見るに耐えない現実の政治と比べ、回を重ねるごとに希望に満ち溢れる政治の世界を魅せてくれたドラマ「銀河の一票」(関西テレビ)の最終話が先日放送された。
この物語の本筋である都知事選。
政治素人の元スナックのママ:月岡あかり(野呂佳代)は果たして当選するのか?
落選した候補者達のその後は?
そして“手紙の送り主”は誰なのか?
見どころが幾つも詰まっていることが約束された状態で迎えた最終話。
この45分で描かれたどの描写もまた、銀河を作る一つ一つの星のように輝いていた。
“失敗にしたくない”=手紙を送る、その意味とは?
前回の記事でも軽く考察をした幹事長:星野鷹臣(坂東彌十郎)らに送られた“手紙の送り主”の正体が最終話にして判明した。
茉莉(黒木華)は“雫石の手書きの行動記録”の筆跡が送り主不明の手紙の文字の筆跡と似ていることに気がつき、手紙の送り主が幹事長の秘書:雫石(山口馬木也)だということがわかったのだ。
「そこで繋がるならもう少し早く気づけなかったか……?」とも思いつつ、人生のすべてを鷹臣に捧げている雫石がそんなことをするはずは毛頭ないと茉莉は一切疑っていなかったのだろう。
そんな雫石が手紙を送った理由はSOSだった。
もし新座の件を「握り潰せ」と鷹臣に命じられたとしたら、新座の死に責任を感じている雫石は鷹臣の側にいられないと思った。
しかし雫石は鷹臣に賭けた人生を生きている。
それを失敗にしたくないと思い、雫石はあの告発文とも取れる文章を茉莉らに送る事で、“新座との取引を明るみにしてもらい鷹臣が失脚すると共に自身も沈もう”との魂胆だったのではないか。
ここでいう鷹臣に賭けた人生の“失敗”とは何なのか。
それは「人の死に自分らが関わっているにも関わらず、それをなかった事にすること=失敗」と捉えていると私は考えた。
人の道から大きく逸れたそのような行動は確かに失敗と言えよう。
雫石は鷹臣に賭けた自身の人生を失敗にしないために、仁義を貫きたかったのかもしれない。
結果、そのSOSはしっかりと茉莉らにSOSとして届き、尊い命の死が政治に利用されることはなかった。
私は最終回を迎えるにあたり、「銀河の一票」を全話観返した。
それは“手紙の送り主”が誰なのかを考察する目的が主であったが、思いがけず大きな気づきがあった。
それはこの作品は映像作品……特に民放のドラマでは類を見ないほど多くの自死を考えた人物が出ているということだ。
月岡あかり、鴨井とし子、白樺透、鈴原ほのか……。この物語の中で自死を匂わせた人物だ。
自死してしまった新座も含めると5人もの登場人物が自死を考えたのだ。
毎話、希望に満ちて終わることが多かったので薄まっていたように感じるが、この物語は自死を考える人々の心情とそこから脱した理由をかなり鮮明に描いていた。
どの人物にも共通していた自死を踏みとどまった理由。
それは“人との出会い”であった。
人との新たな出会いが彼らを生かし、生きる希望を与えたのだろう。
養護教諭だったあかりが面倒を見ていた中学生の鈴原ほのか(根本真陽)は、あかりとの出会いによる光と闇が描かれた。
最終話のラストシーンではそんな鈴原ほのかと仲が良かったが転校してしまった山岸こころと、鈴原ほのかによる“絵画と人形の展覧会”のチラシが映った。
描かれてこそいないが、あかりが養護教諭を辞めた後、鈴原ほのかは山岸こころとの再会を経て生きる希望を見出したのではないだろうか。
どの人物も人との出会い/再会がそのストッパーとなった。
自死をしてしまった新座にはそれがなかった。
もし雫石があそこで美味しいお蕎麦屋さんに新座を誘っていたら、雫石が新座にとっての生きる希望になり得ていたかもしれない。
それはたらればでしかない上に、雫石もその後悔を抱えていたからこそ、SOSを発信する事で自分なりに新座の弔いをしようとしたのだろう。
そして新座自身はせめて最後はザネリではなくカムパネルラのように自らの命をかけて、鷹臣を救いたかった(鷹臣と治験の関与を仄めかす遺書を残さなかった)のかもしれない。
しかし生きていれば、必ず人と出会う。
それは新しい出会いかもしれないし、再会かもしれない。
どんなに絶望していた登場人物も、生きたその先に出会いや再会があった。
新座も、生きてさえいれば人と出会えた。
とにかく生きて、人と出会おう。
ひとつの出会いが希望ではなかったとしても、まだ生きて、また出会おう。
いつしかそこにあなたの生きる希望となる出会いや再会が訪れるはずだから……。
自死を考えた登場人物をここまで描くその先に、そんなメッセージが込められていたように感じた。
「銀河の一票」、このタイトルに込められた意味に涙。
ドラマのタイトルが劇中で発言されたり、その意味が明らかになったりする事を俗に“タイトル回収”と言う。
このドラマのタイトル回収は、最終話のクライマックスという最高のタイミングで迎えた。
