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ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた

2023.05.11 公開 ツイート

結婚でも出産でもなく、「人生を変えたい」ともがき続ける女性たちへ【再掲】 ひらりさ

5月13日(土)に鈴木綾と「それでも日本で生きていく? 日本脱出とフェミニズムの可能性」講座を開催するひらりささん。イギリスに留学中だったときの気持ちを過去記事よりお届けします。

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いっしょに笑って、ときどき背中を押されて。綾さんの文章は、長年の親友みたいに凛々しくてやさしい。
そう、『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』に推薦コメントをくださった、ライターのひらりささんは、ただいま、ロンドンの大学院に留学中。鈴木綾さん同様、一筋縄でいかないと感じるロンドンで暮らす同世代として、どんなふうに読まれたのでしょうか?

(写真:iStock.com/Paolo Paradiso)

一回しかない人生をいかに豊かに耕すか

「人生を変えたいなら、時間配分を変えるか、住む場所を変えるか、付き合う人を変えるかしかないって言うよね」

何度目かのカタストロフィ、両手の指でおさまらない回数の人生コンサルティング。ともに30歳を迎えた親友は、もはやわたしに寄り添わない。「こうしたら?」という方向を指し示さない。いや、LINEは返してくれるし、会って話は聞いてくれるし、慰めの言葉もかけてもくれる。でも、最後の最後で、わたしとの間にしっかりと「隙間」をつくっておこう、という意思が感じられる。最終的には、自分が気の済むようにしかやれない人間がわたしだと、10年の付き合いで理解されているからだ。

彼女はすでに結婚し、仕事では役職も得ている。わたしは、結婚したいか出産したいかそもそも固定の恋人が欲しいかもよくわからない。「みんな結婚しはじめたしなあ……」とマッチングアプリに何度か手を出しては病んで右往左往し、酔っぱらうと、何年も前の恋愛のことをねちねち話しては周囲を無音にする。仕事も、本業の会社員業でもライター業でも一定の評価を得ているものの、やはり飲み会で「30歳以降のことを考えたくない〜!」とくだを巻く。

一応、努力はしてきたのだ、20代のうちにも。でも、どこかで「なんか違う」「居心地が悪い」と思い続けて、自分のことがずっと嫌いだ。もしかして、自分が好きか嫌いかなんてところで止まってるの、同年代の友人でわたしだけ? さすがに30歳だし、なんとかしたい。時間配分と住む場所と付き合う人をいっぺんに変えられないだろうか……。そんなわけで32歳、会社をやめて、ロンドンに移住し、大学院に通うことにした。

人生に自分なりの大変化を起こして、半年。結論としては「時間配分を変えても、住む場所を変えても、付き合う人間を変えても、人生はそうそう変わらない」。10年経ったら変わるかもしれないが、半年の時点では、英語もろくにしゃべれないし、毎日文献を読むのにアップアップだし、自分グジグジ人生は継続中である。

でも、数ある海外の街のなか、ロンドンを選んだのは、わたしにとって「正解」だったなという気がする。これまでも、複数回訪れていたロンドン。しかし「住む」となると全く勝手がちがう。外食は信じられないほど高いし、アジア人女性大好きおじさんみたいなのもいるし、学生寮から徒歩5分のスーパーマーケットからの帰り道でスリにあうし、冬の陰鬱な曇り空の殺傷力たるや。今すぐしっぽ巻いて逃げ出して東京のスターバックスでさくらストロベリー白玉フラペチーノ食べたい〜って時は山ほどある(イギリスにもスタバはあるが季節限定フラペチーノなどという繊細なものは存在しません)。

しかし、街のあたたかさは東京砂漠と比べものにならない。電車の中で全然知らないおばあさんに何度も声をかけられて、「怒られるのかな?」とビクビクしながら顔を向けたら「あんたの靴下めっちゃかわいいじゃない!」と絶賛されたり。ワクチンの摂取で病院に行って名前を告げたら、男性職員に「リサ? いい名前だね」と何の下心もない感じで褒められたり。

人生から「すみません」が減り、“Thank you”と言う回数が増えたと思う。まあ、油断していると財布とられたりiPhoneとられたりする街でもあるが……。そのギャップに振り回されつつも毎日をこなしていると「まあ人生なんとかなるかな」と、自分のことを突き放す余裕ができてくる。そういう「一筋縄でいかなさ」はきっとどの街にだってあるだろうけれど、少なくとも32歳の自分の波長には、ロンドンが合っているかもなあと感じている。

