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日本野球よ、それは間違っている!

2019.09.07 更新 ツイート

鳥谷退団で証明された阪神のお粗末な経営感覚広岡達朗

阪神の看板ショート・鳥谷敬の退団が決まった。早稲田大学から自由獲得枠で入団して16年。事実上の戦力外通告といえる引退勧告を受け、鳥谷は38歳で名門タイガースのユニフォームを脱ぐ。

早大の主力打者だった鳥谷は私の後輩で、当時まだ60代だった私も、しばしば母校のグラウンドで指導した。寡黙な選手で堅実な守備だったが、バッティングでも三冠王と首位打者2度など、数々の東京六大学記録を残している。

 

阪神では2017年に通算2000本安打を達成し、2018年、衣笠祥雄に次ぐ歴代2位の1939試合連続出場記録を残している。守備では「今牛若丸」と呼ばれた先輩・吉田義男にはるかに及ばなかったが、左打席からの巧打は阪神ファンの人気も評価も高かった。

5年総額20億円の無謀契約

しかし人間は、年とともに体力が衰えて最後は死ぬ。野球選手はとくに現役の時間が短く、どんな名選手でも30歳をすぎると体力も成績も降下する。私が鳥谷退団のニュースを見て痛感したのは、当時33歳を迎えた鳥谷と5年総額20億円(推定、以下同)の長期高額契約を結んだ阪神の無謀な経営感覚である。鳥谷の成績を振り返ってみると、この年は打率.281で、皮肉にも以後3割を切り続けている。

いくら人気選手を引き留めるためだからといって、5年で20億円も大盤振る舞いしておいて途中で切るのは惜しくなったのだろうが、阪神の見通しの甘さと経営感覚のなさにはあきれるばかりだ。

だが、この傾向は阪神だけではない。ソフトバンクも松坂大輔と和田毅をそれぞれ3年総額12億円+出来高払いで契約し、阪神も藤川球児を2年総額4億円で迎えた。いずれも米大リーグに挑戦し、ヒジのトミー・ジョン手術を受けて帰ってきての再就職だ。

私はかねて、以前の球威を取り戻す完全復活が難しいという理由で、投手の手術には反対してきた。上記の3人はどうだったか。一時的な復活はあったにしても、長期高額契約に見合うような完全復活はひとりもいない。両球団とも豊かな資金を惜しげもなくつぎ込んだ複数年契約は、球団経営の本質を無視したもので間違っている。

「日本はメジャーのFAと複数年契約のまねをしてはいけない」

私が初めて「複数年契約の弊害」に注目したのは、1988(昭和63)年に主催した「日米ベースボール・サミット」だった。日米野球人の親睦と日本の野球技術のさらなる向上をめざして開催した民間イベントである。

この野球サミットにはキューン・元大リーグコミッショナーをはじめ、球団副会長やゼネラルマネジャーなど球団経営陣と現職の監督、トッププレーヤーたちを特別講師に招き、日本の野球評論家や社会人野球の有力選手に講習や実技指導を行った。

この野球サミットで、ある特別講師が「大リーグではいま、選手のFA(フリーエージェント)による複数年契約と年俸高騰が問題になっている。その背景には、オーナーたちの選手に対する差別と搾取の歴史があるが、日本の野球界にはそんなオーナーはいないのだから、FAと複数年契約だけはメジャーのまねをしてはいけない」と忠告した。

だがあれから30年たって大リーグの複数年契約はますます拡大し、大谷翔平のいるエンゼルスの強打者・トラウトはスポーツ史上最高の12年契約、総額480億円だという。

しかし一方で、メジャーの契約には一定の打席数をクリアしなければ年俸が減らされるなど、自己責任条項も盛り込まれている。また、MLB(大リーグ機構)はFAで有力選手を獲得した球団は相手球団にドラフトの1位指名権を渡したり、高額トレードなどで選手の人件費が一定の基準を超えた場合、いわゆる「ぜいたく税」を徴収して、金持ち球団への戦力の集中を避けるような制度を構築している。

すべては多民族国家の平等の原則に従い、戦力の均衡を図ることで大リーグ全体の利益を向上させるためで、その象徴が、最下位球団から順番に選手を指名する完全ウェーバー方式のドラフト制度である。

緊張感がなくなる長期契約

なんでもアメリカのまねをする日本も高額の複数年契約がエスカレートしているが、大リーグのような戦力均衡制度やドラフト制度は形だけで、似て非なるものである。

日本で史上最高額の高給取りはソフトバンクの柳田悠岐で、昨年末、3年契約の2年目になる今季を7000万円増の年俸5億7000万円+出来高払いで契約更新した。

選手にしてみれば、引退後の資金として高額の複数年契約を求めるのは当然だろうが、どうしても安心して気が緩み、1年契約のような緊張感を失うことになる。

鳥谷は高齢になってからの5年契約で急降下したが、まだ30歳の柳田でさえ、開幕直後の4月8日に左ヒザ裏の肉離れで戦列を離れ、8月21日のオリックス戦で復帰するまで4か月半かかっている。

複数年なら完全出来高制で自己責任条件をつけろ

私は、プロ野球は1年契約が原則だと考えている。球団が戦力を抱え込むためにどうしても複数年契約をしたいなら、基本年俸を最低保障年俸から1億円くらいまでに抑え、野手なら出場試合数や打席数などの基本条件を定めたうえで、それ以上の働きをしたら活躍に応じて4億円でも5億円でも払う出来高契約にしたらいい。

そのかわり、今季の鳥谷のように打率が2割そこそこだったり、柳田のようにケガで開幕から4か月以上も休んだら、自己責任で年俸が大幅ダウンになる条件つきの複数年契約でなければ本当のプロではない。阪神のように主力選手を抱え込むために、何が起こるかわからない5年先まで毎年4億円を保障するのは、選手を甘やかすことになる。

ただ利害が対立するプロ野球では、球団単独で複数年契約を改善するのは難しいだろう。ここは球界の共存共栄のため、コミッショナーがオーナーたちを説得して共通の原則ルールをつくるべきだ。

 

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広岡達朗

1932年、広島県呉市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。学生野球全盛時代に早大の名ショートとして活躍。54年に巨人に入団、1年目から正遊撃手を務め、打率.314で新人王とベストナインに輝いた。引退後は評論家活動を経て、広島とヤクルトでコーチを務めた。監督としてヤクルトと西武で日本シリーズに優勝し、セ・パ両リーグで日本一を達成。指導者としての手腕が高く評価された。92年に野球殿堂入り。『動じない。』(王貞治氏・藤平信一氏との共著、幻冬舎)、『巨人への遺言』『中村天風 悲運に心悩ますな』『日本野球よ、それは間違っている!』(すべて幻冬舎)など著書多数。新刊『言わなきゃいけないプロ野球の大問題 巨人はなぜ勝てなくなったのか?』(幻冬舎)が発売中。

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