月岡あかり、最後の選挙演説でその言葉は発せられたのだ。
銀河に瞬く星の一つ一つが綺麗だからこそ、銀河は綺麗だと。
同じように都民一人一人が輝く事で、東京はより輝くのだと。
途中、茉莉が初めてあかりの働くスナックを訪れた際に発した「何か困ってることはないですか?」からはじまる同じ言葉を用い、最後は「絶対、絶対無駄にしません。たった1人のあなたが放つ、たった一つの尊い光。銀河の一票。」と演説を締めた。

演説を終えたあかりの右手は、強く握られていた。
逆に言えば、それまでは力が入っていなかったとも取れる。
それが意味するのは、演説で発したあかりの言葉の全てが力みのない素のあかりから発せられた言葉であり人々の心に届く、心と繋がっている声そのものだったということ。
演説を終え役目を果たしたあかりは気が抜けて緊張し、大衆を前に力が入り拳を握った……私はそんな風に思えた。
第1話のあのセリフが最終話で大変身
誰もが心を掴まれる最高の演説であかりの勝利が決まったかのように思えた後、まさかあんな圧巻の演説が控えているとは……思いもよらなかった。
同じく都知事選候補者の日山流星(松下洸平)の演説だ。
流星はあろうことか、ギルバ人質事件に関する表に出してはならない音声データを演説の冒頭に流した。
思わず鷹臣も流星を叱責するが、流星の秘書の藤堂昴(倉悠貴)が事前に行っていたチームあかりとの業務委託契約により音声は止まらない。
その内容は、鷹臣と流星が人質事件を昇進に利用したことが明るみになる内容だった。
しかしそれでも彼らが力を得たかったのは解釈改憲を止めたかったからなのだと流星は訴えた。
憲法改正のハードルは高くとも、解釈の変更は閣議決定でできてしまうと。
解釈改憲が必要な場合もあるとしながらも、国民が納得する前にそんなことがなされてはならない。
「アフターではなくビフォーの話をしませんか。」
1話ではパフォーマンスのように使われていた流星のこの言葉が、ここまで胸打つものになろうとは。
流星のその言葉の通り、“こうなったからよろしくね”という政治ではなく、それに至る前にまずは国民一人一人の声を聞いて寄り添う政治を流星はやろうとしているのだ。
そんな流星の演説を前に、大きな銀河が現れた。

それは一つ一つの星……一人一人の国民が輝くことで出来た銀河。
幾つも輝いているからこそ全体が綺麗な銀河。
結果、日山流星がこの都知事選を見事勝ち抜き、新しい東京都知事となった。
しかし驚きだったのが、日山流星の脇を固める副都知事の4名がチームあかりの月岡あかり、星野茉莉、五十嵐隼人、雲井蛍(シシド・カフカ)になったことだ。
このドラマは希望に溢れつつも、こういった現実味も残してくれる塩梅が絶妙だ。
確かにあかりの演説もよかったが、培った経験による説得力と演説で膿を出し切った誠実さを考慮すると、それは流星だろうな……と思わざるを得ないからだ。
だが茉莉はまだ諦めていなかった。
「4年後、あかりさんが立つのは……」と流星の方を指した茉莉。
続編を望む声も多く聞こえてくるこのドラマ故に、茉莉&あかりが都知事選を再度戦う姿が見られる日もそう遠くないのではないかと期待している。
フィクションの中にも確かにあるノンフィクションな世界
いつからだろう。
まっすぐで美しい正義が何でもかんでも綺麗事と呼ばれるようになってしまったのは。
なぜまっすぐで美しい正義が笑われなきゃいけないのか。
このドラマは本気でそう思わせてくれる説得力を常に帯びていた。
それはセリフでありながらも、演じる役者の心の声もどこか乗っかっているように思えたからなのかもしれない。いや、私がそう思いたいからなのかもしれない。
それほどに世界は、日本は混沌を極めている。
フィクションでありながらも、私たちの現実の生活と密な世界を描いた今作。
そして現実でも私たちが銀河を彩る一つ一つの星であることはドラマと何ら違いない。
だからこそ私たちはこのドラマに光を感じ、現実を変えられるかもしれないという希望をもらったのかもしれない。
あなたも、私も、あの光のうちの一つだと考えたら、なんだかワクワクしてきませんか?
••┈┈┈┈•• ドラマ情報 ••┈┈┈┈••
関西テレビ『銀河の一票』( 毎週月曜夜10時~)
出演:黒木華、野呂佳代、渡邊圭祐、倉悠貴、小雪、本上まなみ、岩谷健司、山口馬木也、木野花、岩松了、松下洸平
脚本:蛭田直美
音楽:坂東祐大主題歌:「おーへい」浜野謙太(在日ファンク)&後藤真希 feat. 黒木華&野呂佳代(日本コロムビア)
プロデュース:佐野亜裕美
制作プロデュース:植木さくら、森田美桜
演出:松本佳奈、藤澤浩和、瀧悠輔、稲留武
制作協力:AOI Pro.
制作著作:カンテレ、MYRIAGON STUDIO
著者:ケメ・ロジェ
イメージイラスト:サク
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