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歌舞伎町で待っている君を

2026.09.29 公開 ポスト

ひたすらヘルプにつく夜。「最後だから来て」がどうしても言えないSHUN

(写真:Smappa!Group)

下町ホスト#66

結局、誕生日イベントの詳細は、何も決まらなかった。イベントのことを考える暇もなく、慌ただしい営業が始まった。

そして、私は思いっきりお茶を引いた。ファミレスで「君」に会う前に営業メールを複数人に送っていたが、誰からも返信がない。

店内はそれなりに賑わっている。キャッシャーの近くでぼんやりしていると、店長から中堅ホストのヘルプへ行くように言われた。

なんとなく知っているような曖昧な表情で礼儀正しく挨拶をしてから席に着く。

 

かなり明るく元気なお客様は豪快に生ビールを飲みながら、だらしなく座っていた。私は会話を邪魔しないくらいのトーンで挨拶をして、持参したグラスにまだ開けたてのJINROで控えめな水割りを作った。だらしない座り方を維持したままのお客様は野暮ったい中堅ホストの顔ばかり見ていて、私にはほとんど興味がなさそうだった。

「乾杯いいですか??」

グラスを持ち上げると、だらしないお客様は体勢を少し戻して、乾杯をしてくれた。そのまま野暮ったい中堅ホストとも乾杯し、沈黙の多い時間を過ごした。

丁度、二杯目の水割りがなくなったタイミングで別の席に呼ばれた。

そこでもひたすら酒を作って、乾杯をした。

泥酔気味のお客様は私の額あたりを見ながら、何か喋っている。適度に相槌を打ち、笑顔のうちに席を抜けた。

ひどく酔いが回ってきた頃、また別の席に呼ばれた。

ここでもひたすら酒を作り、顔色を見ながら飲む。そして隙を見て、私は携帯電話を確認した。

やはり誰からも連絡はない。

先ほど席に着かせてもらっていた、野暮ったい中堅ホストに呼び止められた。

「お前、イベントどうすんの?」

ひどい呂律だ。瞳の奥が澱んでいる。

 「いや、まだ決まってないです。」

「もうすぐだろ。」

 「はい。」

「告知とかしてんの?」

 「いや、まだです。」

「お前さ、ちゃんとやれよ。最後なんだろ?」

 「はい。」

「まぢ呼べよ。」

 「はい。」

中堅ホストはそれだけ言うと、フラつきを隠すように力強く歩いて自分の席に戻った。

ふと苛立ちが、脳味噌を熱くさせる。思いっきり拳を握った。信じられないほど握った。

真っ赤に充血した右手で、私は携帯電話を開いた。

何人かの名前を眺める。

最後だから来てほしい。そんな都合良い言葉を吐こうとしている自分に心底嫌気がさした。私は画面を閉じて、ある程度思考も閉じた。

「ラストもうひとつヘルプいってくんね?誰もいかねーんだよ。最初だから、オーダーとか諸々よろしく。」

担当が誰だかわからぬ席には、初めて見る女の子が二人座っていた。

私はいつもどおり挨拶をして、ドリンクのオーダーを聞き、それなりの慣れた手つきで、水割りと烏龍茶割りを作り、簡単な自己紹介をした。

「で、君、何歳なの?」

 「年齢は言わないことにしてるんです。」

「えー、何で?」

 「何ででしょうね。」

「教えてよ。」

 「すみません、、」

本当のことを言うわけにはいかないし、二十歳設定で突き通すのもなんだか嫌だった。

「じゃあ、誕生日は?」

 「もうすぐです。」

「え、いつ?」

 「もうすぐです。」

ほぼ話したことのない担当ホストが席に来て、会話が終わる。そして担当との一連の会話が終わった頃、視線が私に向けられる。

「ねえ、この子、何も教えてくれないんだけど。年齢とか誕生日とか。別に興味ないけど。」

「こいつ、もうすぐ誕生日イベントやるんだよ。来てやってよ。」

ほぼ話したことのない、名前が出てこないホストがそう言った。

「何回か助けられてんだよ。こいつに。」

続けてそのホストはそう言った。

私は濃いめの水割りを作り、感情の処理を酔った私に任せることにした。


『ヘルプ椅子は丸い』


あと何度日清の交差点を左と言ったら地獄へいける



夢だけど夢じゃなかった月曜は隣の家の猫と目が合う



酒臭い蝶ネクタイを結びつつ弛んだ顔に外面を塗る



雨が降り濡れた革靴を拭いてたら誰かが僕を鼻で笑った



ひんやりと光る会話を聴きながら熱くなってくヘルプのお椅子
 

(写真:SHUN)

 

関連書籍

手塚マキ『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』

戦後、新宿駅周辺の闇市からあぶれた人々を受け止めた歌舞伎町は、アジア最大の歓楽街へと発展した。黒服のホストやしつこい客引きが跋扈し、あやしい風俗店が並ぶ不夜城は、コロナ禍では感染の震源地として攻撃の対象となった。しかし、この街ほど、懐の深い場所はない。職業も年齢も国籍も問わず、お金がない人も、居場所がない人も、誰の、どんな過去もすべて受け入れるのだ。十九歳でホストとして飛び込んで以来、カリスマホスト、経営者として二十三年間歌舞伎町で生きる著者が<夜の街>の倫理と醍醐味を明かす。

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歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。

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SHUN

2006年、ホストになる。
2019年、寿司屋「へいらっしゃい」を始める。
2018年よりホスト歌会に参加。2020年「ホスト万葉集」、「ホスト万葉集 巻の二」(短歌研究社)に作品掲載。

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