下町ホスト#57
また「君」を頼り、自傷気味にドンペリを煽り、また売掛を繰り返す。九月の締日が終わった。美しい青年が歌ったラストソングが頭の中で鳴り響いている。唇を噛んで泣きたいがどうやら私はまだまだ泣けないらしい。そして私は店のソファーで金髪リーゼントの言葉を噛み締めながら、若干不貞腐れつつ横たわっている。
一応ちゃんと煙草の火を消して、そのまま目を瞑り、私は数時間眠った。そして、目を覚ますと店内は真っ暗だった。入り口の扉の隙間から、薄っすらと光が漏れている。その方向へ片付けられていないテーブルや椅子にぶつかりながら歩いてゆく。外に出て、眩しすぎる光に晒される。スーツには無数の皺や埃がついている。携帯電話を開くと眼鏡ギャルからメールが入っている。「君」からのメールはない。私は眼鏡ギャルに電話を掛ける。数コールですぐに出た。
「なに?」
「ごめん、寝てた。」
「あっそ。どうだった締日?」
「うん、まあ、No.5には入ったと思う。」
「へー。売掛で?」
「うん。ちゃんと回収するから。」
「あっそ。」
「いまから行っていい?」
「ダメって言ったらどうすんの?」
「漫喫かな。」
「いいよ。きなよ。」
「うん。ってか聞いてよ。」
「なに?」
「店出る時真っ暗だったんだよ。酷くない?」
「嫌われてんじゃね?おまえ。」
「え?そう、かな、」
「うそうそ。正直誰も気にしてないと思うよ。お前のこと。自意識過剰。」
そのまま、なんだかさっきより重くなったまださほど酒の抜けない体を引きずりながら、眼鏡ギャルの家に帰った。
家に着くと、白米と味噌汁が用意されていて、異常にお腹が減っていた私は貪り食った。眼鏡ギャルの機嫌は悪くない。と思う。
「ひとつきいていい?」
「なに?うぜーこと?」
「いや、締日営業メールがんがん送ってたんだけど、ほとんど切れちゃったかも、、」
「どうせ全員に内容全く同じメールだろ?お前。」
「うん、、」
「はあ、、それバレてるのわかっててやってるよな?それ。」
「…」
「自ら切りにいってるよね?」
「…」
「子供。だよ。それ。」
「…」
「懺悔ツアーしてこいよ。身銭切ってさ。誠意みせな。高い店じゃなくていいから、足使って、懺悔飯だな。ま、がんばれよ。」
「なんでそんなに今日優しいの?」
「うるせーよ。もう聞くなよ。」
気付いたら私の唇から仄かに血が出ていた。眼鏡ギャルは私の食べ終わった食器を片付けて、機嫌良くどこかへ出掛けていった。私の知らない真新しい服を着て。私は眼鏡ギャルの残していった甘ったるい真夏のような香水の香りをかき消すように換気扇の下で煙草を思いっきり吸った。ひたすら吸った。
それから私は携帯電話の連絡帳をひらく。そしてメールの冒頭にお客様の名前を打ち、前回の雑なメールについて、ひたすら謝る文を送った。もちろん返ってこないお客様もいたが、数人と何度かラリーが続き、懺悔飯の約束をすることができた。そして懺悔ツアーから始まる10月が幕をあけた。
懺悔飯の場所は、私が友人とよく行っていたホストクラブから程よく離れた場所にある和食居酒屋を選んだ。別に仲が良いわけではないが、なんとなく状況を理解してくれる店主は毎回適切な距離を保って接客してくれた。今日も若干、同伴してくれませんか?的な雰囲気を香らせながら食事をする。会計はもちろん私が支払った。じゃんけんで勝ったら店行くよとお客様は言う。私は拳を強く握ったまま、ちょっと遅れ気味に手を出した。見事に負けた。しかしお客様は満足そうに笑い、そのままお店に来てくれた。少しずつだが、ホストクラブの輪郭が見えてきた。
『パクり』
拝啓いつか誰かへ、下町も豪雨らしいよ晴れているけど
あの日など覚えてないし三時だし生塵みたく布団に居よう
膀胱に溜め込んだまま駅を降り千住辺りで誰かに飲ます
平日にうっすら赤い肉片をパクりと食ったパクりと喰った
あっさりと電池の切れた携帯を折りたたみつつ視界を閉じる
歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
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