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ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた

2022.05.28 公開 ポスト

東京からロンドンへ。流転しながら生きる姿に魅了される幻冬舎編集部/鈴木綾

ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』(鈴木綾さん著)の発売前にゲラを読んで感想を送ってくださる方を募集しました。感想の文字数を(100字以上)としていましたが、実際、届いたのは、しっかりとした分量の文章ばかり。少しずつご紹介します。今日は42歳の女性からの感想です。

(写真:iStock.com/Nattakorn Maneerat)

読了すると応援したくなる

日本語が母語でなく、日本人ではないバリキャリ女性がロンドンで働き、仕事とプライベートを通して考える、フェミニズム、人間関係、恋愛、その他の社会問題、イギリス文化、日本文化等々、最新の話題を鋭い視点とユーモアたっぷりの日本語で綴ったエッセイだ。

著者は、ご自身と同世代か、それより若い方に向けて書かれたようだけれど、わたしは彼女より世代が上だ。しかし、この本の内容には共感できる部分がたくさんあって楽しく読んだ。 

東京で働いていた著者が働きづらさを感じてロンドンへ移る。東京での極めて不愉快な実体験とそれに対する考えがとてもリアルだ。日本で働く女性であれば大なり小なりセクハラされた経験があるか、もしくは見たこと聞いたことがあると思う。著者のお父様が日本で働く上での注意事項3つの中に「セクハラ」を入れたことに、「間違いない!」と膝を打つと同時に恥ずかしく悲しくなった。彼女のような体験が元で日本人外国人問わず日本を出ていく優秀な人材流出の指摘は、昨今実感があるだけに改めてがっかりした。 

セクハラ地獄の日本を脱出した著者がロンドンでは女性軽視の世界から解放されたかというとそうではない。日本よりは「億倍マシ」だがやはり女性軽視の体験は続く。女性に求められる協調性ややさしさ、高いポジションであっても女性だと業務以外の雑用を頼まれる等……。自分の経験に照らし合わせても「あるある。」と共感する。程度や内容は違っても、今のロンドンでも女性ということでアンフェアな扱いを受けるという事実が、日本の地方で働くわたしは軽くショックをうけた。

しかし著者は嘆くだけで終わらない。かといって声高に立ち向かうのではなく、仲間と話し現実に沿った対処法を見つけていく。著者の友達が考えた「ハリーの試金石の法則」や「女性のキャリア形成のための言葉の選び方」はとても実践的だと思う。一方で、若く優秀な女性達がこういう対処法を考え出さなければいけない状況に落胆する。 

妖精が好きと語り出す個性的なシェアメイトとの生活は読んでいて面白く、何よりトリッキーなシェアメイト達への、著者の深い理解と柔軟な対応には脱帽した。著者は彼らの理解しがたい行動を目にしても、怒って即シェア解消とせず、話をして相手を深く考察する。彼らの生い立ちを理解しようとするし、共通点を見つけ出す。自分の想像を超える行動や言動をする人達とともに生活するのはストレスにもなりそうだが、著者は「変わった家族の形」と彼らをありのままの姿を受け入れて学んでいく。こういう姿勢が読んでいて眩しく映る。 

加えて、著書の書く日本語は「ドラゴンボールに例えたらスーパーサイヤ人レベル」「黒歴史」「がっちがちの」等々、ポップでクスッと笑ってしまう。また、恋人未満友達以上の微妙な関係の面倒くさい男性とのやりとり、未婚状況について親戚からのありがた迷惑な心配、やっかいな会社のレクリエーション、購入品から考える本当のエコとは等は、全く同じではないけれど、聞いたこと、経験したことがある内容で同僚もしくは友達に対して「うんうん、そうね。」と相槌を打つ感覚で読めて親近感がわく。 

移ったロンドンでも、望み通りの生活できるわけではないけれど、著者は悲観せず進んでいく。「どこにいても必ずハプニングがある」し、「自分の辛さも笑いに変えて楽になる」といってポジティブだ。 

読了すると著者を応援したいと思う感情が生じた。応援したいと思えるのは、「自分のドラマを精一杯生きている」著者に対する共感や親近感が大きい。それと、もう一つ。著者は何かハプニングや相容れないことが起こっても偏った価値観で見ないように努めて、試行錯誤する。

自分が同じ状況に遭遇したときどうだろうかと考えたときに、ステレオタイプに囚われないなんて言いきれないし、著書のように深く考えが及ぶだろうかと思う。誰でも自分が経験したことや学んだことを基軸に物事を捉えがちで、このエッセイを読むと、そうして培った基軸が偏見やバイアスとなり自分の考えの中に無意識のうちに凝り固まってしまうということを改めて気づかせてくれる。 

複数の国籍の人たちや文化が入り混じる国際都市で働くことは自国であっても大変なのに、自国でないとなれば簡単ではないことは自明だ。一筋縄ではないけれど、自らそういう場所に身を置く著者のタフさを心から賞賛する。何かに囚われることなく、ありのままの素直な気持ちを大切にして自身が心地良いと思える「居場所」をつくってほしいと思う。単に物理的な場所ということではなく、絆や繋がり等々。しなやかな知性とともに流転する著者に魅了されたわたしは、彼女が次のステージで何を見てどう感じるのかがとても楽しみだ。 

関連書籍

鈴木綾『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』

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ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた

大学卒業後、母国を離れ、日本に6年間働いた。そしてロンドンへ――。鈴木綾さんの初めての本『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』について

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幻冬舎編集部

幻冬舎編集部です

鈴木綾

1988年生まれ。6年間東京で外資企業に勤務し、MBAを取得。ロンドンの投資会社勤務を経て、現在はロンドンのスタートアップ企業に勤務。2017〜2018年までハフポスト・ジャパンに「これでいいの20代」を連載。日常生活の中で感じている幸せ、悩みや違和感について日々エッセイを執筆。日本語で書いているけど、日本人ではない。

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