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歌舞伎町で待っている君を

2026.07.29 公開 ポスト

ホストクラブ「男本」の新しい宣材写真は大きな効果を持つだろうかSHUN

(写真:Smappa!Group)

下町ホスト#62

眼鏡ギャルは撮影の日以降、仕事へゆく回数が増えた。機嫌は悪くなく、喧嘩もかなり減った。そして、私の宣材写真は無事に変更される。真新しいチャラチャラとした宣材写真は、下町のホストクラブの通称男本の中で明らかに浮いていた。どちらに転ぶかわからないが、私は内心、とてつもなく呼びがかかることを期待していた。

そんな私の宣材写真を見たパラパラ男も数日後に撮り直し、笑顔すぎる異様に浮いた写真へと変わっていた。そんな連鎖は少しずつ広がり、ちらほら「写真を撮り直そうぜ!」なんて会話が席で繰り広げられる。しかし、あの宣材写真を見たから席に呼ぶなんて幻想は、すぐに薄れていった。数件だけ席には呼ばれたが、適当に揶揄われて終わった。更に数日経つと、誰も触れなくなる。それと同時に、その連鎖もあっさりと途切れていった。

 

いつも通りにいい香りを纏った美しい青年が、珍しく私を仕事前のご飯に誘った。

「シュンさ、宣材写真ありがとうな。ラーメンでいい?」

 「もちろんですよ。ありがとうございます。」

「先、車乗ってて。これ鍵。」

あの真っ黒なセルシオの鍵を私に渡し、美しい青年は店の何処かへ消えていった。私は目で追うのをやめて、さっさと車へ向かい助手席で静かに待った。思っていたよりも早く美しい青年は戻ってきて、エンジンをかける。特に会話はなく、車体通りのディープなBGMがなんだか心地良かった。

美しい青年はいつものラーメンを、いつも通りに啜る。珍しく私から口を開いた。

 「なんか浮いちゃってますよね。あれ。」

水を大きく一口飲んでから、美しい青年が私の顔を見た。

「いいんだよ。あれで。ホストの意識多少変わったよ。」

 「そうですかね。もう誰も話さなくなってますけど。」

「あとは、俺らの仕事だから。」

 「はい、、、」

「負けらんねぇよな。新宿にさ。」

 「新宿ですか?」

「うん。この店もっとでっかくするよ。俺が。」

 「、、、」

「シュンは辞めんだよな。この店。」

 「はい。そのつもりです。すみません。」

「実を言うとさ、辞めるの止めろってすげー言われてんのよ。」

 「そうなんですか、、、すみません。」

「いや、俺は止める気ないからさ、上手くやるよ。シュンは行った方がいいよ。俺みたいになんなよ。」

 「そんなこと言わないでくださいよ。」

「嘘だよ。ばーか。」

「お前、誕生日いつだっけ?」

 「11月2日です。」

「じゃあさ、今月末にイベントやれよ。誕生日イベント。」

 「マジすか? 急じゃないですか?」

「大丈夫。スケジュールは俺がやる。」

 「いや、成立しますかね?」

「させろよ。売れよ。この先、毎日それ以上やんだよ。」

 「、、、」

「どうした?」

 「なんで、急にそこまで言ってくれるんですか?」

「察しろ。いつか恩返せよ。応援してるよ。」

そう言って美しい青年は残りのラーメンを丁寧に啜った。私は、ふやけてしまった麺を一気に頬張り、まだ仄かに温かいスープで流し込んだ。

ふたたび乗り込んだ黒いセルシオはやはりピカピカで、いい香りのする助手席に座り、少し遠回りをする美しい青年の横顔を目に焼き付けた。

店に着くと、美しい青年は既に混み始めている店内をぐるりと見渡し、自分の卓ではなく中堅の席から挨拶をして回り始めた。

私は美しい青年の席に着き、自然と口角が上がるのを抑えながら、目の前のお酒をゆっくりと飲んだ。


『クズ』

星屑のように散らばるクッキーを誰かに運ぶ蟻になりたい



きらきらと陽射しがうざい山手線三周するとちょっといいかも



だらだらと天気崩れる腹の音君は誰かに抱かれておりぬ



冷風に靡くお前はちまちまと時折光る宝毛を抜く



温かい少量の血を拭き取って誰も知らない夏を見つける
 

(写真:SHUN)

 

関連書籍

手塚マキ『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』

戦後、新宿駅周辺の闇市からあぶれた人々を受け止めた歌舞伎町は、アジア最大の歓楽街へと発展した。黒服のホストやしつこい客引きが跋扈し、あやしい風俗店が並ぶ不夜城は、コロナ禍では感染の震源地として攻撃の対象となった。しかし、この街ほど、懐の深い場所はない。職業も年齢も国籍も問わず、お金がない人も、居場所がない人も、誰の、どんな過去もすべて受け入れるのだ。十九歳でホストとして飛び込んで以来、カリスマホスト、経営者として二十三年間歌舞伎町で生きる著者が<夜の街>の倫理と醍醐味を明かす。

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歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。

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SHUN

2006年、ホストになる。
2019年、寿司屋「へいらっしゃい」を始める。
2018年よりホスト歌会に参加。2020年「ホスト万葉集」、「ホスト万葉集 巻の二」(短歌研究社)に作品掲載。

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