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日本野球よ、それは間違っている!

2021.01.09 更新 ツイート

巨人・菅野智之は大リーグに行かなくてよかった 広岡達朗

渡米して大リーグ入りを目指していた菅野智之投手(31歳)だが、巨人に残留が決まった。ポスティングシステムによる移籍を交渉していた複数球団と契約条件で合意できず、巨人のエースは日本に舞い戻ることになったのだ。

私は以前から、日本球界の「財産」が、高額な契約金や日本の球団に入る譲渡金でアメリカに流出するポスティング制度に反対してきた。今回も、菅野は日本のために巨人に残るべきだと考えていた。

アメリカの報道によると、当初パドレス、ブルージェイズ、メッツ、ジャイアンツ、レッドソックスなど8球団が菅野獲得に乗り出していたという。ところが今年に入ってパドレスとメッツが撤退し、他の球団も「4年総額5600万ドル(約57億7000万円)以上」ともいわれる菅野の希望条件に応じなかった。

 

評価が低い日本選手

たしかにこのオフ、大リーグでは新型コロナウイルス感染症の拡大が球団経営を圧迫し、FAとなった田中将大やカブスからパドレスにトレード移籍したダルビッシュなど、実績のある大物選手優先に投資するしかない台所事情もあった。

だが今回の菅野問題で忘れてならないのは、大リーグの日本人選手に対する評価が低いという現実である。

MLB(米大リーグ機構)の統計によると、大リーグは中南米を中心とする外国出身選手が約30%という多国籍社会である。体格も身体能力も優れているメジャーで生き残る日本人選手は、イチローを頂点とする一握りしかいない。

手投げで球威のない菅野は通用しない

今年32歳になる菅野が1年でも早くメジャーに挑戦したい気持ちはわかるが、今回の交渉決裂で巨人に残留したのはよかったと思う。このままアメリカに行ったら大失敗していただろう。

菅野は日本を代表する好投手だが、よくホームランを打たれる。日本シリーズでも初戦の2回、栗原に先制の2ランを浴び、6回4失点でソフトバンクV4の流れを許した。

ペナントレースでは14勝2敗、防御率1.97の好成績でセ・リーグのMVPに選ばれたが、被本塁打8本は新人王の広島・森下(6本)やパ・リーグ投手成績1位のソフトバンク・千賀(4本)と比較しても多い。

ホームランといえば、パワーヒッターが多い大リーグの選手はもっと打つ。菅野はコントロールがよく変化球も多彩だから三振は取れるが、ホームランも打たれるだろう。

それに向こうは球場が広いうえに選手の足も速いから、日本ではシングルヒットだったのが長打になる。菅野にとっては悪いことばかりである。

しかも菅野の直球は150キロ前後だが、スピードガンの数字ほど速く見えず、力もない。それにいろんな変化球を放るだけだから、メジャーの主力打者はすぐ弱点を見抜くし、コンピュータを駆使するスコアラーも攻略法を教えるだろう。

今回は菅野側の条件が高すぎて交渉決裂したが、どの道を選ぶにしても、現役として長く続けるためにはもう一度体を作り直すべきだ。私は何年も前から著書やコラムで彼の肥満体質に警告を出してきた。だが、いまだにたるんだ体で、投げる瞬間ダラーッと手で放っている。体全体を使ってビュッと投げていないからスピードがないし、球に力とキレがない。投手としてはもう下り坂だ。

巨人はエース不在で日本一を奪還できたのか

しかし、問題は菅野だけではない。巨人も菅野の希望を尊重し、ポスティング申請をすんなりと容認した。メジャーに憧れ、挑戦したい選手の夢と希望を最優先する日本のプロ野球は、なんと心優しい世界かと驚くほかない。

セ・リーグでは2連覇したものの日本シリーズ8連敗の巨人は、今年こそ工藤ソフトバンクにリベンジしなければならない。崖っぷちの名門は大黒柱の菅野を「どうぞどうぞ」と大リーグに送り出してどうするつもりだったのか。

ポスティングを認めないソフトバンク

菅野が大リーグ球団との交渉のため渡米の準備に追われていた12月27日、新聞に興味深いニュースがあった。「千賀滉大、4億円」という契約更改の記事だが、目を引いたのは「1時間の話し合いで多くの時間を割いたのは、ポスティング制度での米大リーグ挑戦要望」というくだりだった。

また別の新聞でも、「交渉の席では4年連続で、ポスティングシステムによる米大リーグ挑戦の希望を伝えた。海外フリーエージェント(FA)の資格取得条件を満たすのは最短でも2022年。1時間以上の交渉では『アメリカの話が一番長かった』というが、球団は認めない姿勢を崩さず『(状況は)変わらない。なかなか難しい』と声を落とした。」とあった。

ここで交渉に当たった「球団」とは、三笠杉彦GM(ゼネラルマネジャー)だ。この話には伏線がある。ポスティングシステムによる大リーグ挑戦を認めていないソフトバンクは、千賀の要請をその都度却下してきた。

「戦力は出せない」のがプロ野球

2018年12月29日のサンケイスポーツには、次のような記事が載っている。

ソフトバンク・千賀滉大投手(25)が28日、ヤフオクドームの球団事務所で契約更改交渉に臨み、3500万円増の年俸1億6000万円でサインした。昨年に続き、将来はポスティングシステムを利用して米大リーグに挑戦する夢を持っていることを訴えた。
(中略)
「昔から大きな目標を持って、常に上をみてきた。もっと成長するために、野球人として、すごく上の目標があるかどうかで違うと思うから」
(中略)
球団に前例はなく、方針は変わらない。三笠球団統括本部長は「認める認めないではなく、球団の権利。基本的に、どの選手もホークスで長くやってもらいたい。ポスティングの選択肢はない」と説明。それでも、右腕の「話だけでも」という強い希望もあり、来年1月に話し合いの場を設けることが決まった。

つまり、ソフトバンクが一貫してポスティング制度による移籍を認めないのは、「千賀は戦力だから出せない」というプロ野球としては当然の方針だ。

冷たいようだが、選手の夢や希望を優先させてポスティング移籍を認めるのはプロ野球ではない。プロは勝たないと意味がない。それがこんなことを許していては、本気で球団経営をしているのはソフトバンクだけということになる。

他の球団も腹を据えて、「お前は勝つために必要な戦力だ。海外FAまで我慢して頑張ってくれ」というべきだ。

関連書籍

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広岡達朗

1932年、広島県呉市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。学生野球全盛時代に早大の名ショートとして活躍。54年、巨人に入団。1年目から正遊撃手を務め、打率.314で新人王とベストナインに輝いた。引退後は評論家活動を経て、広島とヤクルトでコーチを務めた。監督としてヤクルトと西武で日本シリーズに優勝し、セ・パ両リーグで日本一を達成。指導者としての手腕が高く評価された。92年、野球殿堂入り。『動じない。』(王貞治氏・藤平信一氏との共著)、『巨人への遺言』『中村天風 悲運に心悩ますな』『日本野球よ、それは間違っている!』『言わなきゃいけないプロ野球の大問題』(すべて幻冬舎)など著書多数。新刊『プロ野球激闘史』(幻冬舎)が好評発売中。

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