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人生の目的

2019.04.18 更新

第10回

私たちは運命にすべてをゆだね、受け身に徹しきるべきなのか五木寛之

辛いことや苦しいことがあっても私たちは生き続ける。人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。20年の時を経て名著『人生の目的』が新書版に再編集され復刊。いまの時代に再び響く予言的メッセージ。

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生まれること、その不公平な出発点

逆境のどん底から、自己を信じ、努力をつづけて成功したという人は、私にいわせれば幸運な人である。そもそも「自己を信じる」ということは至難(しなん)のわざだ。自分を信じようと決意したとしても、なかなかそうはいかない。自己嫌悪ならほとんどの人にできる。自己を信じようと決心してそうできた人は、そういう前向きタイプに生まれてきたことを謙虚に感謝すべきだろう。まして努力ができる性格をあたえられたことは、周りじゅうの人に、「自分だけ恵まれすぎていて申し訳ありません」と謝って歩いていいくらいの幸運ではないか。

努力をした、のではない。努力できたのだ。自分を信じた、のではない。自分が信じられただけなのだ。

麻雀(マージャン)が好きな男は、努力などしなくても二日も三日も徹夜するのである。私も若いころ色川武大(いろかわたけひろ)さんたちと七十二時間デスマッチなどという馬鹿(ばか)なことをやったりもした。しかし、大変だったがじつにおもしろかった。

人は好きなことなら、どんな難行苦行(なんぎょうくぎょう)もいとわない。重い荷物を背負って登山する人がいる。また、ご苦労なことに、酸素ボンベを背負って海底にもぐる人もいる。

(写真:iStock.com/Vitalap)

人は好きなことをしたいと思う。しかし、人生は思うにまかせぬものである。好きであっても素質がない場合もあり、素質はあっても環境や運に恵まれず、好きではない世界で一生を送らなければならないこともある。そういう例はいくらでもある。

こう考えてくると、ブッダが、〈四苦(しく)=生(しょう)・老(ろう)・病(びょう)・死(し)〉として思うにまかせぬこと四つの最初に、まず〈生〉をおいたことの重さを、つくづく感じないではいられない。〈生〉には、生まれてくること、そして生きてゆくこと、の二つの面がある。私たちは生まれてくることにおいても、思うとおりにはならない。それはむこう側からあたえられるものだ。私たちの自由意志や、希望や、努力や、誠意などによって変えることのできないものである。そして私たちは生まれることを、自分で拒否することさえできないのである。なんと不自由な、そして不公平な人生の出発点だろう。

それだけではない。生まれた以上、生きてゆかねばならぬ。その人生の途上(とじょう)において、私たちはさまざまな人間関係をもち、体験をする。両親と出会い、兄弟姉妹とともに暮らし、友人、師、そして異性と出会う。そこには計算どおりに進行するものは、ほとんどない。もし生まれる前から赤い糸で結ばれている相手がいるとしたら、それは運命のてのひらにすべてをゆだねるということだ。そこに私たちの自由意志などない。努力も、向上心も不要である。すべては運命の糸にあやつられるままに、人生はすぎてゆくことになる。はたして私たちは、そこまで受け身に徹しきることができるだろうか。私はできない。できないからこそ、こうして「人生の目的」などというわけのわからない問題について考えたりするのである。

五木寛之『人生の目的』

人生に目的はあるのか?あるとしたら、それは何か。
お金も家族も健康も、支えにもなるが苦悩にもなる。人生はそもそもままならぬもの。ならば私たちは何のために生きるのか。

刊行から20年――。人々に寄り添うその深い洞察が大反響を呼んだ衝撃の人生論。
平成という時代が変わる今、再読したい心の羅針盤。大きな文字で再編集した新書オリジナル版。

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人生の目的

人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。お金も家族も健康も、支えにもなるが苦悩にもなる。人生はそもそもままならぬもの。ならば私たちは何のために生きるのか。

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五木寛之

1932年福岡県生まれ。生後まもなく朝鮮にわたり47年引き揚げ。52年早稲田大学露文学科入学。57年中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、66年「さらばモスクワ愚連隊」で小説現代新人賞、67年「蒼ざめた馬を見よ」で直木賞、76年『青春の門 筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞を受賞。『蓮如』『大河の一滴』『風の王国』『戒厳令の夜』など著書多数。英文版『TARIKI』は2001年度「BOOK OF THE YEAR」(スピリチュアル部門)に選ばれた。2002年に菊池寛賞を受賞。『親鸞』(2010年刊)で毎日出版文化賞を受賞。近著に『白秋期』『漂流者の生きかた』などがある。

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