『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』(鈴木綾)は、私にとって「人生を変えたいと思ってもがいている同世代の女性の話を聞きたい」と「一筋縄ではいかないこのロンドンという街をもっと知りたい」の両方を満たしてくれる本だ。綾さんもまた、東京で働いたあとに縁もゆかりもないロンドンへと移住した同世代の女性だ。とはいえ、英語が堪能で好奇心旺盛、ロンドンで職を得、コミュニティを築いて3年が経つ綾さんは、私の何十倍も、ロンドンに根をはって暮らしている。なので当初は「自分とは別世界のロンドン生活エッセイ」として読み始めたのだが……移住したての不安な気持ちや、日々感じる生きづらさ、ロンドンにかぎらない男女間のもやもやの話など、深くうなずけるポイントがたくさんひそんでいた。

同じ街に住んでいる私だけではなく、職場やプライベートのあれこれに悩み、生き抜いている女性たちすべてに響くに違いない、等身大の視点。綾さんのことが、だんだん長年の親友のように思えてきた。会ったこともないのに、「綾さん」なんて呼んでしまう感じ。

フェミニズム発祥の地でありながらも保守的な態度を止められないイギリス人男性との会話。アリアナ・グランデがキャリア女性の心を掴む理由。ミレニアル世代とサボテンの関係性。完璧に生きていかないとならないというプレッシャーを生み出す、欧米のパートナー文化。そして、現代社会で男女を「ロメオとジュリエット」にする最大の要素。この街で、私が石ころ程度の粒度で感じ取っていた違和感は、綾さんの手にかかると砂粒サイズに分解され、さらさらと心に入ってくる。綾さんの文章を読んでいると、自分のこれからの人生の土壌が掘り起こされていく気がするのだ。

綾さんは、カルチャーショックのことを「揺れ」と表現する。

なんというか、みんな一見同じような働き方、生き方をしているけど、少し掘り下げると、 その根っこにある価値観や哲学が根本的に違うのに気づく。日常の風景の下で、レイヤー のようにいろんな文化が重なり合っている。そのときに「揺れ」を感じる。港を出て海へ と冒険に出かける船のように、自分の身をいろんな「揺れ」に晒したいと私は思う。(22ページ)

綾さんの「揺れ」に共振して学べるのは、ロンドンのことだけではない。日本のこと、東京のこと。どの街でも突き付けられる、女性たちの生きづらさのこと。そうだ、人生を変えたいなら、選択肢がもう一つあった。「本を読む」ことだ。私たちは自分の人生を一回しか生きられない。それが、選択や挑戦、失敗へのおそれにつながる。

でも現代の私たちは、自分の生きづらさや悩みを率直に共有してくれる、綾さんのような書き手の本を、気軽に手にとることができる。環境を変えないと人生を変えられないと思っているあなた。行動に出るその前に、まずはこの本を手にとってみてはどうだろうか。

鈴木綾さんとひらりささんのオンライン講座

テーマ:「それでも日本で生きていく? 日本脱出とフェミニズムの可能性」
開催日時:5月13日(土)19時~21時
場所:Zoomウェビナー

リアルタイムでご覧いただけなくとも、2週間のアーカイブ視聴が可能です。
お申込みの詳細は、幻冬舎大学のページをご覧ください。

関連書籍

鈴木綾『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』

フェミニズムの生まれた国でも、若い女は便利屋扱いされるんだよ! 思い切り仕事ができる環境と、理解のあるパートナーは、どこで見つかるの? 孤高の街ロンドンをサバイブする30代独身女性のリアルライフ

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ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた

大学卒業後、母国を離れ、日本に6年間働いた。そしてロンドンへ――。鈴木綾さんの初めての本『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』について

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ひらりさ

文筆家。1989年生まれ。オタク文化、BL、美意識などのテーマで、女性についての様々なエッセイ、インタビュー、レビューを執筆する。単著に『沼で溺れてみたけれど』(講談社)。 平成元年生まれのオタク女子4人によるサークル「劇団雌猫」メンバー。劇団雌猫としての編著書に、『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。

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