20歳になり、初めて選挙の投票に行った日のことは今でも覚えている。
選挙や政治の詳しいことはわからないながらも“投票”というその行動自体に大きな意味と影響力があると信じ、とてつもない力を持った気持ちになったものだ。
それから十数年が経った。
今でも毎度の選挙には欠かさず投票に行っている。
しかし、当時と明らかに違うのは選挙では何も変わらないという気持ちになってしまったことだ。
「私の一票など無力で何の影響力も持たない」
一向によくならない景気や度重なる政治家の不祥事などを目にする度に、いつしか選挙に……。政治に期待することをやめてしまった。
あの時はとてつもない力を持つと思っていたその一票にも、今では力を感じなくなってしまった。
そして自身の生活に精一杯な毎日に政治への関心は次第に薄れ、国が“よくなる”ことをどこか諦めてしまうようになった。
決して悲観的ではない。
ただし国が変わることへの希望は持っていない。
そんな思いで日々生きている人も少なくないのではないか。
4/20より放送開始となったドラマ「銀河の一票」(関西テレビ)の中に生きる人々も、まさにそんな思いを抱えて生きている様子であった。

このドラマは政治の世界を追い出された主人公が“政治素人のスナックのママ”をスカウトし、都知事選に挑む物語である。
そのスナックのママである月岡あかり(野呂佳代)が勤務する“スナックとし子”。そこに集まる常連客たちは現代を生きる私たちそのものだ。
スナックに来て楽しそうに過ごしてはいるものの、こと政治の話となるとネガティブな様子。
「政治の話はよくわからない。変えたくても変えられない。」
とし子から発されたその言葉の中には、今までの人生の中で打ち砕かれた希望のかけらが散りばめられているように感じた。
しかし、そんなとし子がこのドラマの主人公:星野茉莉(黒木華)の手によって、政治の世界に参入することになる……。
“明るい方”へ導かれる運命
2人の出会いはまさに運命的なものだった。
民政党の幹事長である父:星野鷹臣(坂東彌十郎)の秘書である娘の茉莉(黒木華)。
彼女はどんな時もスマートに仕事をこなしていた。
そんなある日、女性の強みを生かすような接待に自ら嫌気が差し、専務と2人きりとなった車を降りるという無礼を働いた茉莉。そのことがきっかけで茉莉は後に秘書をクビになってしまう。
失意の中、茉莉は母からもらった大事な玩具の電球を落としてしまい、探しているとスナックのママ:月岡あかりと出会う。
茉莉とは初対面にも関わらず電球探しを親身に手伝うあかり。この時点であかりは“どんな人にも寄り添う”優しい心の持ち主であることがわかる。
そして駅の方向を尋ねる茉莉にあかりは「明るい方へ向かって」と言う。
奇しくも茉莉の亡き母(本上まなみ)の最期の言葉「明るい方へ、正しく、強く」と重なる。
「道に迷ったら明るい方へ向かうのよ」との教えを説いた母が、その道を導くために茉莉に渡した電球の玩具。その電球を落としたことで“あかり”と出会うという、まさに電球が導いた“明るい方”こそ月岡あかりそのものなのだ。
そして「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という信条を掲げている茉莉とシンクロするあかりの言葉。
「あなただって世界の一部でしょ? 私が幸せでいるために、あなたにも幸せでいてもらわないと。」
こんなにも運命が重なり合い、優しい心の持ち主であるあかりを茉莉が都知事にスカウトするのは必然だろう。
“一人一人に向き合う”ということ
茉莉が現在の母である桃花(小雪)から「これ、誰かお友だちに」と手渡されていたジャム。
このジャムは、あかりの手に渡るまでに二度も贈られる機会を逃している。
1回目は茉莉と同じ星野鷹臣幹事長の事務所にいる女性。2回目は幼馴染で民政党議員の日山流星(松下洸平)だ。
どちらも意図的に拒否されたわけではないが、これも運命なのか……。結果としてジャムは茉莉の手元に残り続けた。
そしてジャムもへそを曲げはじめてきたであろう時に、運命的な出会いを果たした月岡あかりに渡ったのだ。
スナックを訪れたあかりが茉莉に差し出したサンドイッチには、お店自慢の卵サンドとそのジャムが使われていた。
あかりは、ジャムを受け取ったことへの感謝を、さらに愛情を添えて茉莉へ返したのだと思う。
優しさの循環とでも言うべきか……。このあかりの行動に美しい人間愛を感じた。
これを食べた茉莉は思わず涙し、抑えていた感情が一気に溢れ出した。

