリを心がけている。政治とプロ野球と歴史観を語りだすと、私のように実業をやっている人間はおしまいだ。それは評論家のプロにまかせるほうがいい。また、書籍を膨大に読んでいるとわかるのは、物事は単純ではないことだ。正義と思われていたひとが、実は巨悪かもしれない。善人とおもっていたひとが、悪人かもしれない。また、その逆もある。よのなかに断言できることなど、そう多くありはしない。

ある種の信念を育てようと思ったら、まずは書籍を徹底的に読み、事実を知ること。そして、その後に、書籍を横に置いて、じっくりと考えること。むかし、有名な知識人が、最新ニュースについて意見を求められたときに「語るには早すぎる」といったという。まだ熟考が足らない、とその知識人はコメントを拒否した。現代の真逆である。現在は、何かを知ったとたんに誰もが語りだす。

ネットニュースを見て、そして、なにかに感化されて、すぐに発言が飛び交う。その多くは練られたものではなく、瞬間芸にすぎない。読んだものの真偽すら確認せずに、読んだものを盲信し、さらに焼き直しの意見ばかりが瀰漫していく。

ショウペンハウエル『読書について』を今読むべき理由

ところで、このような焼き直しのコトバばかりが飛び交うこと。これも、古典で、形を変えて指摘されている。ショウペンハウエル『読書について』だ。

同書はまぎれもない傑作である。岩波文庫版は、なによりも薄くて、簡単に読める。同書は、『思索』『著作と文体』『読書について』の三篇が収録されている。そして、いろいろと考えさせられる。

<読書で生涯をすごし、さまざまな本から知恵をくみとった人は、旅行案内書をいく冊も読んで、ある土地に精通した人のようなものである。こういう人は報告すべき材料をいろいろ持ち合わせているが、その土地の様子についてはまとまった知識も、明瞭な基礎的知識もまったく欠いている>

自分のことを指摘されたのではないかと思うほどの記述が続く。

熟考を重ねることなく、ただただ、右から左に思想を流す人間は、著者からすると「知的賤民」とまでいわれる。

<気取りすましてものを書く者は、下賤な者と間違われないため、ぴかぴかの美服をまとう者に似ている。ジェントルマンたる者は、いかに粗末な衣服を身にまとっても、そういう危険なまねは決してしない。だからある種のけばけばしい服装、入念に飾り立てた衣装は賤民の印であるように、気取った文体は知的賤民の印である>

私は文体こそ人柄をあらわす、とは思っていない。いろいろな人間がいるだろう。ただ、考え抜いた意見をいうひとの様子と、付け焼き刃の意見をいうひとの様子は、たしかに異なる。それが広い意味での文体ともいえるのならば、著者の次の指摘は重い。

<さて主題にもどって、もう一度簡潔な文体、充実した高雅な文体について考えてみよう。真の意味でこのような文体はただ豊かな思想、内容あふれるばかりの思想から自然に生まれて来るもので、私がきびしくとがめた貧しい方法をいささかも必要としないのである>

<そこですぐれた文体たるための第一規則は、主張すべきものを所有することである。あるいはこの規則は第一規則どころではなく、第二第三をほとんど必要としないほどの、充分な規則と言ってよい。実際この規則だけで文章の道を踏破することができる。>

つまり、語るべきもの――他者のモノマネではなく――を有しているものならば、自然にすぐれた文体になるといっている。なるほど、それは文体だけではなく、誰かが語るときの、ある種の“凄み”にも反映するのかもしれない。何かを考え抜いたひとが語るときの、間然できない感じ。半端者が口を開こうものなら、圧倒され無言のうちに反駁されそうな感じ。そんじょそこらの人間だったら、うなずくことしかできない、あの感じ。

