
御代替わりの令和元年もあと1か月。プロ野球界も、選手がFA(フリーエージェント)やポスティングシステム(入札制度)を使って大リーグ移籍を目指す季節になった。
日本の選手がメジャーに挑戦するには、海外FAの資格を行使する場合と所属球団の許可を得てポスティングシステムで移籍するケースがある。
海外FAは日本の一軍選手として9年間プレーすれば資格を得ることができるが、それまでがまんできないときは、球団が日本野球機構(NPB)を通じて米大リーグ機構(MLB)に「契約可能選手」として告知(ポスティング)し、移籍が決まったらMLBの球団が日本の球団に一定の譲渡金を支払うことになっている。
譲渡金は、選手がMLBの球団と結んだ契約金と年俸と契約解除額の総額によって決まる。総額のうち2500万ドル(約27億5000万円)までは20%、5000万ドルまでは17.5%、5000万ドルを超えた分に15%を乗じた額を足した金額が日本の所属球団に支払われる。
9年間、日本のプロ野球に貢献した選手が念願の夢をかなえるためにメジャーに挑戦するのは結構だが、私は海外FAの資格を得る前に若い有能な選手が大リーグに行くポスティングシステムには以前から反対してきた。日本球界を支え、発展させてもらわなければならない人材の流出につながるからだ。
今年は海外FAで西武の秋山翔吾外野手(31)が、ポスティングシステムではDeNAの筒香嘉智外野手(27)と巨人の山口俊投手(32)、広島の菊池涼介二塁手(29)がメジャー移籍を目指している。
スポーツマスコミは例によって、この4人がイチローや松井秀喜や大谷翔平のようにすぐにでもメジャーで活躍できそうなニュースを流しているが、本当に彼らは夢の舞台で通用するのだろうか。
守備の悪い筒香
たしかに筒香は10年間で通算打率. 285、205本塁打、613打点の成績を残し、日本代表チームで4番を打った実績もある。左打ちで右にも左にも飛ばせる長打力は魅力だし、打つだけでいいなら大リーグでも2割8分くらいは打てるだろう。だが守備が悪い。
私は巨人の現役時代、多くの日米野球で大リーガーの技とパワーを目の当たりにしてきた。当時に比べると、最近のメジャーはレベルが落ちたとこの連載や著書で書いてきたが、それでも大リーグでは走攻守の三拍子がそろっていなければ通用しないという現実に変わりはない。
現在のメジャーの外野手を見ても、強肩強打快足のスターが綺羅星のようにそろっている。
その代表がエンゼルスのトラウトである。トラウトは今季、打率. 291、45本塁打、104打点で3度目のア・リーグ最優秀選手(MVP)に輝いた。彼は大谷の同僚だから、テレビ中継で日本のファンにもおなじみだが、長打力だけでなく「あの巨体でよく走れるな」と感心するほど足が速く守備もうまい。加えて選球眼も抜群だ。
ちなみにナ・リーグのMVPも外野手のベリンジャー(ドジャース)で、打率. 305、47本塁打、115打点で、ゴールドグラブ賞も獲得している。
そして大リーグ全体の30%近い中南米出身の選手のなかには、MVPクラスの身体能力を持つ外野手がたくさんいることを忘れてはならない。
メジャー挑戦の覚悟が見えない山口
私が冒頭、ポスティングに反対する理由の一つに「人材の流出」と書いたのは、イチローや松井、田中、ダルビッシュ、大谷など、日本の球界を支えていた「若いスーパースター」を念頭に置いていた。
では32歳の山口はどうか。これまで通算14年の成績は64勝58敗で、DeNAから巨人に移ってからの3年間は計25勝14敗。今季、初めて2桁の15勝(4敗)を挙げ、最多勝、最多奪三振、勝率第一位のタイトルを獲った。その飛躍の理由は、「フォークボールを真ん中から低めのボール球に落としたら打者は振る」という技術を会得したからだ。
だが直球のスピードが140キロ台で、日本で効果を発揮したフォークを連投するわけにもいかないだろう。侍ジャパンが初優勝した「2019 WBSCプレミア12」では3試合に先発したが、計9回しかもたず、自責点6、防御率6の惨状だった。
日本シリーズの4連敗で気が抜けたのかもしれないが、私が気になったのは、「プレミア12」のマウンドで見た山口がブクブクに太っていたことだ。短期間に変貌したのは、ペナントレースと日本シリーズが終わって不摂生が続いたからではないのか。
山口は大リーグ挑戦の記者会見で、「新たな挑戦に向かって、より一層精進していきたい」と語っていたが、私にはメジャーに挑戦する覚悟がたりないように見える。
三拍子そろうもパワー不足の秋山
海外FAで挑戦する秋山は、走攻守そろったバランスのとれた選手である。
西武での9年間で通算打率.301、116本塁打、513打点の記録を残している。今季も3年連続、計4度目の最多安打をマークした、イチロータイプのヒットマンだ。
打高投低の西武で最強のトップバッターとしてリーグV2に貢献し、三拍子そろった私の好きなタイプだが、大リーグで外野の一角をつかむのは無理だろう。
ホームランも3年連続で20本を超えているが、それは日本での話で、球が速くて重く、激しく動くメジャーの投手からロングヒットは打てないと思う。
才能まかせでは通用しない菊池
カープの菊池は、「守備範囲が広く強肩が持ち味」といわれている。球界屈指の二塁手として今季まで7年連続でゴールデン・グラブ賞を獲得し、通算成績は打率. 271、85本塁打、107盗塁である。だが私にいわせれば、軽業のような菊池のプレーは才能だけでやっているもので、しっかり捕ってしっかり投げる内野手の基本ができていない。
菊池は身長171センチで小柄の割には長打も打つが、あんな雑な大振りでは大リーグの球は打てない。
メジャーにも小柄な内野手はいるが、彼らにはパワーがある。アストロズの二塁手・アルトゥーベは身長168センチだが、首位打者3度で今季はホームランを31本打っている。
菊池がメジャーで生き残るためには、守備も打撃も才能まかせではなく、一からしっかりやり直したほうがいい。
マイナー契約なら可能性はある
私も、以上の4人が大リーグという夢に向かって挑戦する以上はぜひ成功してほしいと思っている。ファンもマスコミ報道を信じてすぐにでもメジャーで活躍できると思っているだろうが、残念ながら4人が大リーグで成功するのは難しい。可能性があるとしたら3Aなどのマイナー契約だろう。
アメリカでは11月14日までMLBのGM(ゼネラルマネジャー)ミーティングが行われた。この会議では、編成の責任者であるGMがチーム強化のために自分の首をかけて補強情報を集め、水面下でFAやトレードの交渉を行う。
今年の会議でGMたちが考えたのは、「自チームの戦力分析の最後に余地があれば、日本の誰をメジャーで獲ろうか、マイナーリーグで使おうか」ということだろう。
* * *
●長野、内海の流出で試される巨人の若手育成力
●“ポスト原”の監督育成に着手せよ
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●イチロー、45歳で引退。真価が問われる“第二の人生”
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●FA選手の巨額複数年契約はやめろ ……ほか
セ・パ両リーグ日本一の名将・広岡達朗氏が「野球の本質とは何か」を提言。
2019年シーズンの最新情報をもとに、甲子園から大リーグまで野球界の問題を徹底検証します。
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