日々、SNSなどを見ていて感じることがある。
それは人々は隙あらば“エモがる”ということだ。
エモい……というのはエモーショナルという言葉がスラング化された、「言葉では言い表せない心の動き」を意味する言葉である。
今では多岐にわたって“エモい”という言葉が使われているため、もはや言葉の本当の意味などどうでもいいのかもしれない。
例えば解散や活動休止をしたアーティストが、かつて同じグループだった元メンバーのメンバーカラーの物を身につけていた時にファンたちは「あ~絶対これは元メンバーの●●を匂わせてるよ……エモい!」と“エモがる”のだ。
私も今は解散してしまった某国民的アイドルグループが好きなので、そういった情報を見ると前向きな方に捉えて例にも漏れずエモがっている。
もちろんそういった感情を否定する訳では全くないし、アーティスト側も元メンバーを匂わす意図でそのような演出をしている場合も多くある。
しかし中にはこじつけや偶然に過ぎないと思えるようなものに対してもエモがっている様子も見受けられる。
つまり何が言いたいか……。
人々はそういった“物語が好き”なのだ。
「紆余曲折あったけれど今も仲良くしているなんて素敵……。」という風に持っていきたく、「仲が悪くなって壊滅的な関係」という現実があったとしても決してそうは思いたくない。
“綺麗で美しい物語”を人々は描きたいのだ。
そういったファンの願望が、時にはアーティスト側が意図していないエモ演出として消費され苦しめてしまっているかもしれない。
アーティスト側にとっても「いやそうじゃないんだけどな……」と思うことも時にはあるのではないか。
だからと言って人々は、私は、エモがることをやめられないのだろう。
前置きは長くなったが、「銀河の一票」(関西テレビ)第5話でも都知事選に出馬を表明した日山流星(松下洸平)の“エモい物語”に有権者たちは熱狂した。

政治家は物語を描けなければ土俵に立てない?
しかし、彼の場合は本当に物語を背負っていた。
流星が12歳の頃、父親の工場が破産し倒産。母親が出ていった次の日には、父親が流星に包丁を突きつけて「一緒に死のう」と言ってきたのだ。
一目散に裸足で逃げたその先で警察に駆け込もうとした流星だったが、その近くには選挙演説をする若き日の現幹事長:星野鷹臣(坂東彌十郎)の姿が。
「今、俺は完璧に可哀想だ。その瞬間、俺の可哀想は物語になった。」
という流星のナレーションにもあったように、流星はその状況を子供ながら打算的に利用したのだろう。
一方の鷹臣も、多くの有権者が見守る中、この子供との“物語”を今後描いていけば有権者の心を動かせるかもしれない……という思惑があったに違いない。
お互いがお互いを利用したのだ。
流星を住まわせてあげた上に、流星の父親の社会復帰も支援してくれた鷹臣。
そこにどんな打算的な思惑があったとしても、誰も不幸になっていないのなら意図的に“エモい物語”を描くことも悪くないのかもしれない。
時は流れて現在の都知事選でも、幹事長である鷹臣が流星の元へ出向いて頭を下げさせるという“物語”の続きを演出している。
そういった物語で有権者の心を動かそうとする昨今の選挙戦を茉莉(黒木華)はどうも好まない様子だ。
しかしそうも言っていられない。
政治素人の月岡あかり(野呂佳代)ではどう考えても勝ち筋がない現状、チームあかりの方も物語を描かなくてはいけない。
そこでガラさん(岩谷健司)が提案したのが、茉莉とガラさんの副知事込みのチームで売り出す“アベンジャーズ作戦”。
“人間力溢れる元スナックのママ”と“民政党幹事長に切り捨てられた負け犬たち”が一丸となることで生まれる物語……確かにこれなら有権者の気持ちも動かせそうだ。
都知事が指名できる副知事は計4人。
残るは2人……そこで1人、白羽の矢が立ったのが元西多摩市長の雲井蛍(シシド・カフカ)だ。
現在は両親が営むベーカリーで働き、小学生の一人息子を持つシングルマザーだ。
現役の際は、有事の対応をしている際に罵詈雑言を浴びせられ涙が溢れるほど辛い思いをしてきた蛍は、2年前に政治のしがらみで政界を追い出されてしまった。
しかし、蛍の元を訪れた茉莉とあかりとの邂逅により、自身の中で抱えていた「もう一回あの場所で戦いたい」という思いに火が灯り、蛍は政治への道を再び歩むことを決めた。

幼い頃から「ぶっ飛ばすよ」が口癖の蛍は、市長になってからも変わらぬその口癖から「ぶっ飛ばし蛍」と呼ばれ親しまれていた。
そんな勢い溢れる蛍に、当時のあかりは力をもらっていたのだ。
蛍は“理不尽をぶっ飛ばそうとしている”ように思えたというあかり。
蛍が自身でも感じているように暴力性のある「ぶっ飛ばすよ」という言葉は確かにこの時代にはそぐわないかもしれない。
しかし、こと理不尽に対しては誰しもがぶっ飛ばして欲しいと思うに違いない。
むしろいくらでもぶっ飛ばして欲しい。
障害者雇用や小一の壁、地域格差などの理不尽と身をもって向き合っている蛍だからこそできる“理不尽のぶっ飛ばし”を。
足元が見えなくなるのもまた人間
最後に、今回の第5話でいつまでも頭から離れないカットがある。
それは流星の街頭演説を聞く聴衆たちが、夢中になるがあまりに足元の点字ブロックを塞いでしまっていたカットだ。
それを暴露系YouTuberの白樺透(渡邊圭祐)が見ていた。
この感情……うまく言語化できないが「流星の良い話には感動できる心があるのに、その配慮はできないんかい!」みたいなことを私は感じているのだと思う。
そういう事象は日々様々な場面である。
SDGsを推進するキャンペーンやイベントに参加しているアーティストが、抽選券目当ての聴かれることのない大量のCDを販売している矛盾とかもその一個か……違うか。
とにかく、このドラマは様々な表と裏を感じさせてくれる。
茉莉は政治の仕事をしていて常に苦しいと思っていたが、今になってやっててよかったと思えたように、どんな事象も表と裏……良い悪いを孕んでいるのだなと。
何かに熱狂するあまり、人は大事なものが見えなくなる。
それこそ人間の持つ不器用さと愛しさだとも思いつつ、その裏には不利益を被る人がいるということ。
好きなアーティストにエモがっている時に、ふと足元を物理的にも精神的にも見てみて欲しい。
何か大事な物を踏んでいないですか?
自戒を込めて。
••┈┈┈┈•• ドラマ情報 ••┈┈┈┈••
関西テレビ『銀河の一票』( 毎週月曜夜10時~)
出演:黒木華、野呂佳代、渡邊圭祐、倉悠貴、小雪、本上まなみ、岩谷健司、山口馬木也、木野花、岩松了、松下洸平
脚本:蛭田直美
音楽:坂東祐大
主題歌:「おーへい」浜野謙太(在日ファンク)&後藤真希 feat. 黒木華&野呂佳代(日本コロムビア)
プロデュース:佐野亜裕美
制作プロデュース:植木さくら、森田美桜
演出:松本佳奈、藤澤浩和、瀧悠輔、稲留武
制作協力:AOI Pro.
制作著作:カンテレ、MYRIAGON STUDIO
著者:ケメ・ロジェ
イメージイラスト:サク
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