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怖いへんないきものの絵

2019.08.14 更新 ツイート

異空間へタイムスリップ

【大きな旅・小さな旅】食欲の失せる魚市場…ほか未公開「怖いへんないきものの絵」対談〔再掲〕中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』シリーズの著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれた『怖いへんないきものの絵』は、過去や異国や異空間に一気にタイムスリップできる楽しい一冊。
“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を早川氏が見つけてきては、中野先生にその真意を尋ね、それに意外かつ刺激的な返答をする中野先生。おふたりの絶妙な対話空間も含めた、アートな旅をお楽しみください。

(聞き手・構成/編集部)

*   *   *
 

どうやって「怖いへんないきものの絵」を選んだか

――今回の本で、われわれ制作スタッフとしても面白いなぁと思ったのが、名画ではハエやサルといったおなじみの生きものが、今の感覚と全然ちがう姿に描かれているというところです。
怪物の絵などももちろん面白いのですが、身近な生きものが名画ではこんなに面白いことになってしまうのかという点は、発見が多くて読み応えがありました。

早川:奇妙な生きものが出てくる名画としてはブリューゲルやボッシュの作品が、あまねく知れわたっているので、そこからはずらしたほうがいいかなと思いました

――世に山ほどある生きものの絵から、早川さんが候補を探したときの、コツや基準はあったのですか?

早川:空想上の怪物などは、基本的にはずしました。神話上の動物などには、きっちり決まった背景もありますし。
現実にいる生き物が奇妙な描かれ方をされている絵の方が、より疑問が大きいんです。なぜ宗教画にハエがいるんだとか、こんな変テコなサメが実在するのか、とか。

中野:早川さんのおっしゃるとおり、話せることはあまりないですよね。画家のイマジネーションで描いている絵だから、解説を読むよりも絵画自体を観たほうが面白いですし。

載せられなかった幻の名画たち

――早川さんが持ってきた候補を見て、中野先生が掲載する絵を決めていきましたね。もう3年前になりますか。

早川:3年前ですか。企画は一瞬のひらめきでも、手間ひまはやたらとかかった本になりましたね。
候補作の中には、僕はやる気満々でも、中野先生にウケずにボツになったものも結構ありました。フクロウナギみたいな怪物が登場する、エドワード・バーン=ジョーンズ『大海蛇を退治するペルセウス』なども、中野先生にお見せしたら、「わぁ!」って言ってくれたので、反応アリ!と思っていたら、そのままスルーされたという

エドワード・バーン=ジョーンズ
『大海蛇を退治するペルセウス』
1888年 シュトゥットガルト州立美術館蔵

早川:あと、フクロウみたいなのがスケートをしている絵とか、ちょっとファンタジー寄りすぎて落ちたんでしたっけね。

エイドリアン・ピーターズ・ファン・デ・ベンヌ
『How Well We Go Together』
1614-1662年 コペンハーゲン国立美術館蔵

中野:ありましたね。あの生きものは手塚治虫の『鳥人体系』に出てくるキャラクターにそっくりだと思いました。

早川:絵画を漫画に例えるなんて、美術畑の人からは出てこない気がします。しかもマイナーな『鳥人体系』。

――中野先生の引き出しは、何が出てくるかわからなくて面白いですね(笑)。

早川:ほかには、砂丘みたいなところに馬の首が置いてあるだけの絵もありました。あまりに謎すぎて自分で推しておきながら、自分で見送りました(オッド・ネルドルム『Man with a Horse’s Head』)。
あとはフランス・スナイデルスの『魚市場』。描かれてるのは海産物なんですが、あきらかに「生き物」として描かれています。

フランス・スナイデルス
『魚市場』
1621年頃 美術史美術館蔵

中野:今考えてみると、あの絵は載せてもよかったかもしれませんね。当時の人はこういう魚を食べていたんだとか、そういう話が展開できたかもしれません。

早川:描写が生々しくて食欲が失せますけどね……。スナイデルスの描く魚介類は正確無比で文句のつけようがないんですが、でも逆に異様な生き物に見えるんです。

クレオパトラが自殺に選んだコブラ

早川:クレオパトラが毒ヘビを持っている絵も、当初の候補にありましたよね。

中野:2017年開催の「怖い絵」展にも来ていた絵ですね(ゲルマン・フォン・ボーン『クレオパトラの死』)。毒ヘビの種類は確かコブラだったかしら。

ゲルマン・フォン・ボーン
『クレオパトラの死』
1841年 ナント美術館蔵

早川:この毒ヘビを使って自殺したんですよね? やっぱりエジプト産のヘビなんでしょうか。

中野:そうなのですが、エジプトにいないヘビでも取り寄せていたようです。彼女は死後、みにくい顔にならないで眠っているように死ねる毒を見つけるためいろいろなヘビ毒を試したと言われています。

早川:ヘビ毒探しに任命された担当者も大変だったでしょうね。苦労して探しても「わらわはこんな死に方はいやじゃ」とか言われて、一からやり直しとか……。

中野:そうです。奴隷や死刑囚で毒の効果を試した場面の絵画作品もあります。
「怖い絵」展に来たクレオパトラ作品は、死後のシーンです。しかも裸体。必要もないのに脱がせて描いてある。画家はどうしてもヌードを描きたいようですね

早川:脱がせたがることについては、今の芸能事務所以上ですね。

――検索したら、クレオパトラの使った毒ヘビはアスプコブラだそうです。

早川:コブラは山ほど種類がありますからね。毒を吐いて敵を狙い撃つ、リンカルスなんてものもいます。毒液の水鉄砲を発射するんです

中野:そうですか!

早川:目に当たったら失明することあるそうです。狙いはかなり正確で、射程距離も3メートルぐらいあるんですよ

中野:怖い!狙われたら、逃げられない。噛んで毒をまわすより確実な攻撃方法ですね。

早川:ヘビ毒担当者も命がけだったでしょうね。

――「怖いいきもの」と「怖い絵」がばっちりシンクロしたところで、次のテーマに行きましょう!(つづく)

 

 

 

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中野京子/早川いくを『怖いへんないきものの絵』

2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。 アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

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怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

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中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

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