無知な金持ちは家畜に近い

もう一度、同じ箇所を引用したいと思う。

<読書で生涯をすごし、さまざまな本から知恵をくみとった人は、旅行案内書をいく冊も読んで、ある土地に精通した人のようなものである。こういう人は報告すべき材料をいろいろ持ち合わせているが、その土地の様子についてはまとまった知識も、明瞭な基礎的知識もまったく欠いている>

こう書いてある本書が、読書家から支持を受け続けた理由はなんだろうか。それは読書家の自省なのだろうか。あるいは、自分を棚に上げて、他の読書家が思惟を重ねていないことを、一緒になって嘆いてみせているのだろうか。同時に、著者は反教養主義者でもない。無知を良しとせず、むしろ、金持ちが無知だと救いようがないと書いている。

<無知は富と結びついて初めて人間の品位をおとす。貧困と困窮は貧者を束縛し、仕事が知にかわって彼の考えを占める。これに反して無知なる富者は、ただ快楽に生き、家畜に近い生活をおくる。その例は、日々目撃することができる。だが富者に対する非難は、これに尽きない。富と暇の活用を怠り、富と暇に最大の価値を与える生活に意を用いなかった点にさらにとがめるべきである>

私は冒頭で、熟考を発言の前提とした知識人の話をした。読書家である私たちは、これからどのように読書をするべきだろうか。答えは簡単で、読書だけではなく、特定のテーマについて考え続けるしかない。書籍を盲信するのではなく、思考を鍛えてくれる相手だ、格闘相手だと思って、つねに自分の頭で批判的に読むしかない。

このショウペンハウエル『読書について』の主張がそうである以上、この『読書について』とて妄信的せずに読むべきだろう。そして、私が思うに、現代的な読み方は、ネットを通してつながった読書会という形でもって、なかなか出会う機会のない他者とリアルな場で、じぶんの思惟の重なりを交換し合うことではないか、と私は思うのだ。

ネットの時代だからこそ、リアルな場で話す読書会が注目されている。ネット上では軽薄な意見も重厚な意見も等価に並ぶ。しかし、リアルでは、語り手の息遣いや、熱意から、その思い入れまでもが伝播する。その次代の文脈からすれば『読書会入門(山本多津也さん)が受け入れられたのは時代の必然というしかない。

正しい解釈にこだわらない読書会

2002年2月にショウペンハウエル『読書について』をとりあげ読書会を実施する。書籍をもってきていただければ大丈夫で、事前にお読みいただく必要はない。

・岩波文庫版を持参
・電子書籍ではなく、紙版がふさわしい
・読んでいなくても参加可能
・可能なら気になった箇所を読む
・さらに可能なら全編を読む

当日は意見交換をしながら、大胆に誤読してビジネス等のヒントを解説していきたい。
少しでもご興味あるかたのご参加を心からお待ちします。

 

<坂口孝則さんと古典を読む読書会概要>

<日程・図書>

2020年2月21日(金) 19時30分~21時30分(19時00分開場)
【古くから生き残っているものの強さを学ぶ】
ショウペンハウエル『読書について』(岩波文庫)

※各自で課題図書をご購入のうえ、当日ご持参ください。講座で使用する書籍は岩波文庫版です。購入の際お気を付下さい。

<参加費>
2,500円(税抜)

<会場>

3×3Lab Future

東京都千代田区大手町1-1-2 大手町タワー・JXビル1階
東京メトロ東西線・千代田線・半蔵門線・丸の内線・都営三田線 「大手町駅」(C10出口)より徒歩2分
Googleマップで見る

※施設の入り口について  C10出口を上がり、大手町パークビル側に入り口があります。 C10出口近くのオフィス入り口(西村あさひ法律事務所様、JXグループ様受付)とは異なりますのでご注意ください。
※会場には駐車場・駐輪場がありません。公共交通機関をご利用ください。

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坂口孝則

調達・購買コンサルタント/未来調達研究所株式会社取締役/講演家。
2001年、大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買、資材部門に従業。
製造業を中心としたコンサルティングを行う。
著書に『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体』『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』(小社刊)などがある。

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