1. Home
  2. 社会・教養
  3. 怖いへんないきものの絵
  4. 『怖い絵』の中野京子氏が本当に怖い「いき...

怖いへんないきものの絵

2019.03.22 公開 ツイート

『怖い絵』の中野京子氏が本当に怖い「いきもの」とは? 中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』シリーズの著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれたのが、『怖いへんないきものの絵』です。

早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的! そんなお二人の「制作後記」、今回は浮世絵の話題から、中野先生の苦手ないきものが明らかに!(聞き手・構成/編集部)

*   *   *

歌川芳藤『五拾三次之内・猫の怪』1847年

アルチンボルドと浮世絵のふしぎな一致

――本に載るはずで載らなかった「怖いへんないきものの絵」についてお話しいただこうと思います。題材は歌川芳藤『五拾三次之内・猫の怪』です。当初はアルチンボルド『水』(本書に掲載)と絡めて登場させる予定でしたね。

ジュゼッペ・アルチンボルド『水』
1566年 美術史美術館蔵

早川:アルチンボルドだけで十分な感じだったので……。この歌川芳藤は、猫ばかり描いていたようです。比較的新しい絵らしいんですが。幕末から明治にかけての頃でしょうか(編集部注:1847年制作とされる)。

中野:この『猫の怪』も、アルチンボルドの『水』も、生きものを組み合わせて一つの絵にしていますよね。実は、こうした絵の発想は、オランダ経由で日本に入ってきていたのではないかとも言われています。アンチンボルドの原画そのものではないけれど、版画などの形で入ってきたのではないかと。

――すると、当時の日本人絵師が、アルチンボルドの絵を目にしたかもしれない、ということですか?

中野:でも、そういう“発想”は、同時発生的にいろいろなところでポコポコと出てくるものですからね。少し逸れますが、「サルの芋洗い」も、世界各地で同時期に発生したらしいって聞いたことがあります。

――誰かが思いついたときには、地球上のどこかで“別の誰か”が考えついているってことですね。

早川:石や虫の群れが人の顔みたいに見えることがありますから、そういうところから発想するのかもしれません。

 

江戸時代の人はカエル好き?

歌川國芳『天竺徳兵衛』

――載せるはずだった名画その2です。題材は歌川國芳『天竺徳兵衛』。これはメーリアン『コショウソウとピパ』(本書に掲載)と絡める予定でしたね。カエルつながりということで。

マリア・シビラ・メーリアン『コショウソウとピパ』
 『スリナム産昆虫変態図譜』挿絵

早川:國芳の前に、カエルがそのものが疑問だったんです。妖術使いが乗っている生き物が、何でカエルなのか?

“使い魔”としての動物だったら、ほかにいくらでも強そうで絵になりそうなものがいると思うんです。ヘビとかオオカミとか、タカとか。でもカエル。なんでわざわざカエルなんでしょうか。

中野:確かにそうですね! 日本人ってガマガエルが好きなのかしら。「ガマの油売り」というのもありますし……。

早川:「ガマが己のあまりの醜さに、たら~りたらりと脂汗を……」って売り口上のやつですね。カエルの分泌物は、傷薬としての効能があると謳(うた)われました。カエルの種類によっては幻覚剤になるらしいですが。

中野:カエルって、ちょっと気持ち悪いと思いませんか。

早川:あの質感がだめという人も少なくないです。でも一方でマスコットにもなるし、絵にも描かれるし、俳句にもなる。不思議です。

中野:話が少しそれますが、私は、ウシガエルの鳴き声を東京に来てから初めて聞きました。故郷の北海道では聞いたことがなく、モーモーってすごい声がしたので、「あれは何?」と近所の人に聞くと、ウシガエルだというのでびっくりしました!

早川:ウシガエルはそもそも海外から輸入された外来種なんです。ウシガエルの図太い声が昔から知られていたら、「蛙飛び込む水の音」の風情は出てこなかったかもしれません

中野先生の「怖いいきもの」とは

早川:北海道ご出身ということは、ひょっとしてゴキブリもご覧になったことがなかったのでは?

中野:ええ、なかったです。小さなチャバネゴキブリみたいなものは北海道にもいるらしいですが、家では見たことがありません。

それなのに、広告に登場するのは黒くて大きなゴキブリでしょう? 大げさに表現しているだけと思っていました。

早川:そういえば、以前テレビで、「ゴキブリを見たことがない北海道の人に実際に見せてみる」という特集をしていたのですが、若い女性も珍しがって写真を撮ったりしていましたけど。

中野:東京に来て初めて見たときは、失神しそうになりました。しかも飛ぶでしょう?いまだにゴキブリは全然ダメです。エイと同じくらい。

――本書に「エイ」と中野先生の出会いが描かれていて、思わず笑ってしまうのですが、中野先生の“生きものとのふれあいの記憶”は面白いですね(笑)。

早川:あのくだりは中野先生のチャーミングさがポイントですね。「中野京子さんかわいい」っていう評もありましたよ。「京子ちゃん」って言いたくなる人もいると思いますよ。

――北海道には本当にゴキブリはいないんですね。じゃあ沖縄はどうなんでしょう。

早川:沖縄には、ほかにもいろんなすごい生きものがいますからね。ハブもいるし、あとはヤシガニとか。

中野:ヤシガニってどんな生きものですか?

早川:ヤドカリの中身を巨大化したような生きものです。沖縄では普通に道路を歩いているそうです。

ヤシガニ。(写真:iStock.com/Janos)

中野:それはちょっと怖い……。見慣れると平気になるのかな。

早川:食べたりもするようですけどね。茹でて。

中野:私は動物や生きものの本を読むのは大好きなのに、実物が全然ダメなのはどうしてかなあ。

早川:動くからですかね。でも本がこっち向かってバサバサッ!って飛んできたら、やはり怖いのでは……。芥川龍之介の「地獄変」なんかが電球の周りを飛び回ってたら怖いと思います。

――中野先生の動物話は非常に面白いのですが、そろそろ絵の話に戻りましょう!(つづく)

★次回は3月25日(月)公開予定です。

 

 

関連書籍

中野京子/早川いくを『怖いへんないきものの絵』

2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。 アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

{ この記事をシェアする }

怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

バックナンバー

中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP