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怖いへんないきものの絵

2019.02.23 更新 ツイート

オオカミは「ワル」ってホント?実は、生涯添い遂げる愚直な動物⁉ ~ドレ『赤ずきんちゃん』(3/3)中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』中野京子氏と、『へんないきもの』早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれた『怖いへんないきものの絵』
早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的!

さて、『赤ずきんちゃん』の絵は、「エロス」が描かれているらしいんです。
でも、オオカミって、そんなに悪い生き物ではないらしいですよ。
浮気もしない、誠実なハートを持った動物のようです…。

*   *   *

オオカミは女をたぶらかす、悪い男だという。

では実際のオオカミが性的に奔放なのかというと、むしろ逆である。繁殖できるのは群れの中のリーダー格のオスとメスだけ、しかもその絆(きずな)は固く、文字通り死が二人を分かつまで、生涯を添い遂げる。もちろん離婚などしない。

では、いつから、オオカミはこんなにも憎まれる存在となったのだろうか。

オオカミが敵視されるようになったのは、どうやら人間が家畜を飼い始めてからのことらしい。一万年前から数千年前のことだ。

オオカミの狩りは、長距離を早足で移動するハードなものだ。狩りやすい家畜のヤギやヒツジがいれば、当然、標的になる。

だが、人間からしてみれば「盗人(ぬすっと)集団」だ。オオカミ憎しの感情が高まると、やがて、ヨーロッパ各地でオオカミ狩りが行われるようになり、国をあげての駆除も実施されるようになった。

「残虐」「邪悪」「卑劣」といったオオカミのマイナスイメージはとめどもなく肥大化していった。

フランスでは、処女を失うことを「オオカミに会った」といったそうだ。オオカミにはやがて、実物とはかけ離れた「女をだます悪い男」のイメージが定着していく。

(写真:iStock.com/jandrielombard)

一方、このイメージは、人間の創造性を刺激してやまなかった。

人間は、実物とかけ離れたオオカミ像を、憎み、恐怖し、興奮し、楽しみ、さまざまな作品に使い倒してきた。

 

『ジェボーダンの怪物事件』もありましたね。ルイ14世の次のルイ15世時代です。謎の動物が18世紀フランスのジェボーダン地方に現れ、多くの人間を殺しました。いちおう捕獲されて一件落着になりましたが、実際はその後も人が死んでいます。この怪物のイメージもオオカミに近いです」

 

なるほど、オオカミ自身のイメージも、民話の進化と同じく、さまざまに変化、拡散していったようだ。ドレは巧みに、こうしたオオカミの「キャラクター属性」を引き出し、絵画に定着させたのだろう。ダンテやミルトンの挿絵も手がけた画家である。当時はさぞ、巨匠としてもてはやされたのではなかろうか。

 

ドレはヨーロッパ中で人気を博しましたね。ただし一般の美術史には名前が出てこないことが多いです。イラストレーター扱いなのね。独学で大成した人で、アカデミー側からは無視されたのかもしれない。ヒエラルキーでいうと、油彩タブロー(壁画ではなく、作品として独立したキャンバス画などのこと)に比べて、挿絵は添え物扱いで、重きを置かれないようです。それは現代まで続いています」

 

――ドレの作品は、緻密で、壮大で、私にはただひたすら偉大な画家に思えます。しかし、ドレの作品は銅版画が多いですよね。ドレはどうしてわざわざ油絵を、しかも赤ずきんちゃんのこんな場面を描いたんでしょうね?

 

「それはわかりません。絵画の来歴というのは、意外にわからないものなんです。でも、それを求めた注文主がいた、ということなんでしょう。
わざわざこのシーンを描いてほしいって言ったわけで、なかなか変な人だったかもしれませんね……」

 

この絵の注文主は、どんな人物だったのだろうか。

想像してみよう。

絵を発注するぐらいだから、裕福だっただろう。

立派な身なりをし、口ひげをはやした紳士。彼がヨーロッパでも名高い、一流の画家に注文したのは、おびえる少女とベッドを共にしている、オオカミの絵だ。

 

仄暗(ほのぐら)いランプの灯りの下、グラスを片手に、壁にかかった油絵を凝視する紳士。火影(ほかげ)の中、紳士の双眸(そうぼう)にたたえられているのは、暗い欲望の光ではなかったろうか……。

 

(次回は、『カニに指を挟まれる少年』です)

 

 

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2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。 アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

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怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

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中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

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