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日本野球よ、それは間違っている!

2019.11.16 更新 ツイート

「週500球以内」高野連の球数制限で問われる指導者の責任広岡達朗

日本高校野球連盟の「投手の障害予防に関する有識者会議」が、「投手の1週間の総投球数を500球以内」とする答申案をまとめた。試行期間を来春から3年間とし、期間内は罰則のないガイドラインとして運用するという。

答申案には投球制限のほか、3連戦を避ける大会日程設定や週1日以上の完全休養日、指導者のライセンス制の検討などが盛り込まれている。

週500球の根拠は何か

投手の障害予防を目的とした提言は結構だが、私が疑問なのは「週500球」と決めた根拠は何か、ということだ。有識者会議の審議過程では当然、根拠を積み上げて議論しただろうし、答申案にはその根拠が明記されているかもしれないが、私が読んだニュースの記事には見当たらない。

スポーツ界は素直だから、この答申案の通りに実行されるだろうが、この「500球以内」がどんな根拠で決められたかが、現場の指導にあたって重要になると私は思う。

私がこの問題で心配なのは、「投げすぎてケガをしたらいけないから、週500球以下ならいいだろう」という理由で数字が独り歩きをして、肩や体をいちばん鍛え込まなければならない高校時代に練習の質と量が確保できるのかということだ。何事も、人間は楽をしたらだんだんダメになる。

そして1日に300球、500球投げても異常のない人はどうするのか。やり方によっては、人間はほんとうに強いものなのだ、ということを教えることも必要だ。

毎日500球投げ抜いた鉄腕・稲尾和久

私も巨人の現役時代、日本シリーズで3年連続で惨敗した西鉄に稲尾和久という投手がいた。当時は入団間もなかったが、のちに通算276勝を挙げるなど、数々の記録とタイトルを残した伝説の鉄腕投手だ。

自伝『鉄腕一代 超人投手の豪快野球人生!』(ベースボール・マガジン社、1993年)によると、稲尾は新人時代のキャンプで打撃投手として毎日400球も500球も投げ続けた。そのうち、パッとひらめいたという。

「そうか、ここでコントロールを身につける練習をすればいいんだ。(中略)ブルペンで投げるより、こういう実戦に近い状況でコントロールの練習を続けるほうがよっぽど身につく、というプラス思考。そういう発想の転換がよかった。

 ホームプレートには、基本的に四つのコーナーがある。外角高目と低目、内角の高目と低目。3球続けて真ん中に投げたあと、外角低目にひとつハズしてみたり、ストライク三つ のあと内角高目に1球ハズしてボールにしてみたり、バッティング投手の仕事の中で独自のコントロール練習がそうして始まった。(中略)

 あとになって考えると、ひとつの課題を持って夢中で毎日毎日、投げ続けているうちに、いつのまにか、いうところの“地肩”というものが出来上がっていたのかもしれないし、危険な打球をかわしたり処理しているうちに、それが自然に投手のフィールディング練習になっていた。」

併殺狙いの神業・高速スライダーを習得

そして稲尾は、「速いスライダーを投げてゲッツーを取る」という究極の神業を身につけた。これは私が日本プロ野球OBクラブの会長のとき、会員研修会で稲尾に現役時代の体験談を語ってもらった話だ。

「速いスライダーは速い打球で内野手の正面に行きやすいからゲッツーになりやすいが、緩いスライダーはバットに緩く当たるから打球も弱いのでゲッツーは取りにくい」と稲尾はいった。

つまり走者一塁などで併殺がほしい場合、スピードのあるスライダーを投げれば跳ね返るゴロも速いのでゲッツーを取りやすい、ということだ。

このとき私が感じたのは、「やはり昔の名投手は、投げるボールにそれぞれ意味があるんだな」ということだった。

球史に残る鉄腕投手がこの境地に上り詰めることができたのは、高校卒業後の新人時代にバッティング投手として課題を持って投げ続けた礎(いしずえ)があったからだろう。

私はここで高野連の球数制限に反対しているのではない。大事なのは、週500球の障害予防制限の中で、選手たちにどれだけ質・量ともに充実した練習をさせられるか、ということだ。球数を制限しても、練習の仕方や投げ方が悪かったら故障を防ぐことはできない。

球数制限のあとに問われるのは、正しい野球を教えなければならない指導者の責任と能力である。

 

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広岡達朗

1932年、広島県呉市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。学生野球全盛時代に早大の名ショートとして活躍。54年に巨人に入団、1年目から正遊撃手を務め、打率.314で新人王とベストナインに輝いた。引退後は評論家活動を経て、広島とヤクルトでコーチを務めた。監督としてヤクルトと西武で日本シリーズに優勝し、セ・パ両リーグで日本一を達成。指導者としての手腕が高く評価された。92年に野球殿堂入り。『動じない。』(王貞治氏・藤平信一氏との共著、幻冬舎)、『巨人への遺言』『中村天風 悲運に心悩ますな』『日本野球よ、それは間違っている!』(すべて幻冬舎)など著書多数。新刊『言わなきゃいけないプロ野球の大問題 巨人はなぜ勝てなくなったのか?』(幻冬舎)が発売中。

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