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歌舞伎町で待っている君を

2026.06.29 公開 ポスト

「シュン君。よろしく」男をめったに撮らないカメラマンとのホストの宣材写真撮影が始まるSHUN

(写真:Smappa!Group)

下町ホスト#60

コンビニのありきたりな海苔弁を二つ重ねて眼鏡ギャルの家に戻る。眼鏡ギャルは化粧を始めている。

 「買ってきたよ。海苔弁。」

「ありがとう。」

 「一応、チンしてもらった。」

「いま食わねーよ。まあ、ありがとう。適当に置いといて。つーか、なんで二個あんの?」

 

 「いや、なんか見てたらお腹空いてきたなって。」

「あっそ。とりあえず準備してよ。あの美容室でヘアメしてからスタジオいくよ。スーツはあれにしてね。新しいやつ。ネクタイは、なし。ワイシャツはこないだ買った白いやつにして。」

眼鏡ギャルの指示通りに、私はそそくさと着替えた。すっかり強めのギャルの顔になった眼鏡ギャルは、適当に自分の服を選んで、さっさと着替えていつもの香水を振り、ついでに私にも振りかけた。

 「え?俺臭い?」

「なんかゲロくせー気がすんだよ。海苔弁は?」

 「冷蔵庫にあるよ。」

「お前、やばいな。」

冷たくなった海苔弁を二人で食べる。

「微妙にあったかいとこあって、気持ちわりーなこの海苔弁。」

 「俺は好きだけどね。冷たい弁当。」

「なんで?」

 「わかんない。昔から。」

「へー。」

眼鏡ギャルは携帯電話を開いて、何かを見ながら食を加速させた。私は先ほど飲んだスポーツドリンクのお陰か、赤みは少し引いて、欲のまま海苔弁当を咀嚼した。

一服が終わる頃には、丁度良い時間になっていて、二人で家を出た。

電車を乗り継いで、新宿駅東口に出て、そのまま歌舞伎町へ入ってゆく。

以前来た眼鏡ギャル御用達の美容室でヘアメをしてもらう。既に眼鏡ギャルが細かく指示を出していたらしく、どうしますか?などの質問は一切なく淡々とヘアメイクが進んでゆく。眼鏡ギャルは入口の大きなソファーに座り、複数の雑誌を適当に捲りながら、煙草を吸い続けている。

「めっちゃいいじゃん!さすが担当!」

 「ほんとう?嬉しいよ!」

「てめーじゃねーよ。」

私が赤面している間に眼鏡ギャルが会計を済ませて、いざ宣材写真スタジオへ向かう。

歌舞伎町のラブホテルがひしめき合っているエリアを超え、エレベーターのなさそうなTHE雑居ビルに辿り着く。狭い階段を登り、錆びた扉をあけるとびっくりするくらい綺麗な空間が広がっていた。私達の気配に気付いた試し撮りをしていたらしき白いニット帽を被った男が近寄ってくる。

 「あん時の、男じゃん。何だっけ?ホスト?」
 
眼鏡ギャルは靴を脱がないまま、玄関っぽい場所を通過して、ソファーに座る。

「そう。クラブで会ったやつだよ。」

それ以上、白ニット帽は、何も聞かず、機材のセッティングに戻った。

「普段、あいつホスト撮らないから、どうなるかわかんないけど、面白そうだからいいよね?」

 「つーか、あのクラブにいた変態だよね?痴漢してた。」

「そうだよ。」

 「、、、。普段は何撮ってるの?」

「詳しくはわからないけど、まあ、男を撮ることは滅多にないんじゃない。」

 「そうなんだ、、、」

余計な照明が落ちて、いよいよ撮影が始まる。

「名前なんだっけ?」

 「シュンです。」

「シュン君。よろしく。始めよう。」


『食う』


永遠に日焼けをしない君の背に冷たい指で描く太陽



堂々と火照った嘘に塩を振りさっさと食べた箸はいらない



誠実を湿った指で脱がせたらお酢高騰の連絡が来る



君じゃない君と重ねた週末は目元に少し曖昧を足す



平凡にバターを塗って食いながらどうやら今日も生きてるらしい
 

(写真:SHUN)

 

関連書籍

手塚マキ『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』

戦後、新宿駅周辺の闇市からあぶれた人々を受け止めた歌舞伎町は、アジア最大の歓楽街へと発展した。黒服のホストやしつこい客引きが跋扈し、あやしい風俗店が並ぶ不夜城は、コロナ禍では感染の震源地として攻撃の対象となった。しかし、この街ほど、懐の深い場所はない。職業も年齢も国籍も問わず、お金がない人も、居場所がない人も、誰の、どんな過去もすべて受け入れるのだ。十九歳でホストとして飛び込んで以来、カリスマホスト、経営者として二十三年間歌舞伎町で生きる著者が<夜の街>の倫理と醍醐味を明かす。

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歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。

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SHUN

2006年、ホストになる。
2019年、寿司屋「へいらっしゃい」を始める。
2018年よりホスト歌会に参加。2020年「ホスト万葉集」、「ホスト万葉集 巻の二」(短歌研究社)に作品掲載。

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