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怖いへんないきものの絵

2019.02.21 更新

フランス語では、黄昏時のことを『犬とオオカミの間』と呼ぶらしい ~ドレ『赤ずきんちゃん』(1/3)中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』中野京子氏と、『へんないきもの』早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれた、『怖いへんないきものの絵』
早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的!
中野先生が容赦なくブッタ斬る様は、爆笑必至です。

今回早川さんが中野先生に提示した絵は、一見、かわいらしい『赤ずきんちゃん』
ですが、実はこの絵は、妖し~い意味合いを描いているのです。はてさて、二人の話はどんな展開に⁉
(※『赤ずきんちゃん』は全3回です)

*   *   *

『赤ずきんちゃん』ドレ

1962年 ビクトリア国立美術館蔵

怖い動物、といえば何といってもオオカミだ。

童話、絵本、小説、映画、アニメ……。数えきれないほどのお話に、オオカミは「悪者」として登場してきた。獰猛(どうもう)でずるがしこいイメージは、もはや無意識に刷り込まれている、といっても過言ではなかろう。

そしてその原点は、やはり「赤ずきん」ではないだろうか。

赤ずきんのお話を知らない人はまずいるまい。「一人でどこへ行くんだい?」とオオカミが少女に語りかけている挿絵も、誰もが一度は目にしたことがあるだろう。

だが、この絵は何だ。

赤ずきんちゃんだ。たしかに赤ずきんちゃんなのだが、何だか異様な印象をうける。

赤ずきんちゃんの恐怖の表情が生々しい。さらにはこのオオカミだ。

オオカミというと、牙(きば)を剥(む)き出して舌なめずりをしている、マンガ的なキャラクターを思い浮かべてしまう。

この絵の、タヌキ寝入りをきめ込むオオカミも、なるほど滑稽(こっけい)だ。だが、その一方で、何だかケダモノの匂いがぷんぷんと漂うようなリアルさがある。ベッドで寝返りをうって、こんなのが横に寝ていたら、総毛立つ。


「フランス語では、黄昏時(たそがれどき)のことを、『犬とオオカミの間』と呼びます」

 

――どういうことですか、中野先生?

 

「向こうから来るのが、無害な犬なのか、恐ろしいオオカミなのか見定めにくい暗さ、という意味です。恐怖をはらんだ表現なんです。
『ペスト・オオカミ・オスマントルコ』という言葉もあり、これは『地震・雷・火事・親父』のヨーロッパ版。日本では恐ろしい獣といえばヒグマですが、ヨーロッパでは何といってもオオカミだったのでしょうね」

 

――オスマントルコって、世界史に出てきましたが、そんなに怖い国なんですか?

 

「強大な帝国で、キリスト教圏にとって何世紀にもわたって脅威そのものでした。宗教戦争は熾烈(しれつ)です。ウィーンは二回も包囲されてますし、コンスタンチノープルは陥落して、イスタンブールになってしまいました」

 

なるほど、オオカミは、そんな強大な帝国に匹敵するほど怖かったというわけだ。

赤ずきんといえば、何といってもグリム童話だ。ではオオカミを悪役として世界に知らしめたのは、やはりグリム童話なのだろうか。

 

「グリムも有名ですが、それより前に17世紀フランスのシャルル・ペローが古い民話を集めて『ペロー童話集』を出版しています。彼はブルボン王朝の最盛期を築いた太陽王、ルイ14世に仕え、古代より今の方が優れていると、いわばルイ太陽王をヨイショした人でもあります。宮廷詩人でしたからね。
赤ずきんのイメージを決定づけたのは、ペローといってもいいでしょう。詩人なので、独創性に長(た)けていました」

 

―――宮廷詩人なんて、おべっかみたいなポエムを書いて、楽して生きてるみたいな気がしてましたが、そんな仕事もしてたんですね。

 

「主人公の少女に赤い頭巾をかぶせて『赤ずきんちゃん』と名づけたのは彼だといわれています。ちなみに、シンデレラにガラスの靴をはかせたのもペローです」

 

つまり素材の民話をきちんとストーリー立てし、「キャラクター設定」をしたのがペローだったというわけだ。

民話には生物と同じく、進化系統樹があると聞いたことがある。

民話は、語り伝えられるうちに、時代や地域に合わせて変化していく。逆にいうと、それを遡れば、祖先がわかるのだ。生物と同じような進化過程をたどるわけで「赤ずきんちゃん」と「オオカミと七匹の子ヤギ」は、原典は同じ話だという説もある。

 

(つづく)

中野京子、早川いくを『怖いへんないきものの絵』

2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。
アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

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怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

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中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

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