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日本野球よ、それは間違っている!

2020.09.05 更新 ツイート

阪神・藤川球児のりっぱな引き際広岡達朗

阪神の藤川球児(40歳)が今季限りで引退する。

全盛時は「火の玉ストレート」といわれた剛速球も近年は影をひそめ、「体が悲鳴を上げている」と告白して、球団に引退を申し入れたという。

藤川は通算243セーブを記録し、日米通算250セーブの偉業に迫っていた。たしかに彼はすごい球を投げた。投げ方もいい本格的な好投手だった。全盛期はテレビで見ていても、高めの速球がファウルになったときは「今日の藤川は打てる」と思ったが、打者が同じ球を空振りしたら「今日は打てないな」と思ったものだ。

 

しかしプロ22年目の今年、“火の玉球児”は見る影もなかった。8月半ばに二軍落ちする直前、最後の一軍マウンドでは、観客の少ないスタンドに「ウオッ」という掛け声が響き渡るだけで、いつもの躍動感あふれるフォームから投げる球は棒球だった。

それでも私は22年間、全力投球を続けた藤川に「よくやった!」と拍手を送りたい。40歳までやったら立派なものだ。

地獄を見た体験から“第2の球児”を育てろ

人間は年をとれば体が衰え、最後は力尽きて死ぬ。

年には勝てないのだ。ところが、それに気がつかない人が多い。

毎日、体を酷使して勝負に明け暮れるプロ野球選手の生活は人生の縮図である。22年間で力尽きた藤川の引退は、まさに“自然の原理”なのだ。

この当たり前の自然の摂理は誰でも知っているはずなのに、誰も自分のこととして認めようとしない。とくに華やかな世界で戦うプロ野球では、目をそむけるようにして自覚しない。

藤川も、もっと早く辞めて指導者になっていればさらによかった。これからは自然とともに年を重ねて、りっぱな“第2の球児”を育ててもらいたい。

トミー・ジョン手術で野球人生が暗転した藤川、和田、松坂

日本のプロ野球で2度の最優秀中継ぎ投手と最多セーブに輝いた藤川は、2013年から3年間、海外フリーエージェントで米大リーグに挑戦した。だが同年に右ヒジのトミー・ジョン手術(靭帯再建手術)を受けてから野球人生は暗転した。手術後、剛速球が蘇ることはなく、最後はレンジャーズを自由契約になった。

藤川は2016年から古巣の阪神に復帰したが、この年、ソフトバンクからメジャーに挑戦していた左腕・和田毅も古巣にUターン。大リーグに8年間在籍した松坂大輔(39歳)もソフトバンクと契約している。

この3人の共通点は、メジャーのマウンドでヒジや肩を痛めてトミー・ジョン手術を受けていることと、いずれも高額の複数年契約であることだ。

私は当時、著書『巨人への遺言』(幻冬舎)で、大手術を受けてメジャーから帰国した選手と高額の複数年契約を結んだ球団の不見識を糾弾した。私の懸念は的中し、3人とも日本でも手術の後遺症と新たなケガに苦しんだ。

たとえば藤川は、阪神での5年間で18勝13敗、防御率2.98。

いま39歳の和田も帰国1年目の2016年は15勝したが、その後は故障続きで昨年までの3年間は8勝だった。今季は9月3日現在4勝1敗、防御率3.13だが、先発で5回前後の息切れが目立つ。

そして中日経由で西武に戻った松坂は今季、公式戦の登板はなく論外だ。

メジャーで手術の後遺症に苦しむ大谷翔平

私は何度も書いてきたように、手術には反対してきた。手術を受ければ日常生活を送れるまでには回復するかもしれないが、プロ野球の投手は、術前の球威が復活しなければだめなのだ。

トミー・ジョン手術を受けた選手はアマチュアも含めて日米で何千人もいるといわれているが、完全復活できた投手がいるか。その象徴が、メジャー帰りの3人だ。

いや、彼らが憧れて手術までしたメジャーには、いままさに手術後の後遺症に苦しんでいる投手がいる。エンゼルスの大谷翔平である。術後1年11か月ぶりの登板からほどなく、手術した右ヒジ近くの筋肉損傷でまた今季の登板ができなくなったのも、手術の後遺症といっていい。

2年たっても完治していなかった大谷を、実戦経験もないまま登板させた監督・コーチの責任は重大だが、投手にとって大谷の悲劇は手術のリスクがいかに大きいかを物語っている。

一方でカブスのダルビッシュ有が6連勝で8月の月間MVPに選ばれたが、勝ち始めたのは7月末から。昨年は6勝8敗と高額年俸の責任を果たせていない。私は前からいっているように、手術後の復活は年単位の長い目で見なければいけない。手術後、フォームが縮まってしまったダルビッシュの投手としての余命は短いだろう。

患部を休ませ、自然治癒力と医学の力で復活めざせ

では、肩やヒジを痛めたらどうするか。日本を代表する投手たちが復活までに何年もかかっているのなら、その間ゆっくり肩やヒジを休ませ、リハビリや整形外科治療を続ければ自力で復活できると思う。

いつもいうように、人間には生まれつき、自分でケガや病気を治す自然治癒力がある。これだけリスクの高い手術に頼るより、たっぷり時間をかけて休養し、あとは整形外科医の治療とリハビリの助けを借りて復活をめざしたらいい。2~3年たっても改善しないときは、藤川のように“自然の原理”に従ってすっぱりと引退して指導者になれ。

和田も松坂も“自然の原理”に従った藤川を見習って、引き際を誤ってはならない。

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広岡達朗

1932年、広島県呉市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。学生野球全盛時代に早大の名ショートとして活躍。54年、巨人に入団。1年目から正遊撃手を務め、打率.314で新人王とベストナインに輝いた。引退後は評論家活動を経て、広島とヤクルトでコーチを務めた。監督としてヤクルトと西武で日本シリーズに優勝し、セ・パ両リーグで日本一を達成。指導者としての手腕が高く評価された。92年、野球殿堂入り。『動じない。』(王貞治氏・藤平信一氏との共著)、『巨人への遺言』『中村天風 悲運に心悩ますな』『日本野球よ、それは間違っている!』『言わなきゃいけないプロ野球の大問題』(すべて幻冬舎)など著書多数。新刊『プロ野球激闘史』(幻冬舎)が好評発売中。

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