大人になっても人は成長する。
しかしその成長にはなかなか気づいてもらえず、他人から成長を褒められることは少ないだろう。(あれ? 私だけ? )
私やあなたの周りにも、咲子(蒼井優)のような人がいたら……。誰にも気づかれずにいた大人になってからの成長を、あたたかい笑みを浮かべながら褒めてもらえるのかな……。
というのも「Tシャツが乾くまで」(TBS) 第5話のテーマの一つとして、“成長”が描かれたように私は思えたのだ。
樹生(中島歩)とあずさ(夏帆)の息子:翔くん(久保田薫)はお泊まり保育で一晩の間、樹生と会えなくなることに何の抵抗もない素振りを見せた。
それを見た樹生は「翔だけ成長して……」と、亡きあずさを心に抱えたままの自分と比べてそう感じているようだった。
しかし、そんな樹生もあずさが亡くなってからこの1年の間に、咲子に「おいしいですよ、頑張りましたね」と言われるほどのナポリタンを作れるようになっていた。
「すごいのはクックパッドです」と樹生はレシピを見ながら作ったに過ぎないと謙遜していたが、これも紛れも無い成長だ。
成長した大人は樹生だけではない。
乾燥フィルターを掃除するようになった咲子、充(松山ケンイチ)並に美味しいコーヒーが淹れられるようになった直人(高橋文哉)も、成長した大人たちだ。
悲しみに暮れる日々の中でも、時計は回り続け、大人たちも着実に成長していたのだ。
大人は自分で自分の成長に気づきにくいのかもしれない。
というより、成長している側はプロセスを経て緩やかに成長するために、自身では成長を実感しにくいのではないか。
……それは子供も同じか。
では、成長したことを本人に伝える人の母数が対子供と対大人では大きく違うために、なおさら大人は自身の成長を実感しにくいと仮定しよう。
なぜなら年齢を重ねた大人は、大人を褒める時に「上から目線や嫌味に捉えられたらどうしよう……」と邪推してしまうようになり、大人はだんだんと人を褒めるという事をしなくなっていくからだ。
特にエビデンスがあるわけではないが、私はその節がある。そして小っ恥ずかしい。近しい人だとなおさらだ。
でもやっぱり成長を褒められたら嬉しいものだ。褒められた時の応対は未だにわからないけども、悪い気はしない。素直に嬉しい。
大人だって褒められたいし褒めていい。
皆が周りの人の成長を今より少しでも多く褒めるようになったら、人はより成長に喜びを感じられるようになるかもしれない。
そんなことより? 充が? 帰ってきたことに触れろと?
その通り、第5話最大の衝撃はまたしてもラストシーンに待ち構えていた。

なんと充が帰ってきたのだ。
「ただいま」
……じゃねーよ。と、視聴者のおよそ9割がテレビの前で声に出したとか、出してないとか。
そう思ってしまうのも無理はない。
なんせ事故の後から音信不通で1年も咲子の前には現れなかった上に、長野県に一緒に行ったとされるあずさとの間に何があったのか……あずさの夫である樹生に説明も謝罪もないままだからだ。
例えどんな理由があろうとも、この行動が正当化される理由にはならない。(充が正当化して欲しい、許して欲しいと思っているかは別として)
……いや逆に考えると、“どんな大それた理由もない”のではないか?
つまり充はあずさに対して下心があった。
第3金曜日のコインランドリーでは飽き足らず、長野県に一緒に出かけたら不運にもバス事故に遭い不倫相手のあずさが亡くなってしまった。
そんな事が起きたらあなたはパートナーに、そして不倫相手の夫に面と向かって謝罪できるだろうか。
……もちろん出来る人もいるし、大半の人が面と向かって対話をすることだろう。
しかし雲隠れしたくなる気持ちも十分に理解できるのではないだろうか。
なんせ後ろめたすぎるし、気まずすぎる。
不倫していた上に、その相手が事故死してしまう……一度にそんな事が起きてしまっては、並大抵の精神力では抱えきれない。
充の場合、咲子や樹生への申し訳なさよりもそれを面と向かって説明し、謝罪する気まずさに耐えられなかったのではないか。
もしも充が“あまり仲良くない人と帰る方面が一緒になってしまった時、なにか理由をつけて別の方向から帰るような人”だとしたら、その気まずさにすら耐えられない充は今回の事故のケースに面と向かって向き合う度量は持ち合わせていないだろう。
仲良くない人と帰る方面が一緒になってしまった時も乗り越えられる人であれば、充は一刻も早く咲子の前に現れていたに違いない。(上記はあくまで充の気まずさ耐性を軸に考えた場合)
しかしそうしていないということは、本当に後ろめたく気まずすぎるだけだったのかもしれない……。と第5話を終えて思い始めてきた。
サービスエリアであずさを残してバスを降りたのも「あっ、やっぱりこれはダメだ!」という突発的な衝動。
蒼井優さんの演技が話題となった第5話での咲子と充の電話のシーンで、「なんであずささんと一緒にいたの?」の問いに答えなかったのも単に言葉が出なかったから。

しかし咲子の声を聞いて、充も向き合う気持ちになったのか、咲子の家を直接訪れることに。
……そう考えると全ての辻褄が合う気がしないだろうか。
これはドラマだ。
しかしその中の縦軸の真相が全くドラマチックではない“気まず過ぎたが故”だとしたら、このドラマはとんでもない(いい意味)ことをしようとしている。
後ろめたさや気まずさを感じて事象を回避するという人間は、そう少なくないのではないか。そうでない人からは理解されないだろうが、気まずさがストレスで仕方ない人は一定数いると思う。
私は小学生の頃、仲良し5人組で途中まで下校していたが他の3人が帰ったあとの残りの道を、大して仲良くない残された1人と2人きりで帰らなくてはいけない日々は苦痛で仕方なかった。
しかし避けようがなかったために、私は2人きりになった途端に「一緒に走ろうぜ」という無理矢理な提案をし、彼と2人きりの時間を少しでも早く終わらせるべく一緒に走って帰っていたくらいだ。
そのくらいに気まずい空気に耐えられない人はいる。
充からすると“気まずい”という気持ちとは違うかもしれないが、とにかく後ろめたくて向き合うのが怖い……そんな思いがあったのかもしれない。
それも実に人間らしいし、それらしい理由や真相を語られるよりも納得がいく。
今まで散々「充失踪の理由」を考察してきたが、最終的な結論は“気まずかったから”。
私はこの考察を持って、第6話で語られるであろう充の真相を迎えたいと思う。
••┈┈┈┈•• ドラマ情報 ••┈┈┈┈••
TBS『Tシャツが乾くまで』( 毎週金曜夜10時~)
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、齋藤飛鳥、庄司浩平、飛永翼(ラバーガール)、久保田薫、夏帆、臼田あさ美、リリー・フランキー、松山ケンイチ
脚本:生方美久
音楽:haruka nakamura
主題歌:「見知らぬ糸」スピッツ(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
編成:佐久間晃嗣、荒木沙那
制作:ケイファクトリー、TBS
著者:ケメ・ロジェ
イメージイラスト:サク
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