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人生の目的

2019.04.14 公開 ポスト

第6回

“万人共通の”人生の目的などない五木寛之

辛いことや苦しいことがあっても私たちは生き続ける。人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。20年の時を経て名著『人生の目的』が新書版に再編集され復刊。いまの時代に再び響く予言的メッセージ。

*   *   *

人生に目的はあるのか

人生に目的はあるのか。

私は、ないと思う。何十年も考えつづけてきた末(すえ)に、そう思うようになった。

人生に決められた目的などというものはない。人間は人生の目的をもたなくても、生きてゆくことはできる。はっきりした生きる目的をもたずに、その日その日をなんとなくすごしている人たちは少なくない。また、生きのびるだけで精いっぱいで、なんのために生きるのか、自分の人生の目的とは何か、などと考える余裕(よゆう)さえない人びとも世界じゅうにたくさんいる。

「それを言っちゃ、おしめぇだぜ」という声がきこえそうだが、人生に万人共通の目的などというものはない。人間はこうでなくてはならないという、道徳的な規則などない。あらかじめ決められている法律のような人生の目的というものを、私は想像することができない。要するに、身(み)もフタもない言いかただが、万人に共通の人生の目的などというものはない、と私は思う。

(写真:iStock.com/gustavefrazao)

しかし、それですめば世の中は簡単だ。ああ、そうですか、で、終わってしまう。だが人間というやつは、なかなか厄介(やっかい)な生きものである。人生に目的がないとなると、急にがっくりする気持ちがどこかにある。生きてゆく張りがなくなってしまうのだ。そして八方ふさがりの困難な状態に追いこまれたりすると、ああ、もう面倒くさい、生きるのよそうか、とすべてを投げだしたくなったりする。

人生に目的はない、と割り切っても、一方で、目的のない人生はいやだ、となぜか思ってしまうのだ。目的なき人生は不安でもあるし、頼りなく、ふらふらした感じがする。やはり人生に目的をもちたい、と思うのが自然な人間の心のはたらきだろう。人はおのずと生きていることに目的を求めるのだ。それは生まれた川へ帰ってくる鮭(さけ)や、渡り鳥などと同じような、生物の一種の本能なのかもしれない。

しかし、世の中には、目的などはどうでもいい、自分は当面の目標をもっている、それで十分ではないか、と考える人がいる。当面の目標に向かって一歩一歩すすんでいくのが生き甲斐(がい)だ、という人は決して少なくない。また具体的な目標も身の回りにはいくらでもある。

希望の大学に合格すること。安定した職業につくこと。自分の能力に向いた仕事で活躍すること。理想の恋人を獲得すること。四十歳までに自分の家を建てること。外国語やパソコンをマスターすること。スポーツに熱中して国際的な大会に出場すること。芸能界にはいって有名になること。行政府や立法府で国の経営に参画(さんかく)すること。アルマーニのスーツをビシッと着こなすこと。介護や福祉の仕事について働はたらくこと。大金持ちになること。美容師の国家試験にパスすること。バイクを走らせること。幸せな家庭を築くこと。病気を克服して健康をとりもどすこと。運転免許をとること。そのほかいくらでもある。

二十歳のころの私の目標は、とりあえずきょうの食い物にありつくこと、そしてなんとか大学の授業料を払えるだけの貯金をすること、その二つだった。しかし、それはなかなか両立しがたい目標である。かろうじて毎日なんとか食いつなぐことはできたが、結局、授業料のほうは滞納(たいのう)に滞納を重ね、ついに抹籍(まっせき)となった。あらためて授業料の滞納分を払って正式に中退したのは、それから三十年以上たってからのことである。

関連書籍

五木寛之『人生の目的』

人生に目的はあるのか?あるとしたら、それは何か。 お金も家族も健康も、支えにもなるが苦悩にもなる。人生はそもそもままならぬもの。ならば私たちは何のために生きるのか。 刊行から20年――。人々に寄り添うその深い洞察が大反響を呼んだ衝撃の人生論。 平成という時代が変わる今、再読したい心の羅針盤。大きな文字で再編集した新書オリジナル版。

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人生の目的

人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。お金も家族も健康も、支えにもなるが苦悩にもなる。人生はそもそもままならぬもの。ならば私たちは何のために生きるのか。

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五木寛之

1932年、福岡県生まれ。生後まもなく外地にわたり戦後引き揚げ。早稲田大学露文科中退後、作詞家、ルポライター等を経て「さらばモスクワ愚連隊」でデビュー。横浜市在住。ベストセラー多数。歌謡曲から童謡、CMソングまで自身作詞の作品を厳選したミュージックBOX『歌いながら歩いてきた』が大きな話題に。

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