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歌舞伎町で待っている君を

2026.06.14 公開 ポスト

テキーラで酔いつぶれた翌日、パラパラ男のラストソングが頭の中を駆け巡るSHUN

(写真:Smappa!Group)

下町ホスト#59

私はパラパラ男の活躍から目を背け、酔い潰れた眼鏡ギャルを横目に目の前にあるテキーラを次々と飲み干した。眼球すらまともにコントロールできない私はそれを何度も溢し、スーツが濡れてゆく。

ほぼ失っている意識はそろそろ完全に切れそうだ。そして、ラストソングを歌い上げ、最高潮に盛り上がるパラパラ男のテーブルの騒音から逃げるようにプツリと私の意識は切れた。

 

その後、眼鏡ギャルと私をテキーラ地獄から復活した中堅ホストが頑張ってタクシーまで運んだ。

硬い床で寝返りをして、その痛みで目が覚めた。全身が筋肉痛のように痛み、起き上がるのに時間がかかった。顔は熱く、首から下がとても冷たい。どうやらテキーラが染み込んだスーツを着たまま床に這いつくばるような姿勢で気絶していたらしい。

ふと、ベッドの方を見ると、眼鏡ギャルはきっちり寝巻きに着替え、モーフをしっかりとかけて、すやすやと眠っている。私は臭いスーツをさっさと脱ぎ、使い古された部屋着に着替えた。

換気扇の下で煙草を一本吸うと急激にお腹が減り、ヤニ臭い指先で適当に冷蔵庫を漁る。眼鏡ギャルの食べかけであろう海苔がほぼない海苔弁を電子レンジで温めてから思いきり頬張った。

暫くすると、固形物を消化するためなのか、わからぬが、全身に血液と共に酒がまわったみたいだ。私の顔は更に赤みを増し、手のひらや足の裏は、じんわりと真っ赤に膨れた。これから来るであろう吐き気に怖気付いた私は、たらふく水道水を飲んで、すべて吐き出す。

何度か繰り返すうち、仄かにテキーラが香る胃液に辿り着く。そんな時に、昨日のパラパラ男のラストソングのサビが頭の中を駆け巡る。異様な嫉妬心を掻き消すように、舌の奥の方を人差し指で押し込みながら、更に嘔吐した。

「きったねーな。吐いてんじゃねーよ。」

眼鏡ギャルが起きたみたいだ。

 「ごめん、もうちょい。」

「早くして、漏れる。」

もう一度、舌の奥をぎゅっと押し込み、数滴の胃液を出した。

「しかし、あいつ良かったなあ。」

 「でも嫌ってなかった?」

私はトイレットペーパーで、飛び散った胃液を拭いて、水を流してトイレを出る。

「うん、まあ、好きではないけど、ちゃんとホストやってんじゃん。いつの間に差がついたのかねぇ。悲しい悲しい。きもいなお前。」

すれ違い様にそう言ってから眼鏡ギャルは激しく放尿をした。

「宣材写真撮りにいこーよ。」

 「手伝ってくれるの?」

私はトイレの前でうずくまりながら聞く。

「いーよ。その代わり、マッサージして。」

 「わかった。」

そのままベットへ戻り、三十分ほど眼鏡ギャルの肩を中心に揉み続けた。

「歌舞伎町のスタジオ予約したから、夕方いくよー。」

 「ありがとう。あと、海苔弁食っちゃった。」

「許さねー。買って来いよてめー。」

外に出てから今日が休みだったことに気付く。近くのコンビニに入り、売れ残っているように見える海苔弁と大容量のスポーツドリンクを買った。眼鏡ギャルの家に帰る前に飲み干して、マンションの横隅にあるゴミ箱に捨てた。特に誰からも連絡のない携帯電話の充電は残り僅かだった。


『此処』


数枚のミントを摘んだ指先は祖母に似ている背中を探す



定時過ぎ掠れる声に灯るのは優しい嘘か火中の栗か



新宿で小さく酸素を吸い込んで雨を見てたら日付は変わる



色褪せた紫陽花みたいな髪色で僕を訪ねる強欲な人



「雨だからアイツじゃなくてお前だね」どうやら今日も新宿にいる
 

(写真:SHUN)

 

関連書籍

手塚マキ『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』

戦後、新宿駅周辺の闇市からあぶれた人々を受け止めた歌舞伎町は、アジア最大の歓楽街へと発展した。黒服のホストやしつこい客引きが跋扈し、あやしい風俗店が並ぶ不夜城は、コロナ禍では感染の震源地として攻撃の対象となった。しかし、この街ほど、懐の深い場所はない。職業も年齢も国籍も問わず、お金がない人も、居場所がない人も、誰の、どんな過去もすべて受け入れるのだ。十九歳でホストとして飛び込んで以来、カリスマホスト、経営者として二十三年間歌舞伎町で生きる著者が<夜の街>の倫理と醍醐味を明かす。

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歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。

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SHUN

2006年、ホストになる。
2019年、寿司屋「へいらっしゃい」を始める。
2018年よりホスト歌会に参加。2020年「ホスト万葉集」、「ホスト万葉集 巻の二」(短歌研究社)に作品掲載。

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