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ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた

2022.05.16 更新 ツイート

「国籍」を明かしてもらえない不安感が浮き彫りにするもの 幻冬舎編集部

発売前の4月に『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』のゲラを読んで感想を送ってくださる方を募集しました。感想の文字数を(100字以上)としていましたが、みなさん、しっかりとした分量、文章で送ってくださいました。ここで少しずつ紹介していきたいと思います。まずは、鈴木綾さんの国籍に注目してくださった相川藍さんの感想です。

(Photo by Tyler Lastovich on Unsplash)

大事なことが、書かれていない理由

ロンドンのデート事情、ロックダウン下の日常、エコライフやビーガンの最前線、そして、イギリス人が大好きなビスケットのこと。鈴木綾さんのエッセイは、グローバルな視点に立脚した知的好奇心に加え、大きなテーマを茶目っ気のあるオチでまとめるような庶民性もあって魅力的だ。しかし一方では、終始何かを試されているような不安な気分がつきまとう。なぜなら、この本には、いちばん大事なことが書かれていないからだ。

日本文学を愛し、日本名をもち、こなれた日本語で文章を書く鈴木綾さんは、実は33歳の外国人女性。母国で日本語を勉強し、日本に移住し、ゼロから人脈とキャリアを築いたという。6年間、東京の外資系メディア会社に勤務したが、その後、MBAを取得してロンドンへ。本書には、多彩な国籍の人々との交流が描かれるが、肝心の彼女自身のルーツは不明だし、日本人でもイギリス人でもない彼女が、母国にどんな思いをもっているのかも語られない。

不安はもうひとつある。彼女にとって日本は通過地点であり、結局のところ「東京より、住みづらいロンドンを選んだ」という事実。しかもその主な理由は、日本での耐え難いストーカー被害やモラハラやセクハラだったのだ。これらは、私たちがふだん我慢を強いられているようなことかもしれないと思うとぞっとするし、外国人差別の一面もあったのかもしれないと想像すると、さらにぞっとする。

彼女は、日本文化を誇りに思っていても、日本企業に勤める必要はないと、はっきり言っている。日本にいても、仕事で自分の能力は活かせず、能力に見合った給与ももらえず、結婚との両立は難しく、子供を生んだ後の出世はもっと難しいからだと。日本へのたしかな愛情とともに、遠い場所から冷静に投げかけられる彼女の言葉は、言語的にも地理的にもコロナ政策的にも、世界から取り残されてしまった我が国の苦境を鋭くえぐる。耳が痛いとしかいいようがない。今のままでは、この国は、貴重な人材の流出を止めることができないだろう。

日本に閉じこもっている私たちも、もう目を閉じているわけにはいかない。いちばん大事なことは彼女自身のルーツだと書いた私は、まさに自分の小ささを突きつけられる思いだ。「最初に私の国籍を知ったら、あなたはステレオタイプな先入観や偏見を持つのでは?」という彼女の声が聞こえるような気がするのである。だが、彼女は私を試してなんかいない。鈴木綾という親しみやすい名前で歩み寄り、「あなたも私と一緒に一歩踏み出そう」と誘ってくれているのだと思う。

――相川藍(あいかわ・あい)

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鈴木綾『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』

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