
ずっと泊まってみたかった「蒲郡クラシックホテル」に一泊することに。その名のとおりクラシックなホテルであるらしい。
東京から新幹線で愛知県の豊橋駅まで。乗り換えてJR東海道本線の快速で蒲郡駅までは10分ちょっと。駅からはタクシーで。小高い山の上に日本の城のような建物が見えてくる。
車寄せに到着するとシルクハットのドアマンのお出迎え。
クラシックホテルに泊まるんだなぁ
という期待感がぐわーんと高まる。
蒲郡クラシックホテルは「日本クラシックホテルの会」に加盟しているホテルのひとつで、東は栃木の日光金谷ホテルから、西は長崎の雲仙観光ホテルまで9つあり、このホテルでわたしは8つ目。ちょっと奮発、十数年がかりのクラシックホテル巡りである。
蒲郡クラシックホテルの外観は一見、和風なのだけれど、中に入ると大きな吹き抜けにモダンなシャンデリア。白い天井には花のようなレリーフがほどこされ、館内に灯るオレンジ色の照明がたいそうロマンチックなのだった。
2024年に90周年を迎えたこのホテルには所有者が4度変わった過去があり、資料のほとんどが分散されたものの、現在も有志によって資料収集を行っているのだそう。
部屋は海側と山側があり、泊まるなら断然、海側。美しい竹島が見える。竹島全体が天然記念物に指定されており、島までは約400メートルの橋がかかっている。
部屋に荷物を置いたあとは竹島まで散歩。ホテルの敷地からの近道を教えてもらい、すぐに橋のたもとに辿り着いた。
海の上の細く、長い橋。
異世界につづいているのではないかと思わせるほど浮世離れした光景である。
いつかこの世界に別れを告げるとき、あの世へと渡る橋があるとしたなら?
わたしは自転車に乗って渡りたい。高校時代に乗っていた水色の自転車で。口笛を吹きながらのんびりと。
竹島に渡り、階段をのぼった先には1181年に創建されたと伝えられている八百富神社がある。奥に進めば三河湾を一望できた。風が強かった。海上を飛ぶトビたちが、夕焼けの空に静止しているように見えた。
夜は2階のメインダイニングルームでフランス料理のコースである。ほどよい量の一品一品。コースの大トリは文豪たちが愛したという「伝統のビーフカツレツ」。池波正太郎の思い出の一皿なのだとか。
ビーフカツレツが、超・分厚い。
噛み切れるだろうか??
奥歯の治療中であるわたしの心配はすぐに吹っ飛ぶ。
ヤ・ワ・ラ・カ~。
なんなら舌で押しつぶせそうなくらい。カツレツと言っても細かい衣がほんの少し。でもサクッ。衣にはパセリとチーズが混ぜ込まれていていい具合の塩味。
おいしいなぁ。コレ食べるためにまた泊まりたいなぁ。
という料理だった。
朝食も同じくメインダイニングルームで。和食か洋食かを選べ、ぐるり見回せば、男性は和食、女性は洋食のチョイス多めでわたしも洋食を。体重のことなどスパッと忘れ、パンにバターと2種のジャムをたっぷり。
チェックアウト後、名残惜しくて2階のカフェでホットコーヒー。窓から見える竹島の様子が朝と違うことに気づく。潮が引き、橋のたもとで潮干狩りを楽しむ大勢の人の姿が。
「愛知県は日本一のアサリの産地なんですよ」
帰りのタクシーの運転手さんが教えてくれた。
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ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。










