下町ホスト#58
十月初めに詰め込んだ懺悔ツアーは一通り終わり、数少ないお客様が戻ってきてくれた。とあるど平日に出勤するとなにやらキャッシャーで店長と中堅ホストが揉めている。私はこそこそと聞き耳を立てる。どうやら、No.1から末端までの顔写真が掲載されている通称〈男本〉の更新が遅れているらしく、中堅ホストが酔った勢いで、憤怒している。いつも通りやる気の無さそうな店長は更に面倒くさそうに対応している。そしてこそこそしている私と目が合い、さっさと逸らす。店長は、思いっきり目を見開いて中堅ホストを一気に宥めてから、私をキャッシャーへ呼んだ。
「あー。うぜー。えっとさ、お前さ。」
「はい、、、なんでしょうか、、、」
「さすがに、この写真だとやべーよな。No.5から写真でかくなるんだよね。」
「そーですよね。今まで僕プリクラの拡大ですもんね。」
「お前撮ってきてくれる?」
「どこで撮るんですか?」
「適当な先輩に聞いてみて。俺は疲れたよ。さっきので。じゃ。あっ、今日の予定は?」
「たぶん、来店あります。」
「はーい。じゃ。」
そう言って店長はパソコンの画面に視線を移した。数時間後、眼鏡ギャルが来店し、宣材写真について相談をする。
「つーか、一回見せてよ。男本。」
「もってくる。」
使い古された分厚い〈男本〉がやってくる。
「糞だせーな。まず。で、お前どこ。つーか、全員だせーな。やべーな。ウケる。」
眼鏡ギャルは盛り上がり、ガンガン酒を飲む。
「テキーラいこうぜ!!!!」
眼鏡ギャルに火がついたらしい。
「プリクラってまぢじゃん。くそウケる。逆にこれでいけよ。って思うが、アドバイスしてやるからこれ一気しろよ。」
そう言って眼鏡ギャルから並々と注がれたぬるいテキーラを手渡され、びびりながら2回に分けて飲み干した。その後も眼鏡ギャルは、テキーラをテーブル中に並べ、次々と馴染みのヘルプを潰してゆく。当然私も意識が薄れてゆく。誰もテーブルに寄り付かなくなった頃に、パラパラ男が席の前を通り過ぎる。そして、眼鏡ギャルが大きな声をあげる。
「おい、クソギャル男、てめー挨拶もねーのかよ」
私は眼球くらいしか、動かすことができず、その様子を横目で見る。
「さっき挨拶したのに、覚えてないんすか?!」
びっくりするぐらいあの時のままのテンションで、パラパラ男は口を開いた。
「覚えてねーよ。ウソつくんじゃねーよ。てめーなめてんのか?」
と眼鏡ギャルが言い終わる前にパラパラ男は目の前のテキーラを持って、眼鏡ギャルのグラスと私の水がたっぷり入っているハチタンに乾杯をして即座に飲み干した。
「クソギャル男、てめー売れてるらしいじゃねーか。うぜーな。」
パラパラ男は一切私の顔を見ることなく、眼鏡ギャルに少し近付く。
「あと、何杯飲んでいいんすか?!」
「答えになってねーよ。」
「すみませんっす!そんなたいしたことないっすよ!」
パラパラ男は、そう言ってヘルプ椅子に座る。
「お前、全部飲めよ。」
「それは無理っすよー。目の前の列だけ頂きます。」
そう言って、不細工に並んだテキーラ数杯を飲み干して、満面の笑みで挨拶してから、自分の席へ戻って行った。
その後、パラパラ男が歌うラストソングが流れた。合いの手の多さから、席の盛り上がりが容易に想像できた。吐き気が増す。眼鏡ギャルは、眼球すらもう動かない私の体にもたれかかりながら眠った。
『楽園』
清涼なアイスクリームに冷やされる激生臭い胃袋の底
飛んでゆく飛沫に意思はないからさ、ちょっと我慢をしてくれるかい?
夕刻にふやけた肉を食うてから三粒ほどの正露丸を食う
無防備な命を奪う指先で君のほっぺに描く楽園
出鱈目に寝返りをする休日のすぐ隣には地獄があるよ
歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
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