下町ホスト#48
月の初めから順調に指名客が来店し、浮かれ気味に9月を歩く。
日々、愚痴を聞く回数が増え、呼応するように飲酒の量も増加した。
私の腹はここ最近ぱんぱんに膨れている。
酒臭い尿を垂れ流しながら、小さな舌打ちや独り言を口にすることが多くなった。
それと同時にやたらと鏡を見る回数が増え、以前よりも髪型の精度は安定している。
そういえばパラパラ男の生誕祭の引き出物は私のダボダボのスーツにとっても似合いそうな太いネクタイだった。
君は妙に喜んで、私の首をそれで締めたよ。
そういうことなのかな。ねぇ、教えてよ誰か。
ねぇ、苦しいよ。ちょっとやりすぎじゃない?ばあちゃん元気かな?弟は元気かい?暫く見てないな。きっと今日も学校だよな。ああ、お腹空いたな。
ようやく解けたネクタイは私の裸体の上で汗を吸う。
君の来店は先月に比べて徐々に増えてゆくが、同時に売掛の額も増えてゆく。
売掛のシステムについて、今更、店長から適当に説明される。
「お前の場合、全額締日までだから」
お前の場合ってなんだろう。でもどうでもいいや。
ある日、私はありのまま君に伝えたら、ちょっと怒った様子で白い歯の隙間から音を溢した。
「全額って何?」
「僕もわからないよ、店長にそう言われたんだ。」
「シュン君に会ったときに適当に払うよ。いいよね?それで?」
「いや、ちゃんと月末に、、」
「だったら、もうお店来ないよ。」
「わかったよ。」
「あとは自分でなんとかして。」
そんなやり取りをして、変わらず君の売掛は溜まっていった。
そして、私を営業中でも関係なく夜中に自宅へ呼ぶようになった。
君の家族の寝息の隙間を私は音を立てずに歩いて、使っていない暗い部屋で裸になった。
地獄みたいな柑橘の臭いに思いっきり包まれる。
もう勃たないよ。皮膚が千切れるよ。ほら、滲んでない?仄かに赤く。
丸い時計の短針と長針が重なっている。さっきから動いてないよね。少しずつ暗闇に目が慣れて、君の顔がはっきり見えるようになってきたよ。こんな顔だったっけ?こわいよ、そんな目をひん剥かないでよ。
柑橘と唾液にまみれた帰りは、雑に渡された数万円を適当にセカンドバックに突っ込む。
それから少し歩いて誰もいない真っ暗な公園で、思いっきり煙草を吸う。肺が痛くなるまで。
そのうち、君は私の実家に来るって言った。
ごめんね。ばあちゃん。ごめんなさい。ひたすら湿気を吸った床が軋む。
9月の前半は美しい青年とさほど変わらない売上だった。
今日もそれなりに盛況な営業を終えて、眼鏡ギャルが手渡した数万円を飄々と私は数え、とっととホルダーに挟む。
「なんか被害者づらしてんじゃねーよてめー。毎度毎度気持ちわりーな糞が。」
「は?」
「は?じゃーよ。ようやく汚くなってきたな。てめーの顔。嫌いじゃねーよ。」
そう言って眼鏡ギャルは私からホルダーを奪い、お札の向きを綺麗に直して、自らキャッシャーに持っていった。
『兎』
病棟で君はほっぺを掻きながら透明な兎を追いかける
もう二度と逃げられぬようじゃらじゃらと私の腕を巻きつける午後
あっちには大きな蛇がいるらしい、やめてたはずの酒が転がる
少しだけこの世界から離れたい汗ばんでいる白い手のひら
生きるならあの夏だけにしたかった 透明すぎる兎も眠る
歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
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