「どうしたらこんな影響を差し上げられるんでしょうか? 国が国民に。」
茉莉にとっては、いち国民の優しさがもたらす影響さえも国が国民に与えられていないと感じたのだった。
それはそうだ。
「国民って簡単」と思うような気持ちの茉莉や、ひと一人の死には見向きもしないような人たちが携わっている政策だ。そこに国民一人一人と向き合う気などないのだろう。
議員の流星は「国を背負う人間は個人を背負っちゃいけない。」と言ったが果たして本当にそうだろうか?個人の集まりが国なのだから、個人を背をえない人間こそ国を背負ってはいけないのではないか。
その点、あかりは一人一人と向き合っている。
茉莉に向けたサンドイッチに込めたまっすぐな思いが、茉莉の気持ちを救った。
常連の客ひとりのために、もう品切れだった卵サンドの具材を買いに出かけた。
あかりはお客さんをお客さん全体として見るのではなく、一人一人を見て寄り添うことができるのだ。
対全体ではなく、対一人一人。
その姿勢を持ち合わせたあかりが都知事になったらと思うと、希望が湧いてくる。
このドラマの放送が終わりを迎える頃には私が持つ選挙での一票に、20歳の時に初めて選挙に行った“あの時”のような力を感じるような気がしている。
そんな一票の価値を再定義してくれそうな希望に溢れたドラマのはじまりだった。
••┈┈┈┈•• ドラマ情報 ••┈┈┈┈••
関西テレビ『銀河の一票』( 毎週月曜夜10時~)
出演:黒木華、野呂佳代、渡邊圭祐、倉悠貴、小雪、本上まなみ、岩谷健司、山口馬木也、木野花、岩松了、松下洸平
脚本:蛭田直美
音楽:坂東祐大
主題歌:「おーへい」浜野謙太(在日ファンク)&後藤真希 feat. 黒木華&野呂佳代(日本コロムビア)
プロデュース:佐野亜裕美
制作プロデュース:植木さくら、森田美桜
演出:松本佳奈、藤澤浩和、瀧悠輔、稲留武
制作協力:AOI Pro.
制作著作:カンテレ、MYRIAGON STUDIO
著者:ケメ・ロジェ
イメージイラスト:サク
考察食堂 -ドラマを噛んで味わう-の記事をもっと読む
考察食堂 -ドラマを噛んで味わう-

3人組ドラマ考察系YouTuber 6969b(ろくろっくび)による考察記事の連載がスタート!
今話題のドラマの真犯人は?黒幕は?このシーンの意味は?
物語を深堀りして、噛むようにじっくり味わっていきます。
- バックナンバー
-
- 「銀河の一票」(関西テレビ) 第1話 ...
- 「田鎖ブラザーズ」第1話 本格クライムサ...
- 日曜劇場「リブート」 最終話 満足度12...
- 日曜劇場「リブート」 第9話 真北は本当...
- 「再会 ~Silent Truth~」最...
- 日曜劇場「リブート」 第8話 全ては合六...
- 「再会 ~Silent Truth~」第...
- 日曜劇場「リブート」 第7話 これが結論...
- 日曜劇場「リブート」 第6話 一香は夏海...
- 「再会 ~Silent Truth~」第...
- 日曜劇場「リブート」 第5話 警察内...
- 「再会 ~Silent Truth~」第...
- 日曜劇場「リブート」 第4話 “一香リ...
- 「再会 ~Silent Truth~」第...
- 「再会 ~Silent Truth~」第...
- 日曜劇場「リブート」第3話 儀堂は生き...
- 「再会 ~Silent Truth~」第...
- 日曜劇場「リブート」 第2話 夏海は亡く...
- 「再会 ~Silent Truth~」第...
- 日曜劇場「リブート」 第1話 儀堂を殺し...
- もっと見る










