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朝日新聞記者の将棋の日々

2019.11.04 更新 ツイート

絶対王者・羽生善治九段vs天才少年・藤井聡太七段――将棋盤をはさんで向かい合う32歳差の二人のスター村瀬信也(朝日新聞 将棋担当記者)

第69期王将戦挑戦者決定リーグ戦で、藤井七段が羽生九段を破り、最年少タイトル挑戦に向けて、大きく前進した。(村瀬信也撮影)

百戦錬磨の羽生善治九段が追い詰められていた。正座のままうつむいたり、手を頭に当てたり。ネット中継の画面越しにも、悩ましげな様子が見て取れる。向かい合う藤井聡太七段は、気を緩めることなく盤面を見つめている。

10月21日。豊島将之名人やA級棋士ら7人が総当たりで戦う王将戦の挑戦者決定リーグ戦で、2勝0敗の羽生と2勝1敗の藤井が激突した。挑戦権争いのカギを握る注目の一番。持ち時間各4時間の対局は午前10時に始まった。空が暗くなる頃、形勢の針は藤井に傾いていた。

 

羽生と藤井が公式戦で対戦するのは、これが2度目だ。初顔合わせは、2018年2月の朝日杯将棋オープン戦準決勝。竜王を保持していた羽生に、中学3年で五段だった藤井が挑んだ。早指しで行われる大勝負はファンに公開され、約600人が見守った。

当日、東京・有楽町の会場には、将棋の対局としては見たこともないほどの報道陣が朝から詰めかけ、異様な雰囲気に包まれていた。取材する側の私も普段とは違う緊張感を意識していたが、藤井は落ち着いていた。振り駒の直後に発した言葉を今でも覚えている。

「(対局場に持ち込むペットボトルの)ラベルをはがした方がいいですか」。

集中力を高めるはずのタイミングで示した協賛企業への配慮は、とても中学3年とは思えなかった。

昨年行われた朝日杯準決勝、羽生・藤井戦での振り駒の様子。(村瀬信也 撮影)

ステージに上がってからの戦いぶりも、中学生離れしていた。相手の玉将をテンポ良く攻め立て、反撃にも動じない。羽生が119手目▲4七桂を見て投了すると、場内から割れんばかりの拍手が沸き起こった。藤井は次の決勝も制して、全棋士参加棋戦での優勝を果たすことになる。15歳6カ月での初優勝という最年少記録は、空前絶後になるかもしれない。

 

平成の将棋界をリードした羽生と、平成の終わりに彗星のように現れた藤井。新旧スターの2度目の対決がタイトルの挑戦権を争う場で実現したのは、両者が同じ時期にトップクラスの実力にある証しだ。「夢の対決」を制したのは、またしても藤井だった。

対局直後のインタビューで、長い持ち時間での羽生九段との対局が初めてだったことについて問われた藤井は「楽しみにしていました。読みにない手を指されることが多かったです」。時折目を細めながら控えめに話す姿は、いつもと変わらなかった。一方の羽生は、ハキハキとした口調で「非常に力強く指されました。一手一手、読みが入っているという印象を受けました」とたたえた。

初めての長い持ち時間の羽生・藤井戦とあって、多くの報道陣が詰めかけた。
(村瀬信也 撮影)

両者の対戦成績は、これで藤井の2勝0敗となった。羽生の言葉通り、藤井の指し手は冴えていた。結果だけ見ると、「世代交代」の4文字が頭をよぎるが、まだ勝負付けが済んだとは思えない。

この日の戦型は、双方の陣形の守りが手薄な「相掛かり」だった。一度差がつくと粘りにくい展開になることが多い。その点がどの程度影響したのかは判断しづらいが、素人目には、羽生が実力を存分に発揮した内容とは思えなかった。混沌とした中盤戦で見せる快刀乱麻を断つような構想、苦しい終盤戦で飛び出す妙手順……。羽生の勝負術が生み出してきたドラマは、数え上げればきりがない。

感想戦は、32歳上の羽生が主導して進められた。羽生の対局としては珍しく、多くのカメラマンがその背後に陣取った。勝者の藤井にレンズを向けるためだが、敗者の宿命にもどこ吹く風。真理の追求を楽しむかのように盤に向かう姿は、いつもの羽生だった。

これからも両者は対戦を重ねるだろう。幾多の死線をくぐり抜けてきた羽生の「本気」が盤上に現れる場面がきっと来るはずだ。その時、今よりもさらに成長した藤井は何を感じ、どんな一手を放つのだろうか。

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