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日本野球よ、それは間違っている!

2019.08.24 更新 ツイート

渋野日向子を全英女子オープン優勝に導いた母の言葉広岡達朗

スポーツ界でこの夏一番のニュースは、20歳の渋野日向子が全英女子オープンゴルフに初出場して優勝したことだろう。日本人としては42年ぶりの快挙にマスコミは連日大騒ぎだったが、干天の慈雨のようなニュースのなかで、私が引きつけられたのは母親の言葉だった。

大会中「やっべぇ」を連発した新女王は、コースを移動中もはじけるような笑顔を振りまき、海外メディアからも「スマイリング・シンデレラ」と呼ばれたが、この笑顔には深い意味があったようだ。

「あなたは笑顔が一番よ」

報道によれば、渋野は8歳からソフトボールとゴルフを始めた。父親は砲丸投げと円盤投げで国体2位、母親はやり投げで高校総体に出場したという。アスリートの血を引く渋野が身体能力に恵まれているのは当然だが、それだけで世界の天才ゴルファーが集まる全英女子で優勝できるはずがない。

母・伸子さんによると、「日向子は子どものころから喜怒哀楽の激しい子でしたが、笑顔がいいので、『あなたは笑顔が一番よ』とだけ言って育てました。『頑張って』とは言わなかった」という。私が感心したのは、この短いコメントに、見事な子育てと娘の成功の秘訣が込められていると思ったからだ。

私は巨人に入団して間もなくプロの壁にぶつかり、人生哲学者・中村天風さんの門を叩いた。天風さんは30歳で重い結核にかかった。日本の名医にも見放されたため、治療と人生の真理を探究するため欧米を遍歴した。だが成果がなく、絶望のうちに海路帰国の途中、エジプトのホテルでヨガの聖者・カリアッパ師と出会い、ヒマラヤの麓で約3年、指導を受けて死病を克服する。

帰国した天風さんは、ヒマラヤ修行以来「人生とは何か、真の幸せとは何か」を追究し、独自の人生哲学「心身統一法」を考案。「人は常に積極的な精神で生きなければいけない。気の持ち方しだいで健康も人生も変わる」という真理を導き出した。その重要な教えの一つが「自己暗示」である。

「鏡に映る自分の顔に対し、自己の欲する積極精神状態を、たとえば『信念が強くなる!』というような言葉を、真剣な気分で発声すること。必要なのは、命令したことが確実に自己の精神に具体化するまで、同一命令をそのたびごとに続行することである」

そして天風さんは、こうも言っている。

「平素人生に活きるときに、つとめて明るく朗らかに活き活きと勇ましく活きる努力を実行すべきである。笑えば心持は何となくのびのびと朗らかになる。(中略)笑いはその疲れた心や体を、ほどよく調和させるように人間に与えられているものである」

自己暗示と笑顔の力

渋野も初めて挑戦した全英女子で、4日間を笑顔で闘った。それでも報道によると、6月中旬のツアー会場ではクラブハウスの隅で泣いたこともあったという。5月に初優勝した後、満足なプレーができなかったからだ。そのとき渋野は「うまくいかなくて、悔しくて…。みんなに置いて行かれてしまう気がするんです。でもどんなにうまくいかなくても、笑っていないといけないと思う。なかなか難しいですけどね」(「『笑顔のシンデレラ』渋野日向子の素顔は『泣き虫』」日刊スポーツ 2019.8.4)と語っている。

辛いときも不調のときもコースでは笑顔を絶やさない20歳のスマイリング・シンデレラについて、慶應大スポーツ医学研究センター研究員でスポーツ心理学博士の布施努氏は新聞で次のように分析している。

「報道を見て推測の域だが、渋野選手の笑顔やモグモグ食べている姿を見ると、彼女は勝てる自分を演じることのできる選手なのだと思う。両親の教えもあるだろうが、このように振る舞うことが勝利につながると分かっていて、たとえプレーでミスをしたとしても、勝つための切り替えがとても上手い。(後略)」(『産経新聞』2019.8.6朝刊)

苦しいときも悲しいときも笑顔の力で乗り切ることを教えたのは、「あなたは笑顔が一番よ」という母の言葉だった。

 

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広岡達朗

1932年、広島県呉市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。学生野球全盛時代に早大の名ショートとして活躍。54年に巨人に入団、1年目から正遊撃手を務め、打率.314で新人王とベストナインに輝いた。引退後は評論家活動を経て、広島とヤクルトでコーチを務めた。監督としてヤクルトと西武で日本シリーズに優勝し、セ・パ両リーグで日本一を達成。指導者としての手腕が高く評価された。92年に野球殿堂入り。『動じない。』(王貞治氏・藤平信一氏との共著、幻冬舎)、『巨人への遺言』『中村天風 悲運に心悩ますな』『日本野球よ、それは間違っている!』(すべて幻冬舎)など著書多数。新刊『言わなきゃいけないプロ野球の大問題 巨人はなぜ勝てなくなったのか?』(幻冬舎)が発売中。

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