恵まれた容姿故の機微により、人生に絶望する者。
障がいを抱えながらも明るく前向きに生きる者。
健康な体と平穏な家庭を持ちながら傷を求める者。
人生に嫌気が差したのか、無差別に人を襲う者。
「銀河の一票」(関西テレビ)第6話では様々な人間が抱える問題とその胸の内が顕になり、誰もが望む“生きていて良かったと思う世界”とは一体どういう形なのか……。わからなくなった。
出会いで変わる世界の見え方
暴露系YouTuber白樺透(渡邊圭祐)は政治家や反社会的勢力、マルチ商法を行う者への突撃取材の様子を動画投稿し、人気を博していた。

しかし以前は目が見えない相方の楠木明(望月歩)と共に、明の障がいをフィーチャーしたエンタメ企画動画や社会風刺動画などを投稿していたのだ。
第5話で透が点字ブロックを塞ぐ聴衆を見て苦虫を噛んでいたのも、そんな相方の存在があったからだったとは第5話視聴時には思いもしなかった。
そんな明を演じた望月歩氏の好演が光り、月並みな言葉だが明は本当に目が見えない人物にしか見えなかった。望月氏が数々のドラマで演じることの多い明るいキャラクターは残しつつ、その確かな演技力で視覚障碍者を見事に、そして繊細に演じ切っていた。
恵まれた容姿を持ちながらも生き辛い人生を送る透と、大きな障がいを抱えながらもそのことを「不幸と思ったことはない」という心持ちの明。
この対比に幸せとはなんたるかを考えさせられた。
透は生まれながらの容姿の良さで沢山の人が期待して寄ってくるも、勝手に傷つかれたり期待されたりした後に、徐々に周りから人々が消えていったという。
そんな中で出会ったのが目の見えない明だったのだ。
自身の容姿に全く干渉しない明との出会いを果たした透。さぞ心地よかったことだろう。
一方の明も「透に出会ってからめちゃくちゃ楽しいわ」と直接透に言うほどに、その関係に幸福を感じていた。
しかし、2人の関係は思わぬ形で幕を閉じた。
透と別れた後の帰り道、目の前から歩いてきた歩行者とぶつかった明は道路に倒されてしまい、描かれてこそいなかったがそのまま車にはねられて亡くなってしまったのだ。
あまりにも無情な顛末に私は言葉を失った。
明を失った透があそこまで命からがら体を張る取材スタイルなのも「明のいない世界に用はない」という自暴自棄な理由、まさに死ぬ気でやっているからだ。
透が明を失った悲しみと喪失感は決して消えることはないが、明には茉莉(黒木華)という視聴者がいたことが不幸中の幸いとなるとは……。
亡き明の蒔いた種が花開く時
幹事長の父を持ちその元秘書でもあった茉莉は現在、元スナックのママである月岡あかり(野呂佳代)を都知事にすべく奮闘している。
現状、出馬表明しても当選する見込みのない泡沫候補としてマスコミからは見向きもされない政治素人のあかり。
だったら知名度アップを図るしかないとのことで、茉莉がファンである迷惑系YouTuber透の協力を得てあかりをバズらせようと画策するのだった。
その作戦は、仕込みのぶつかりおじさんとあかりをバッティングさせ、説教し改心させる様を生配信に乗せることで話題になろうという魂胆だ。
作戦を楽しそうに企てる茉莉とあかりの姿に、透はかつての自身と明の姿を重ねていた。
障がいの有無によって分け隔てられることのない社会を茉莉らとなら実現できるかもしれない…2人の姿を見た透は思ったことだろう
茉莉らが掲げるその志には確実に、亡き明の思いが汲まれているに違いない。なぜなら茉莉は2人の動画を見るまで、点字ブロックを気にしたことがなかったからだ。
明と透の動画が蒔いた種が、時間を超えてチームあかりが花咲かせることとなりそうだ。
そして作戦実行の日。なんと偶然にも本物のぶつかりおじさん……。いや刃物を持つ通り魔とも言える男性が現れたのだ。
透は足を刺され緊迫感漂う中、あかりはその男に声をかけた。
「都知事になるの! 話聞かせて?」
その言葉も虚しく男は自殺を図ろうとするも、「生きてよ。念の為に」との言葉で相手を諭すあかり。
「あなたも私も生きていて良かったと思う世界を作る」と力強く男に伝えたあかりのその様は、見事に世間の注目を浴びる結果となったようだ。
この男が人に危害を加えるほど追い詰められた背景はわからないが、このあかりの動画を観た男と同じような境遇の人々は「自分に目が向けられている」という事実にまずは希望を見出せるのかもしれないと思った。
誰かが気にかけてくれるって、それほどまでに嬉しいものだ。
もちろんその後は具体的な政策と行動が必須ではある。
しかし、まずは様々な境遇……その“様々”をより鮮明な個としてひとつずつ認識して目を向けていくことこそが誰もが“生きていて良かったと思える世界”の第一歩なのかもしれない。
“ないものねだり”って言うの、いい加減やめません?
