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怖いへんないきものの絵

2019.04.01 更新

うまいから胸を打つわけではないのが名画の面白さ中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』シリーズの著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれたのが、『怖いへんないきものの絵』です。
早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的! そんなお二人の「制作後記」、今回は「怖いいきもの」についてのこぼれ話をお届けしていますが、ついに最終回となりました!(聞き手・構成/編集部)

*   *   *

マリア・シビラ・メーリアン『コショウソウとピパ』 
『スリナム産昆虫変態図譜』挿絵

二人がもっとも「怖い!」と思った絵

――本書の中で、中野先生がいちばん「怖い!」と思う絵はどれですか?

中野:メーリアンの『コショウソウとピパ』でしょうか。怖いというか、気持ち悪い。でもそう言いながら、ちょっと実物を見てみたい気もします。
早川さんは、親ガエルの背中から子ガエルが生まれる瞬間の映像をご覧になりましたか?

早川:何度も見ました。でも中野先生がご覧になったらどうでしょうね……。
親ガエルの背中に穴がいっぱいあいてて、そこから子ガエルの手が出てきたかと思うと、びくびくっと震えながら飛び出してきて……。

コモリガエル

中野:まるでエイリアン! その部分は早送りすることにします。
ところで、早川さんにとっては、怖いとか気持ち悪かったという絵はどれですか?

早川:マックスの『美術鑑定家としての猿たち』のサルですかね。

ガブリエル・フォン・マックス
『美術鑑定家としての猿たち』
1889年 ノイエ・ピナコテーク蔵

中野:サル、怖いんですか?

早川:どいつもこいつも人相が悪くて、こんなのに路地裏でからまれたらどうしようかと
普通、動物が擬人化されたらかわいくなるのに、腹に一物も二物もありそうです。『怖い絵』の表紙のイカサマ女に通じるものがあります。

うまい絵だから胸を打つわけではない

中野京子氏(撮影:編集部)

中野:この本の出版後、私のブログに「これまで早川さんの本を読んだことがなかったけれど、面白そうなので読んでみます」とコメントをくれた人がいて、嬉しくなりました。

早川:それはありがとうございます。『ベツレヘムの嬰児(えいじ)虐殺』から「アニマル忍者武芸帳」の落差にずっこけなければいいのですが。

――読者の方からの声で「早川さんの文章によって、中野先生のチャーミングさが、より伝わって。こんなにかわいらしい方だったのねと思いました」というのもありました。
とくにお茶目なのは、エイのところですよね(編集部注:中野先生は小さい頃、エイに食べられそうになったことがある。詳しくは本書p81~)。

早川:「もえ~」となってる読者の姿が私には見えます。見える……見える……。

――中野先生の観点は、本当にいつも楽しくて、たとえば「この絵は下手ですね」みたいなこともはっきりおっしゃいます。

中野:本当はあまり言っちゃいけないんですけどね(笑)。
でも下手だからこそ個性と迫力が出る場合もあるので、技術の巧拙と芸術の評価の関係はむずかしいです。

早川:本書でとりあげたグースの『人間の堕落』も、ぼくは何かノドにつっかえたような違和感をおぼえたのですが、「洗練されていない表現にも美がある」という中野先生の説明を聞いて、ひざを打ちました。

早川いくを氏(撮影:編集部)

中野:古い絵は、遠近法が中途半端だったりすることがあります。そこに古拙の美があったり。うまいからといって胸を打つとも限りませんしね。

早川:それは現代のイラストレーションなんかにもいえそうです。ただうまいばかりでまるで類型的だったりとか、ありますからね。

中野:技術に長けていればいいというものではないですよね。オペラ歌手でも、自分の美声に酔って上滑りしていると、心に響いてこないこともありますし。

早川:われわれ素人にしてみると、名画を「下手だ」なんて言ったら軽蔑されるんじゃないか、という心理的な抵抗があって言えないんです。
でも中野先生がズバッと「これは下手です」と言ってくださると、「オレもオレも!」と後に続けるんです。
自分では先陣切って言えない。芸術については我々は常に小市民です。

実は魚って相当気持ち悪い

――「へんないきもの」つながり、ということではありませんが、大きなお魚の料理が出てきました!

中野:私、ちょっと、お頭つきは苦手なので、出てきたら必ず大葉で頭の部分を隠すということをしています。そういう女性、けっこういますよね。

早川:よく考えたら、魚ほど気持ち悪い生き物はないと思うんです。要するに頭が泳いでいるようなものじゃないですか。手も足も何もなくて、頭だけ。

中野:頭が泳いでいる! その表現はぴったりすぎて、さらに怖いです

早川:宇宙人が地球に来て魚を見たら、すぐ光線撃ちますよ。

スナイデルスの『魚市場』を観ると、我々はこんな気持ち悪いものを、しかも殺して食べているんだという異様な事実を再認識させられます。食べながら言ってますが。

フランス・スナイデルス
『魚市場』
1621年頃 美術史美術館蔵

中野:水の生きものはヌメッとしてますが、あの絵を観るとその感触が感じられますね。

早川:スナイデルスは、魚介類の、生き物としての気色悪さを絶対に意識して描いてる気がしました。そういう描写に淫したというか、一種の変態的な興味を覚えたんじゃないかと。中野先生のエイ嫌いとは逆に。

中野:子どものときって体が小さいから、エイをものすごく大きく感じたんですね。
実際はたいして大きなエイじゃなかったのかもしれないけれど、こちらは背も低いし顔も小さいわけでしょう? そこへ、ワーッとエイが顔を出したんですから。

早川:「エイがジョーズみたいに大きかった」っておっしゃってましたが、ジョーズの設定は体長8メートルです。8メートルのエイがいたら怪獣です。本書では少しくどくなるのでカットしましたが、ここで言わせていただきます。

中野:私の記憶の中ではそういう感じだったんです!

――動物の話で盛り上がり、脱線しては、名画の話、歴史の話……。この本の魅力をあらためて感じた、おふたりの対談でした。
お二人の組み合わせは、とっても意外性がありますが、実は、お互いがお互いの著書のファンだった、という奇跡があって、この本が生まれました。

早川:中野先生はこの本を『へんないきもの』の続編ととらえていて、私は『怖い絵』の続編ととらえているんです。何て素敵な関係でしょう!
そういうことをいつ編集さんが言ってくれるかと思っていましたが、全然言ってくれないんで自分で言いました

――あ、あの、へんで、怖くて、様々な知識満載で、すごく面白いこの本! まだお読みでない方、ぜひ手に取ってください!
すでにお読みの方、周りの人におススメしてください!

中野京子、早川いくを『怖いへんないきものの絵』

2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。
アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

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怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

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中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

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