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怖いへんないきものの絵

2019.02.22 更新

赤ずきんちゃんの「ベッド・バージョン」がきわどすぎる! ~ドレ『赤ずきんちゃん』(2/3)中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』中野京子氏と、『へんないきもの』早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれた『怖いへんないきものの絵』
早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的!

今回は、『赤ずきんちゃん』の絵について話しているのですが、どうやら、赤ずきんちゃんはエロスの象徴らしい、という過激な展開に…!

*   *   *

「赤ずきんちゃん」には、「バージョンちがい」が存在する。

もっとも知られているものはグリム童話で、最後には通りかかった猟師がオオカミの腹を裂き、無事におばあさんと赤ずきんちゃんを助け出す。

このラストはグリム兄弟の創作で、ペロー童話では、赤ずきんちゃんはオオカミに食われておしまいだ。

さらに、ちがうバージョンでは、オオカミが「ここで一緒に寝てごらん」と赤ずきんちゃんをベッドに誘うシーンがある。

画家か、もしくは絵の注文主は、わざわざその「ベッド・バージョン」の赤ずきんちゃんの場面を選択したわけだ。何を思ってそうしたのだろうか?

 

「画家はギュスターヴ・ドレ。19世紀後半の人で、フランスの挿絵画家、今でいったらイラストレーターでしょうね。ドレの銅版画は有名なので、誰でも一度くらいは見たことがあるんじゃないでしょうか」

『ペロー童話集』より、ドレによる銅板画の挿絵

――なるほど、名作絵本で見たような気がします。でも内容は同じでも、銅版画の方は、表現がマイルドというか、むしろ牧歌的ですね。カラーの方は、油絵ですか?

 

何だかぎょっとするような生々しさがあります。

 

「扉絵の方は油彩ですね。ドレは銅版画が多いのだけど、油彩でもすばらしいものを残しています。赤が利いてますよね。そしてこちらの方が、より赤ずきんちゃんの本質に近いかもしれません」

――本質と、いいますと?

 

「エロティシズムですね」

 

――エロ……?

 

赤ずきんちゃんがですか?

 

「赤ずきんちゃんのお話はとてもエロティックです。このお話の核が、『貞操の危機』にあることを、読者は無意識のうちに感じているはずで、それをギュスターヴ・ドレはうまく視覚化しましたね」

 

貞操の危機。それだ。この絵が発する異様さの源は。

気がつくと、同じベッドに寝ている異様なけだもの。少女の瞳は恐怖にふち取られ、毛布で胸元を隠す様は、明らかに乙女のそれだ。

 

「男はみんなオオカミ。わかりやすいですね。道を歩いていたらオオカミに話しかけられて……っていう展開。赤ずきんの原典である口承文芸は、自然発生的に生まれた話の語り継ぎなので、基本的にはイソップみたいな教訓はついてません。
でもペローは、脚色にあたって、現代風の、つまりペローが生きていた時代の、しかも宮廷人のための教訓を入れるのね。『若い娘さんたち、オオカミも色々だけれど、とりわけ優しそうなオオカミには気をつけるように』と」

 

たしかに言われてみるとその通りだ。言葉巧みに女の子を誘って食ってやろうというのは、まさに悪い男の所業そのものである。「男はオオカミなの~よ~♪ 気をつけな~さ~い~♪」という昔の歌謡曲もあった。

だが、ちょっとまってほしい。

どうして「悪い男」は「オオカミ」なのだろう?

 

肉食獣だから?

 

それをいうなら、トラやライオンもそうだ。

卑怯な手を使うから?

 

それなら罠(わな)で獲物を狩るクモはどうなのか。魚に寄生して栄養を横取りするヤツメウナギは?

「それはマイナーな生き物だから……」などと言わないでほしい。中世イングランドの王ヘンリー1世は、ヤツメウナギ料理の食いすぎで死んだといわれている。普通に知られている生き物だったのだ。

オオカミの狩りは、チームワークだ。

オオカミは群れで狩りをする。まち伏せたり、奇襲したりはしない。人間の一〇〇倍ともいわれる嗅覚で、数キロ先から獲物の匂いを嗅ぎつけると、ひたすら追跡し、相手が疲れたところを見計らって襲いかかる。

マンガによくあるような巨大な牙は、オオカミにはない。だが顎(あご)の力は、大型のイヌの二倍ほどの強さをもつ。

鋭い歯は獲物の皮や肉を剥ぎとり、骨まですりつぶす。ネコのように獲物を弄(もてあそ)んだりはしない。獲物は群れで分け合い、大型獣でも二、三時間で喰らい尽くす。

冷酷無惨。たしかにそうだ。だがやっていることは他の肉食獣と同じだ。やり口は、むしろ愚直といってもいい。

 

(つづく)

中野京子、早川いくを『怖いへんないきものの絵』

2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。
アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

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怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

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中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

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