第6話は各人物のフィーチャータイムが多かったため文字がいくらあっても足りないが最後に、茉莉が懇意にする東西新聞の記者、雨宮楓(三浦透子)の明らかになった過去を振り返ろう。
こちらも思わず涙が出てしまうほどに引き込まれた三浦透子氏の好演。

健康で親も家も普通なことを“何もない”と形容する楓は、故に自分を傷つけることで強さと優しさを手に入れ、普通ではない誰かの特別として愛されたいと願った。
悲しいことと苦しいことがないという苦悩。
そんな感情を持つ人がいるなんて、今まで思ってもみなかった。
日々何かに苦しんでいる……それこそ容姿の良さで苦しんだ迷惑系YouTuberの透からしてみれば理解し難いことだろう。
透こそ“普通”であれば、あんな思いをしなかったかもしれないからだ。
しかし、その“普通”に苦しんだ楓。
こういった悩みの感情を時に人は“ないものねだり”の一言で片付ける。
なんて優しくないのだろうと私は思う。
ないものねだりだから耐えろと、お前はこの点に恵まれているからそこは耐えろと。
でも“ある”んだよ、苦悩が。
決して人はないものに目を向けて苦しんでいるのではなく、確かにここにあるものに苦しんでいる。
楓にとってはそれが普通という苦しみから生まれる、誰かの特別になりたいという苦悩だったまでだ。
自分の痛みは他人に置き換えられない。
そんな“普通”に苦しむ楓の痛みが、楓を演じる三浦透子氏のフィルターを通して痛いほど伝わってきた。そして楓に向き合ってくれた茉莉との出会いは、自分が誰かの特別になるのではなく茉莉という特別だと思える存在との出会いなのだと感じた。
だからこそ茉莉と距離を置かれたことにあれほどまでのショックを受けていたのだろう。
決して茉莉も悪気があってのことではないが、あの楓のカラオケシーンがあまりにも辛すぎたため「茉莉、早く弁明してあげて……」と私は力強くテレビの前で願っていた。
茉莉からの通知にどれだけ安堵したことだろう。
生きていて良かったと思える世界とは?
第6話は様々な状況下に置かれた人物の掘り下げに、「えっ、こんな多種多様な悩みや特徴を持つ人々が全員、“生きていて良かったと思える世界”なんて実現できるの?」と思ってしまった。
しかし、今回描かれた中でそれぞれが救われた原因は人との出会いであることに気がついた。
透と明の出会い。
あかりと通り魔の男の出会い。
そして楓と茉莉との出会い。
誰かとの出会いで世界は一気に好転する。
もちろん悪い出会いもあるだろう。
しかしそれでも人は生きていき、また新たな“生きていて良かった”と思える出会いを探し求める。
そんな人との出会いを続けるためには、社会が、政治が健全に機能しなくてはいけない。
様々な状況下に置かれた、その“様々”をより鮮明に“個”にしていかなくてはいけない。
そうやって個を見ていく、人と向き合うことが新たな出会い、そして問題と向き合わせてくれるのだろう。
その果てに“誰もが生きていて良かったと思える世界”があるような気がしている。
あかりさん、僕はこう思いましたがどうでしょうか。
••┈┈┈┈•• ドラマ情報 ••┈┈┈┈••
関西テレビ『銀河の一票』( 毎週月曜夜10時~)
出演:黒木華、野呂佳代、渡邊圭祐、倉悠貴、小雪、本上まなみ、岩谷健司、山口馬木也、
木野花、岩松了、松下洸平
脚本:蛭田直美
音楽:坂東祐大
主題歌:「おーへい」浜野謙太(在日ファンク)&後藤真希 feat. 黒木華&野呂佳代(日本コロムビア)
プロデュース:佐野亜裕美
制作プロデュース:植木さくら、森田美桜
演出:松本佳奈、藤澤浩和、瀧悠輔、稲留武
制作協力:AOI Pro.
制作著作:カンテレ、MYRIAGON STUDIO
著者:ケメ・ロジェ
イメージイラスト:サク
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